第38話 第8節「それだから隠すのだ。次いて恋、フィロストラトス以外」2
ハルスの部屋で、モルデス45世は床に散らばっている羽根のひとつを拾う。その羽根は茶色であった。その色と羽根の色彩を見て、モルデス45世は顔をしかめて言った。
「間違いない・・・、あいつだ。」
モルデス45世の傍らでは、長谷川健治がいた。
「じい。」
モルデス45世が健治に声をかけると、健治は答えた。
「はっ。」
「治を連れてこい。」
「はっ。」
じいはそう返事をすると、部屋から出て行った。だんだん小さくなる足音を聞きながら、モルデス45世は改めて羽根を眺める。
「イファガラが動き出したか・・・。」
「はい?」
治は、女子トイレの個室で、ヴィーナスと二人だった。いきなりヴィーナスに裸になれと言われ、治は自らの耳を疑った。
「だ、だから、裸になってください。」
ヴィーナスに再度言われ、治は顔を真っ赤にする。
「あ、あのさ、こんなところで・・・、」
「誰も見ていません。」
「だ、だから・・・。」
真っ赤になっている治の目の前で、ヴィーナスは静かに服をぬき始める。
「ち、ちょっとやめて・・・。」
「やめない。」
頬を赤らめ、ヴィーナスは答えた。ヴィーナスは、抜きながら治に尋ねる。
「あたしとハルスとどっちが好きなのですか?」
「ハルス。」
「自分の本当の気持ちよりも命の方が大事なのですね?」
そう言われ、治は口をつぐんだ。確かにそういった要素もあるかもしれない。ハルスは乱暴で、わがままで・・・。治の頭の中は、一気にハルスの欠点でいっぱいになった。
「そ、そんなことはない・・・。」
治が再度ヴィーナスに言うころには、ヴィーナスはもうすでに抜き終わっていた。
「着ろよ。」
治は、ヴィーナスが下に置いた服を拾い上げ、横を向きヴィーナスに差し出した。
「抜いてください。」
ヴィーナスは、治の差し出した服を、それをつかむ手をばちんと叩いて落とした。治が再度それを拾おうとしゃがむと、ヴィーナスは治の脾腹をつかむ。
「何だよ?」
治が立ち上がると、ヴィーナスは治の服を抜き出した。
「ち、ちょっと、何を、」
治が顔を真っ赤にして抗うが、ヴィーナスはその手を払いのけて治の服を抜き終わると、スポンに取り掛かった。
「ち、ちょっと、」
治が顔を真っ赤にして、ヴィーナスに怒鳴る。
「やめろよ!」
「やめない。」
ヴィーナスはそう言い、ついに治のスポンを抜いてしまった。治が服を拾おうとするが、ヴィーナスは治の股間を蹴り上げ、パンツまで引っ張った。
「やめろよ!」
殴打もやむなしと、治はヴィーナスの頭を殴る。しかしもうすでにヴィーナスは治に抱きついていた。
「あっ・・・、」
と、ヴィーナスは声にもならぬ声を出した。
「だ、だから・・・、」
「あら、こんなところで何をやってるの?」
いきなり傍らから第三の声がし、二人は顔を真っ赤にしてそこを見る。鍵をかけたはずのドアは開き、そこからウィリエが姿を出していた。二人はじりじりと退る。無理もなかった。二人とも全裸だったのだから。ウィリエは、笑みを浮かべて、ヴィーナスの頭を平手で叩く。
「だめでしょ、こんなことをしちゃ。」
「・・・・・・。」
ヴィーナスは黙り、下をうつむいた。
「さあ早く服を着なさいよ。」
ウィリエが、二人に優しく言う。それから、スポンをはき終わった治に声をかける。
「あなたのご主人様が誘拐されたのよ。」
「はい?」
治は耳を疑った。
服を着終わった治は、トイレからかけだし、ハルスの部屋へ走り出した。その後に同じく着終わったヴィーナスが「ちょっと待ちなさいよ、」と言いながら走ってついていく。
治はノックもせずに部屋のドアを開ける。ドアを開くなり、治の目に飛び込んできたのは、たくさんのガラスのちり、大きく割れた窓、そして床に落ちている茶色の羽根。
「おはよう。」
声をかけられ、治は慌てて横を向く。モルデス45世が、ドアの隣の壁にもたれていた。
「王様、おはようございます。」
治は、ちょっと恥ずかしそうに答えた。
「見てのとおりだ。」
モルデス45世に再度言われ、治は下をうつむいた。
「お恥ずかしい限りです。」
「どこにいた?」
「トイレです。」
モルデス45世は一区切りつけて、治に言った。
「ハルスを奪還するまで、2週間の休養は取り消しだ。」




