第30話 第7節「君の後ろの戦争は勝った 君の前の戦争は」1
その少女は、端麗であった。タナトスを車椅子に座らせ、ザディアム城の方へ向かっていた。
「ごめんなさいね、足までは治せなくて。」
少女がすまなそうに言うと、タナトスはそれを宥める。
「いいよ、死ななかったことだけでも。」
それから、タナトスは、頬を赤らめて何か言う。
「そ、そのさ・・・、」
「妻はいます?」
あっさり少女にこう言われ、タナトスは言いにくくなってきた。
「あたしね、今までにも何回も、助けてきた人から結婚を迫られてきました。」
「何回もって・・・、何歳なんだ?」
「18歳・・・。」
「18年にしては短すぎないか?」
「ううん・・・、あたし捨て子だから、旅していました。」
「旅・・・、あの鳥に乗って?」
「はい・・・。」
少女はそう言うと、孤独な表情を見せた。それを見てタナトスは、自分まで悲しくなってきた。
「お母さんとお父さんを探して・・・。」
これがさらに空気を重くした。タナトスはこの雰囲気を除けんと、話題を転換した。
「あのさ、今まで恋したことはないの?」
「・・・・・・ありません。」
「そうか・・・。」
さらに空気が重くなり、タナトスは再び話題を転換する。
「もうすぐ城だよ?」
タナトスがそう言うが、少女は聞いていなかったらしく、少女の傍らを飛んでいるフロートの頭をなでていた。
「そういえばさ、名前を聞くのがまただったんだけと?」
「名前・・・?」
少女は困窮の表情を見せた。
「親がいなくてどうやって名前を決めるのですか?」
「・・・・・・、自分で名前を決めたら?」
「自分で・・・・・・。」
少女は下をうつむいた。さらに空気が重くなり、タナトスは耐え切れなくなった。
「あのさ、もうすぐ城だよ!」
「・・・・・・。」
返事もなく、タナトスはこれ以上話をする気がなくなった。
モルデス45世の書斎に衛兵が入ってきたのは、昼ごはんを食べ終わったばかりの時であった。
「何だ?」
モルデス45世は、書斎の机の向かいに立っている衛兵に尋ねる。
「タナトス将軍が帰って来ました。」
「何?タナトス将軍は死んだはず・・・。」
「それが、少女に助けられて一命を取り留めたようです。」
「とりあえず、ここに通せ。」
「はっ。」
部屋から出て行く衛兵とすれ違いに、治が書斎に入ってくる。
「何だ?」
モルデス45世が尋ねると、治は答える。
「少し世間話でもしませんか?」
「ははは・・・、まだハルスに嬲られたな。」
「・・・・・・。」
治は少し気まずそうな顔をした。
「世間話なら、私でなくても・・・。」
モルデス45世がそこまで言いかけた時、ドアのノックがする。
「治、そこにかけなさい。入れ。」
モルデス45世は椅子から立ち上がる。ドアが開き、中から一人の衛兵と一人の少女と、車椅子に乗ってきたタナトス将軍が入ってきた。
「タナトス将軍か?死んだはずでは・・・。」
「それが、この少女に助けられて、命を取り留めました。」
最初から何でも知っていると気持ち悪がられるのて、無知の姿勢で尋ねる。モルデス45世がいつもする話し方であった。
「この少女が?」
モルデス45世は、タナトスの車椅子を押している少女を見る。
「名前は?」
「ありません。」
「名前がない?なぜ?」
「・・・・・・あたしは、捨て子です。」
「何?」
「生まれてすぐに捨てられました。」
「何?それでは生きられないはずでは・・・。」
「はい、おばあさんに拾われました。その後、物心がついてから母と父を探す旅に出ました。」
「旅か・・・、大変そうだな。そこにかけよ。」
「はい、」
と、少女は治の隣の椅子に座る。それを見て、モルデス45世も座る。
「衛兵は下がれ。」
「はっ、」
と、衛兵が部屋から出ると、モルデス45世はさらに少女に問いかける。
「親について力にはなれないかもしれないか。」
「はい・・・、あたし、お母さんとお父さんの他にも、調べている物があります。」
「何だ?」
モルデス45世がそう言うと、少女は、
「あたしがおばあさんに拾われた時に握っていたものだそうです、」
と、脇から一本の杖を取り出した。それを見て、治、モルデス45世、タナトス、そこに居合わせた3人は眼を丸くした。
「王族!?」
モルデス45世は思わず立ち上がる。
「君はどこの国の王族か!?」
「王族って・・・なぜ王様があたしを捨てるのですか?」
「・・・・・・。」
「それから、この棒は何か知っていますか?」
「い、いや・・・。」
「そうですか・・・。」
少女は孤独な顔をして、下をうつむく。モルデス45世は、杖を見ながらゆっくり座り、しばらく考えてから、ひとつの提案をした。
「な、なぁ・・・、孤独な身では可哀想だろう。しばらくの間、ここに住まないか?」
「いえ・・・、」
「君には調べたいことがあるかもしれないが、こっちにも調べなければいけないことができた。」
「・・・・・・後で来ます。」
「君・・・、人生というのは一期一会なんだよ。一度会っても、次にまだ会えるとは限らない。たとえ両方が望んでいてもね。」
「・・・・・・。」
「返事は?」
「2週間で結構ですか?」
「2週間・・・。」
その数字が、昨日挙がった数字と一致していて、モルデス45世はしろっと治の方を見る。治は黙って首を振る。それを見て、モルデス45世は言った。
「少し短いが、よかろう。」




