第46話 第9節「もともと地上に道はない 人が歩いても道にならないのだ」4
ハルスは、部屋の窓から外の景色を眺めていた。
彼女にとっては、モルデス46世が誰になるか、興味はなかった。ただただ治が帰ってくれば、それでいいのである。それ以外は何も求めていないのである。それは、同室で掃除をしているヴィーナスも同様であった。
ヴィーナスは思い切ってハルスに尋ねる。
「ハルス。」
「何よ。」
ハルスはそれだけいい、再び窓の方を見る。
「あのね、」
「帰れば。」
ハルスは外を見たまま返事する。
ウィルダム国では、ミライを受け入れるべきか受け入れざるべきか、改めて議論が沸きあがっていた。ミライを大将軍に任命する際は、王の一蹴で強制的に任命されたのだが、やはり国がここまで大きくなると、ミライを置くべきか不安になるのであった。全ての家臣が、感情的に議論した。感情的な議論の結論はたかが知れたものであり、残留派と追放派で国が真っ二つになってしまい、ついに決裂しほとんどの家臣たちは家に帰り戦いの準備を始めた。
治とタナトスは、匈奴の部落長の1人であるトンリの馬車を待っていた。
「見えてきました!」
タナトスが言うと、治もやぶから出る。二人ともみすぼらしいなりをしており、段々こちらへ近づいてくる馬車を止めた。
「道をあけよ。」
馬車に乗っているトンリが、二人に言う。しかし二人は顔を見合わせ、頭を下げて言った。
「この先は工事中でございます。」
ちょうどこのあたりはやぶが広がっており、少し前が工事中でも分からないほどであった。道もかろうして通っているほどの狭さであった。
「工事中か・・・、しょうがない。」
「少し長くなりますが、この道を戻ってくださいますよう・・・。」
「うむ、しかし、これからは分岐点に立つように。」
「はい。」
二人は一礼して、嘘のばれないようにきた道を引き返すトンリの馬車の後ろについて行った。
一方、匈奴では、仲直りの宴会がこれより始まろうとしていた。上座に座っている匈奴の元帥が立ち上がり、やってきた匈奴の部落長たちを見回した。
「ん?ドンリがまだ来ていないのだか?」
元帥が尋ねるが、部落長たちは、お互いの顔を見合わせる。
「そうか・・・、全員がそろわないと仲直りも意味がない。少し待とう。」
元帥はそう言い、改めて上座に座りなおした。
「分岐点だ。」
トンリはそう言い、馬車を止め、傍らの二人に声をかける。
「これからは分岐点に立って注意するものだぞ。」
「はい。」
二人が頭を下げると、トンリの馬車はそのまますっと、もう一つの道へ入っていった。
「遅い!」
「食事も冷めてしまう!」
「というかもう冷めている!」
すでに多くの部落長たちがいきり立っていた。
「落ち着け、落ち着け・・・。」
元帥が慌てて事態収拾を図る。しかし、部落長たちは、いらいらしているが故に言い争いを始めた。
「速く走れ!」
トンリが従者に怒鳴る。
「これが限界でございます。」
「ええい!」
トンリはいらいらした顔であった。
トンリは、1時間ほど遅刻して、会場についた。
トンリが会場に入るなり、多くの部落長から「遅い」の大喝采を受けた。
「いや、これは工事中で、」
「工事?」
部落長たちの目が一瞬光った。部落長たちは一斉に立ち上がる。
「このあたりに工事など一切ない!」
「でも確かに工事で、」
「嘘をつけ!」
部落長たちはついに取っ組み合いを始めた。いきり立っているのか、トンリ以外の部落長にも八つ当たりをするやつがいて、その場は修羅場と化した。事態を鎮静しようとした元帥は殴殺され、多くの部落長たちも殴殺された。
「これでわれわれの役目は終わりです。」
治とタナトスは、馬車に乗ってモルデス国への帰途へついていた。
「とにかく、モルデス王様にお会いして、」
タナトスが、いい加減という顔で治に言う。
「まだその話ですか。」
治は少し笑い、そしてまだ外の景色を見た。
「俺・・・、なんか、前にもこんな事をやっていたような気がするんですよ。」
「えっ?」
タナトスが言うが、治はもう耳を貸さなかった。流れ行く外の景色を眺めているのみの治の目から、涙が流れているのにタナトスは気づいていなかった。
「俺の本当の名は・・・、オサム・ル・ド・スイグラン・・・。」
治は外の景色を見ながら、ぼそりと言った。
「はい?」
タナトスが治に尋ねる。治は、後ろからの声に気づき、外を見たまま言った。
「俺のおじいさんが冗談半分で言ってたんだよ、俺の名前がオサム・ル・ド・スイグランだって・・・。」
「スイグラン?」
その名を聞いた時、タナトスは目の色を変えた。
最終話まであと4話!
次である第47話から、最終節に入ります!




