第33話 第7節「君の後ろの戦争は勝った 君の前の戦争は」4
この世界に、電気なるものは存在しなかった。それが故に空気はきれいで、人が密集していても汗を吸った気がしないほど透き通っていたのだった。しかし電気がないはないで不便で、王族の場合魔法で杖の先に光を点らせるのだった。
まず、ハルスは、ウィリエに怒鳴る。
「まずね、この女の子が勝手に乗り込んできたの。」
「乗り込んでなんかない!」
ヴィーナスが反論すると、ウィリエはハルスに尋ねる。
「まず、最初から聞いていい?ヴィーナスはなぜこの部屋で寝ているの?」
「あたしの顔を見たら勝手に倒れただけよ。」
「ハルスの顔を見るまでは?」
「治に連れられて・・・。」
ハルスがそこまで言うと、ウィリエはヴィーナスの方を向き、尋ねる。
「なぜここに来たの?」
ヴィーナスは、少ししどろもどろとして答えた。
「は、はい、タナトスさんをここに連れてきて、そしたら王様にここにいろと言われました。」
「へぇ。」
ウィリエが相打ちを打つと、ハルスは大きな声で怒鳴った。
「とにかく、こいつをこの部屋から追い出して!」
「なぜ?」
「こいつね、あ、あたしを殺そうとしてるの!」
「殺さない!」
ヴィーナスが反論すると、ウィリエは言った。
「ある意味殺しね。治を取られたら寂しくて?」
ハルスは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「そ、そんなこと、ないんだから!」
「へー・・・。」
ウィリエがハルスを横目で見ると、ハルスはさらに顔を真っ赤にした。
「だ、だから、」
「はい、おしまい。で、君は何で言うの?」
ウィリエは、ハルスを無視してヴィーナスに話かける。
「ヴィーナスと言います。」
「ヴィーナス・・・、素敵な名前ね。」
「素敵じゃない!」
ハルスが怒鳴ると、ウィリエは杖を取り出す。
「人が話しているのにでしゃばったら・・・。」
ウィリエに言われ、ハルスは激怒した。立ち上がり、杖をウィリエに構える。
「お姉さんに杖を向ける気?」
ウィリエは、しゃかんだまま冷静に応対する。ハルスは怒鳴って反論する。
「うるさい!それに、あんたなんかお姉さんじゃないから!」
ハルスがそう言うと、ウィリエは急に顔をこわばらせる。立ち上がり、ハルスに杖を構える。
「それだけは言わない約束でしょ?」
「あら?赤の他人である以上あんたとなぜ仲良くしなければいけないの?何であんたと顔をあわせなければいけないの?」
「ち、ちょっと、何の話ですか?」
ヴィーナスが横から聞く。ハルスとウィリエははっとお互いの顔を見合わせ、黙って座る。
「とにかく、あれは渡さないから!」
ハルスは、敵対の目つきでヴィーナスに怒鳴る。
「何のこと?」
ヴィーナスは、笑顔でハルスに話しかける。その笑顔を見ると、ハルスは胸がむかむかしてきた。絶対こいつにだけは負けられないという感情が募ってきた。
「絶対、あんたがくたばるまで持ちこたえてみせるから!」
ハルスはそう怒鳴り、傍らで寝ている治を無理やり起こす。治は座ったまま背伸びをして大きなあくびをすると、ハルスに怒鳴りかける。
「何だよ、さっき蹴っておいて起こすなんて・・・。」
治がそう言うと、ハルスは治に、優しい声で語りかける。
「あたし、大好きでしょ?」
「はぁ?」
「とぼけたってだめよ?」
ハルスは、笑顔で治の足に自分の頭を乗せる。
「お、おい?」
治は疑問を持った目つきで、ハルスの頭を見つめる。
「ねぇ?あたしのこと好き?」
ハルスが尋ねると、治は拒否する。
「何なんだよ、昨日まで蹴っておいてそれはないだろ。たいたいお前はウィルソンが・・・。」
「ウィルソンって誰?」
わざとらしい声で、ハルスは治に尋ねる。
「何だよこれ?ハルス、壊れた?」
治は視線をウィリエに変え、尋ねる。ウィリエは治が尋ねるなりくすっと吹き出した。
「何なんだよ?」
治が尋ねるが、ウィリエは笑いながら言った。
「何でもない。」
「・・・・・・?」
治は、再び自分のあぐらの足に乗せているハルスの頭を見つめる。その様を見て、ヴィーナスは、自分とハルスの感情を悟った。しばらく考え、それから横目でハルスに言う。
「それじゃ、あたしに勝ったことにはならないわよ?」
勝ち誇っているというか、いつから勝負をしていたのかわからないけれと成り行きで勝負をしているような声であった。




