第08話 第2節「100万回ごまかされた猫」3
ハルスは、治に部屋の掃除を任せると、ふらりと部屋から出、城内の廊下を歩いていた。
「なんでだろう・・・、あたしはウィルソン王子が好きなはずなのに・・・。」
ハルスはそう言い、呆然と上を向いていた。
「あら、どうしたの、そんなところで。」
突然前からウィリエの声がし、ハルスは慌ててそちらを見る。
「恋わずらい?」
いきなりそんなことを言われ、ハルスはムカッとする。
「そんなわけないでしょ!」
「顔に書いてあるわよ?」
ハルスの顔は真っ赤であった。
「だっから、あたしはウィルソン王子が好きなの!ウィ・ル・ソ・ン」
「自分に嘘をついているの?それとも一度決めたことを貫きたいの?」
「貫く。あたし、治なんか嫌いなんだもん。」
「治が嫌いなら、ぼかぼか殴らないとねえ、」
と、ウィリエが挑発を含んだ声で言ったのでハルスは激怒した。
「するわよ、殴りもなんでも、死ぬまで!」
そう言い、ハルスはどすどすと歩き、部屋へ戻った。
部屋では、治が雑巾をかけていた。ハルスは床をふいている治の方へずんずんと行き、怒鳴る。
「棒でも持ってきなさい!」
「何で?」
「いいから、棒を持ってきなさい!」
「わ、わかったよ、」
美少女の剣幕に押され、治は慌てて部屋の中から棒と思しき物をハルスに差し出す。ハルスはそれを掴みさまに、治の頭に力いっぱいぶつける。
今朝のことで、ハルスも自分を好きではないかと思っていた治にとっては、不意打ちであった。いきなりハルスに棒で殴られたのである。
「あんたなんか、だっきらい!」
そう言い、ハルスは第二の凶刃を振り上げる。治は慌てて横へよけるも、ハルスは棒を横にバットの如く治の脇に力いっぱいぶつける。
「がががぎづ?」
治はそれ以上言うよしもなく、その場に倒れてしまった。ハルスは治を縛り上げて壁に放り投げ、さらに凶刃を振るう。治の体はとんとん痛めつけられ・・・。
しかしちょうどいいところで棒は折れてしまった。ハルスは二本になった棒をそこに放り投げると、棒の代わりを取りに部屋から出て行きばたんとドアを閉める。それとすれちがいさまにウィリエは部屋に入ってきた。
「こんにちは。」
ウィリエは治の前に立ち、声をかける。しかし治は返事をしない。
「こんにちは。」
ウィリエはしゃがみ、治に再度声をかける。しかし治は返事をしない。
「ねえ、」
とウィリエは、治の額に手を当てる。そして、そっと治の唇に、自らのそれをつける。
「あっ・・・。」
はっとしてウィリエが振り返ると、ドアにはハルスが新しい棍棒を持って立っていた。
「ね、ねえちゃん、」
ハルスは真っ白になっていた。
「やっぱり、これが本当の恋なのね。」
ウィリエはそう言い、立ち上がる。
「なに言ってんの、姉ちゃん。だから、あ、あたしは、ウィルソンが好きなの!」
「まーた、そんな事言っちゃって。」
と、ウィリエはハルスの肩をボンと叩くと、部屋から出て行きさまに、
「もしあたしと治が一緒になれるなら、治に甘い言葉をかけるわよ。あんたはどうなの?」
と、挑発口調で言ったものだからハルスはたまらない。
「待ってよ!」
「なーに?」
「いいかげん、そういうところやめてよ!」
「だーめ。」
と、ウィリエはドアを閉め、部屋から出ていってしまう。足音が少しずつ小さくなっていく。ゆっくり歩いている。揶揄しているのだろう。そう思うと、ハルスはすっかり真っ赤になり、治の前に行きしゃがむ。そうしてハルスはゆっくりと治の額に手を当て、治の意識がない事を確認すると、
「ほ、本命じゃないからね、」
と、ゆっくり、治の唇に自らのそれを合わせる。
治が起きたのは、その日の深夜であった。
治は目を覚ましざまに、はっと起き上がる。隣にはハルスが寝ていた。胴体のあちこちがずきずきしてくる。その痛みを感じているうちに、治の中で一つの思考が出た。
逃げよう。城から脱出しよう。暴力を振るわれるなら、乏しい営みをするほうがましである。治はこっそりベットから抜け出、部屋のドアを静かに開け、閉め、部屋から出て行く。治は城内の廊下を慎重に歩いて行き、やっとのことで下りる階段を見つける。
「待て!」
そう怒鳴られ、治はビクッとして後ろを向く。そこには、こちらに槍を向けた兵士が立っていた。
「君はこの前姫様に召喚された若者ではないか。こんなところでどうした?」
「あ、すいません、ちょっとハルスの許可を得て、散歩に行くところです。」
「散歩?こんな深夜に?」
「はい、俺、夜に散歩すると気持ちが落ち着くんです。」
治がそう言うと、兵士は、
「ウモライ国の工作員がいるかもしれない。そうやって人目に触れないところで、彼らは、」
「ちょっと待ってください、ウモライ国って何ですか?」
「知らないのか?モルデス国と何回も戦争をしている国ではないか。」
「はい?」
治は目を丸くする。兵士は更に続ける。
「モルデス45世様は、あさってにもこちらから攻撃をしかけるとしている。あ、いや、もう1時・・・明日だな。」
「そ、そんな・・・。」
「そして、その御大将として、治を試してみようとおっしゃっている。」
「そ、そんな・・・。」
治はますます逃げたい気持ちが募ってきた。
「明日は早い。早く寝なさい。」
「は、はい・・・。」
「モルデス45世様からのお告げでな、城外に出る事は許さん。」
「は、はい・・・。」
治はすっかり動揺していた。
次から第3節です。
毎週金曜日を休載にしたかったのですが、
運営している三国志NET KMY Versionで、
そろそろ第5期が始まるんです。
土曜日夜9時リセットの準備のため大忙しです。
・・・でも今鯖落ちしていますので日曜日になるかも・・・
とりあえず、三国志NETサーバーの状態によっては
土曜日も休止になるかもしれません。




