第03話 第1節「長いトンネルを抜けると殴られた」3
その日は土曜日だった。治は、一人の少女檸檬と、駅前を歩いていた。
檸檬は治の恋人であったが、その関係は伏せている。檸檬に命の危険が及びかねないからである。
檸檬にはおしとやかなところがあり、治はそこを気に入っていたのである。よくもてる人ほどおとなしく気の弱い人を好むと言うのが恋愛道の法則であるとかいった本が売られていた時分もあったが、二人の現はその内容とほとんど似ていた。
「ねえ、まずどこに行く?」
と、檸檬は治に尋ねる。
「まずレストランで昼食を取って、」
と、治は檸檬の手をつなぐ。檸檬の顔が真っ赤になっているのに気付いた治は、尋ねる。
「どこのレストランにする?」
「・・・・・・・・そ、そ、そば・・・」
「そばがいい?」
「・・・う、うん・・・。」
「じゃ、そばにする?」
治が言うと、檸檬はゆっくりうなずく。
「あ、あれにしない?」
「うん、そうしよう。」
治も同調し、二人はとあるそば屋に入った。
一方、こちらでは、イパバート池のほとりで、一人の少女、そしてそれの付き添い達が集まっていた。
少女、ハルス・トルエンディング・ド・モルデスは、池のほとりで一番広い草原の中心に立ち、付き添い達はそれを囲むように、できるだけはじっこへ下がり、円状にハルスを囲んでいた。
「呪文を、」
付き添いの一人、モルデス45世はハルスに促す。ハルスは決心したようにうなずく。
ハルスには、どうしても好きでたまらない人がいた。ウィルソン王子である。ウィルソン・ラヴァルト・ド・ザディアムは、モルデス44世とザディアム11世の親睦の会合の時、初めて顔をあわせ、隠れてこっそり話したりしていた。そのうちハルスはウィルソンの性格が気に入ったのである。なので、ハルスはウィルソンと結婚したいと望んでいた。
ハルスは、ウィルソンを召喚し自らの結婚相手にする事を望んでいた。召喚の儀式は、昔結婚相手を選びあぐねていたどこぞやの国のお姫さまがしたのがはじまりで、今ではほとんどの王族が、15歳の誕生日に10歳台の未婚の異性を召喚する事になっていた。召喚されたものは召喚した人と1年以内に結婚しなければならず、さもないと死刑というとんでもない掟を決めたのは、何回も否定され何回も召喚するのをめんどくさかったどこぞやの王子が取り決め、全国に広がった。
ハルスは、しばらく何か言いたげにもじもじしていたが、ようやく意を決したように唇をかむ。それていて、杖を目の前の虚無の空間に掲げる。
ラヴァ・オレガム・ワウェイォ・ファクァムダ・・・
ハルスは目を瞑り、呪文を唱えはじめる。
「きつねそば、ください。」
「あたしもきつねそばです。」
治と檸檬は、そば屋の一席に座り、来た店員に注文をしていた。
「はい、承りました。しばらくお待ちください。」
と、店員が行ってしまった後、窓ガラスから外の、道路に車が行き違っている景色を眺めていた檸檬は、やがて景色を見たまま治に言う。
「おなか、すいたね。」
「うん、」
と、治も檸檬につられて外の景色を眺める。
「昔はここもきれいだったのにね、」
と、檸檬が寂しげにつぶやく。
「もし俺が市長だったら緑豊かな町をモットーに、」
と治もつぶやく。
「緑が足りないの?これでも。」
と、突然前から不機嫌そうな女の声が聞こえる。
「何だよ、檸檬、お前も・・・。」
と、治が振り向く。
「・・・えっ?」
治はびっくりして立ち上がる。治の目の前には、一人の少女がいた。
「誰、あんた。」
その少女に言われるが、治は大声で怒鳴る。
「檸檬はどこだ?ここはどこだ?」
と、治は周りを見回しながら言う。周りには、ただ木。そして少女の後ろには池。そして人がここを囲んでいたが、全ての人が倒れていた。
「それはこっちのセリフよ。」
と少女は治の股間を蹴る。
「いてえよ、」
と治は股間を手で押さえ、少女に抗議する。
「あたしはハルス・トルエンディング・ド・モルデス。あんたは?」
突然そう言われるが、治はたじろいだ様子もなく、怒鳴る。
「その前にここはどこなんだよ?」
そう言うと、ハルスは治の頭を殴った。
「少なくともウィルソンじゃないのね。」
ついに召喚されてしまいました。
これからどうなるのか・・・???
それは、僕にも分かりません。
僕の指に聞いてください。




