プロローグ1:歴史的背景
◇◆
時は西暦二九九九年十二月三十一日。
長い地球の歴史において、また一つ新たな時代が始まろうとしていた。
―――西暦三千年へ突入―――
ここまで辿り着く間に、様々な歴史が積み重なってきた。
人が生まれ、集団を作り、国を形成し、争い、助け合い、そして今に至る。
西暦二千年の始まりから既に千年、誰が西暦三千年を予想しただろうか。
各国の景気は軒並み低迷、進み続ける環境汚染、無くならない人種差別etc……。
今から考えればこの千年は最悪だったのかもしれない。
特に二千から百年が過ぎた頃、人々の脳内に希望の二文字は存在していなかった。
―――魔物の誕生―――
それは唐突だった。
世界各地において、正体不明の謎めいた生命体が出現し始めたのだ。
呼称は国において様々、魔物、化け物、モンスター、あるいは神の使いetc……。
見た目も大きさも様々だったそれらの生命体が総じて行った行為、それは殺戮だった。
人の言葉を理解しているかどうかは定かではないが、懇願など聞く耳持たずといった様子であった。
突然現れては殺戮を繰り返す、そんな奴らに人間が黙って見ているだけの筈はない。
人類はあらゆる武力を行使し魔物の排除を開始した。
世界中のあらゆる地域で魔物殲滅が行われたが、人間が予想していたよりも魔物は強力でありしぶとかった。
強靭な肉体に拳銃、徒手空拳ではあまりにも効果がなく、戦車の砲弾や戦闘機の自爆特攻、それこそ核弾頭ミサイルで焼き払うなどでしか殲滅することは困難だった。
それに加えて魔物殲滅に最も困難であった要因、それは唐突に現れるということだ。
魔物の生息場所さえ把握できれば殲滅もいくらかは容易になるだろう、しかし実際は全く掴めなかった。
それにより部隊の到着がどうしても遅れてしまい犠牲者は増える一方、魔物が誕生して数年のうちに、多くの国が滅んでしまった。
しかしそんな中、人類にとって希望と呼べる者たちが現れた。
―――能力者の誕生―――
物理的、科学的にも説明のしようがない技、超能力を使う人間が現れたのだ。
ある者は雷を自在に操り、またある者は炎を操ってみせた。
能力者たちはその超能力を使用し、魔物の討伐を始めた。
能力者一人分の力量は従来の軍隊一つの軽く十倍。
軍隊は魔物一匹に数十人で挑みかかっていたことを考えれば、それはもう埋まることのない力量差であった。
能力者たちの加勢もあり、魔物殲滅……とまではいかないが、魔物討伐もはかどるようになった。
魔物一匹現れるだけで小さな町が一つ消えるほどであったのは最早過去の話、能力者一人いれば魔物の一匹や二匹わけでもない。
瞬く間に地球から魔物が消滅してゆき、いつしか魔物の姿を見ることはなくなった。
滅亡の危機からおよそ二百年、人類は再び安息の日々を取り戻したのだ。
ここまでが俗に言う『第一次人類滅亡紀』である。
第一次と名付けられたのは当時の人々から未来への皮肉だろう。
「また同じような時代が来る」という予感、そして「第二次を想定し、万全の対処法にて備えよ」というメッセージも込められている。
◇◆
さて、話は戻って西暦二九九九年。
滅亡紀を乗り越え人類は再び成長期を迎えていた。
しかし国が滅んでしまっては、文化文明も関係ない。
少数だが今残っている国々で未来を紡いでいくしかなかった。
いつしか生き残った国々は手を結び、一つの『連合国』を作り上げる。
元よりあった国境の差、人種の差、言語の違いなど関門は少なからず存在していたが、そのような小さな事柄など気にしている暇などなかった。
既に第一次にて軍事的、経済的にも協力してきたのだ。
今更協力を惜しむなどありえなかった。
この五百年余りで人類は飛躍的に進歩した。
滅亡紀の影響により大半が原始的な生活を余儀なくされていたが、ここでも役に立ったのが“能力者”である。
先に述べた通り能力者は超能力が使用できる。
『雷を操る者』、『炎を操る者』など、元となるエネルギーは容易に確保できた。
さらに都合が良いことに、能力者は『不老長寿』であった。
不老不死ではなく不老長寿、これの意味するところはつまり、『肉体的な成長がストップし、寿命という概念が無くなる』ということだ。
自身の手で死のうとする、あるいは他者の手によって殺されない限り死亡することはない。
各地に散らばった能力者たちは、第二次への備えとともに半永久機関としての役割を担うことになったのだ。
たちまち各国の都市は発展を続け、現在の状態に至る。
そして今、新年元旦午前0時を迎え、新たな時代が始まるのだ。
―――AM 0:00―――
「Happy new year―――」
来たる西暦三千年、歴史の節目、新時代。
もう二度とあんな時代など到来させやしない。 そのためには人類一眼となって動かなければならないはず。
もはや滅亡紀も過去の話、これからの地球、この世界は一変するのだ。
「―――これより、『日ノ丸連合国家』建国式を執り行います―――」
この、平穏で、安寧に満ち、平和の象徴のような時を―――永久に保ち続けるために……。
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