第44話 第9節「もともと地上に道はない 人が歩いても道にならないのだ」2
「タナトスを呼んでこい。」
モルデス45世は、書斎へ一人の使いを呼び、命令する。使いが書斎から出て行った後、モルデス45世は再度ヴィーナスに尋ねる。
「君は恋をしているか?」
「えっ?」
いきなりそんな事を尋ねられ、ヴィーナスは答える術がなかった。モルデス45世は微笑を浮かべ、それからヴィーナスに言った。
「君の生きたいように生きなさい。君の運命は君が決める。他の人に決められることもない。」
モルデス45世はそう言い、椅子から立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。
「しかし、時と場合によっては、他の人に制約されることもあるのだか。」
モルデス45世はこう付け加え、同時にドアのノックの音がする。
「入りなさい。」
モルデス45世は再度座って、言う。ドアが開き、中からタナトスが出る。
「お呼びですか。」
タナトスが一礼し、ドアを閉める。
「来なさい。」
モルデス45世に言われ、タナトスはモルデス45世の傍らへ歩み寄る。
「治を呼んでこい。」
「はい?」
「出発は明日に変更だ。」
「は、はい。」
タナトスは命を受け、一礼して部屋から出た。ドアが閉まると、ヴィーナスも言った。
「そろそろ、よろしいでしょうか?」
「いや、また聞きたい事がある。」
「何ですか?」
「君は、今までに恋した事はないのか?」
「あります。」
「誰だね?」
「私が家に住んでいた時の近所の男の子です。」
「名前は?」
「マルクスと言っていました。」
「マルクスか・・・。」
「おばあさんが死んでしまい旅に行く時に別れました。」
「そうか・・・。」
ここで、モルデス45世は、ヴィーナスが孤独の笑みを浮かべているのに気づいた。これ以上悲しい気持ちにさせることもあるまい。モルデス45世は言った。
「もういいよ。」
「はい、では。」
ヴィーナスは立ち上がって一礼すると、部屋から出た。ドアが閉まると、モルデス45世は、ソファーから立ち上がり机へ行こうとした。
「ん・・・?」
モルデス45世は、体の痛みを覚えた。
「ぐわっ・・・」
モルデス45世は、口を手で押さえる。しかし指の間から血が漏れる。
「ううっ・・・。」
モルデス45世は、なんとかして椅子に座って楽に、と、力を振り絞り椅子に座る。しかし椅子に座っても楽にはなれなかった。
「うっ・・・!」
モルデス45世は、もはや口を手で押さえる気力もなかった。口から大量の血が一気に出た。モルデス45世の頭は、机の上に落ちた。
「オサム様!」
馬に乗ったタナトスは、街から出て行ってしまった治の乗る馬車を追っていた。
「ん?」
自分への呼び声に気づき、治は後ろを振り向く。後ろには、タナトスが馬に乗ってこちらへ向かっていた。
「馬車を止めて。」
「はっ。」
治に言われた従者が馬を止めると同時に、タナトスは治の二人用の馬車の横へ追いつき、馬を止めた。
「何?」
治に問いかけられ、タナトスは汗ばんだ顔で治に言った。
「戻ってください!」
しかし、治はしばらく考えてから、タナトスに言った。
「ちょうど手先が一人ほしいなあと思っていたんだけと。」
「とにかく戻ってください!王様の命です。」
「この機会を逃したら統一は出来ません。」
「は、はぁ?」
「今、匈奴の中では仲直りの動きが出ていると聞きました。事は一刻を争います。どうか一緒に乗ってください。」
「いいえ!」
タナトスは言うが、治はタナトスの腕をくいぐい引っ張る。
「今戻ったら、匈奴の間の分裂は実現できません。」
「一日くらい、」
「一日でもだめです。一日でも遅れたら、手を結ばれてしまいます。」
「は、はっ、とにかく戻って、」
「とにかく、俺は行きますと、王に伝えてください。」
治はそう言い、従者へアイコンタクトをする。従者は黙って馬を走らす。
「ま、待ってください!」
「なら、一緒に乗ってください。」
治が言うと、タナトスは馬を乗り捨てて馬車に飛び乗る。
「はぁはぁはぁ・・・。」
タナトスは荒い息をつき、それから治に言った。
「お戻りください!」
「戻らない。」
「王の命でございます!」
「それでも戻らない。」
「何で一日がそんなに大切なんですか!」
「事は一刻を争っています!とにかく行くしかありません!」
「そ、そんな・・・。」
タナトスはそう言い、あきれた顔をして外の景色を眺める。外はすでに荒地となっていた。
あと6話で最終話です!
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