第35話 第7節「君の後ろの戦争は勝った 君の前の戦争は」6
「するいわよ、そんなこと!」
ベットから降りて、ヴィーナスはハルスに怒鳴る。
「はぁ?部屋の主に命令する気?」
ハルスは杖をヴィーナスに向ける。
「魔法を使うなんで卑怯!」
ヴィーナスが怒鳴るが、ハルスはそれを一蹴する。
「あたしに残された唯一の抵抗手段だから。」
「他にもあるじゃない!」
「ない。」
「いや、あると思うよ。」
治がその場に割って入り、ハルスを見つめる。ハルスは黙って治の頬を叩く。
「あんたも男なら、あたしの意見に同調しなさい!」
「い、いや、本当のことだし・・・。」
「へー・・・。」
ハルスは意味深長な笑顔を治に見せる。治は嫌な予感がした。治は後退りをし、ドアの方へ近づいていった。ハルスは黙って、杖を治へ構え、呪文を唱えた。
「フロート」
治が爆発すると思いきや、ハルスと治は唖然とした。事情を知らないヴィーナスは、唖然としている二人を見て唖然としていた。治の体は、空中に浮いていた。
「何で・・・。」
ハルスは、眼を丸くして持っていた杖を見つめる。治は、ドアの上端あたりまで浮いており、何とか降りようとあがいていた。
ハルスはしばらく考え、それからにいっと不気味な笑みを出した。
「治!罰を変更!あんた、今日一日あたしの魔法の実験台になってよ?」
治は真っ青になった。それならば前の方がまじである。これは偶然で、次からすっと失敗で、殺されるかもしれないのである。
「ちょっと、やりすぎじゃないの。」
ヴィーナスが後ろからハルスに怒鳴る。それを黙って聞いたハルス、治の方を向き治に尋ねる。
「ねえ、あんたはあたしとヴィーナスの意見のどっちに賛同する?」
治は真っ青になった。意見に賛同するという事は、女を選ぶことである。いやはやどちらもかわいいのだが、問題は意見の正当性以前に自分の命である。正当性がある意見は、当然ヴィーナスのほうである。しかしヴィーナスの意見に賛同したらハルスに殺されるかもしれない。かといって、逆境に置かれても正義を貫く男に、治はなりたかった時を、この時に限って思い出してしまったのである。
なかなか治が返事しないのを見て、ハルスは黙って杖を小さく振る。治の体が上下逆さまになり、ヴィーナスは真っ青になった。
「とりあえず成功のようね。」
ハルスが微笑を含めた声で言った。
「ち、ちょっとひどすぎます!」
ヴィーナスが怒鳴るが、ハルスは毅然とする。
「さあ、頭に血が全部行ったら、速く決められるわよね?」
「そ、そんなぁ・・・。」
頭に血が全部行ったら、紛れなく死んでしまう。速く決めなければいけない。命にかかわることなのだから。
「また?」
ハルスが聞くが、治は、命の危険に瀕しても思い悩んでいた。しかしそれも長くは続けられなかった。意識がもうろうしてきた。ここはどう考えても命の方が大事である。命の危機に瀕すると、安全な選択をする。その人間の本能がすっぽり出てきてしまった瞬間であった。
「ハルス!」
治は、力を振り絞って叫んだ。
「ありがとう。」
ハルスは優しい声で、杖を軽く振る。治の体の魔法が解け、地面に落ちる。
「あたた・・・。」
腰をさする治に、ハルスは飛びつく。
「治、大好き!」
ハルスのあったかい体に抱かれ、治は頬を赤らめた。悔しそうにヴィーナスは、それを見ていた。
「何ですか、これは!きちんと正攻法で行きましょうよ、ハルス!」
ヴィーナスが怒鳴るが、今のハルスには馬耳東風だったらしく、これっぽっちの反応さえもしない。それところが、治にさらに声をかける。
「ねえ、あたしの魔法の練習に協力してくれる?」
これを聞いたとたん、治は、ハルスの方を選んでしまったことを後悔した。死んでもいいからヴィーナスの方がよかった、というかどっちを選んでも死んでしまう。治は顔を真っ青にし、ハルスではなくヴィーナスの方を見つめる。ヴィーナスは、悔しそうな顔をして、終始そこにぼつりと立っていた。
やっとこれで1週間か、と思ったあなた、
小説しっかり読んでくださいよ。
休暇の2週間のうち、2日目なんですよ。




