第22話 第5節「逃げろメロス」5
数人の兵士に囲まれ、一人のみずぼらしいなりをした少女が部屋に入る。その少女が顔を見上げるなり、モルデス45世は驚き、兵士達に、
「これ、下がらぬか。」
と言う。兵士達が下がると、少女はモルデス45世の方を見上げる。
「ウィリエ?」
モルデス45世は、ウィリエに尋ねる。
「なぜここに?」
「・・・・・・ザディアムの城が乗っ取られました。」
「何?」
「ギルモの旗が立っています。」
「何?」
その話を聞き、風邪であった治は急に飛び上り、ウィリエの前へ行こうとする。モルデス45世は治の胸を押さえ、
「これ、風邪がうつるぞ。」
と言う。
「ハルスのことでしょ。」
ウィリエはにっこりと、治に言う。治の顔は急に真っ赤になる。
「寝てます。」
治はベットへ戻り、急いで横になった。それを見てくすっと笑ったウィリエは、モルデス45世を見上げる。
「ハルスはどうした?」
モルデス45世がウィリエに尋ねると、ウィリエは重い声で答える。
「行方不明です。」
「何?」
治はこれを聞いていたが、一生懸命寝た振りをしていた。ウィリエは治の傍らに行くと、治を見下ろして立ったまま話しかける。
「治ったら?」
「意地でもいかねえよ、」
治は、真っ赤になった顔を毛布で隠して答えた。
「何でそんなにすねるのよ。」
「・・・・・・。」
「わかった、あんた、召喚される前に婚約者がいたんでしょ。」
「なぜそれを・・・?」
「ハルスも同じような性格だから。」
「えっ?」
治は思わず毛布を除け、顔を出す。
「一度誓った事は、絶対に覆さないの。似てるわね。」
「・・・・・・。」
治はうつむいたまま起き上がる。
「俺さ・・・、ハルスのことが好きになってしまって・・・。」
「そう、それくらいがいいわね。」
「でもさ・・・、ハルスの顔を見るたび檸檬・・・恋人の顔を思い出しちゃってさ、」
「分かる、その気持ち。別れてもいないのに新しい異性を素直に好きにはなれないでしょ。」
「・・・・・・。」
治は黙って窓の方を見る。ウィリエは、モルデス45世の方を振り向き、尋ねる。
「鎮圧はいつ?」
「治の病気が治ってからだ。」
と、モルデス45世は答え、それから治の横へ歩み寄る。
「治はここを守れ。ハルスは私直々取り返す。」
「え、でも・・・。」
「感情的になっては判断を誤る。」
「・・・・・・。」
治はうつむく。モルデス45世は、更に付け加える。
「心配している暇があったら、残り5つの城を全て落とせ。ここには10万ほど軍勢を残しておく。」
「・・・・・・。」
ハルスは、地下の牢屋の檻から、向かい合っている檻を眺める。しかしそこには誰もいなかった。ハルスは更に寂しい気持ちになり、窓も何もない古びた檻の中で、一人壁にもたれ座り、手を顔にあわせて泣き始めた。そして、ハルスは、言ってしまった。絶対に口にするまいと誓ってきた言葉。
「助けて、治・・・。」
しかしその後にハルスは、恨みなどではなく純粋な涙を流し始めた。ハルスは再度つぶやいた。
「治・・・・・。」
次の日の朝、治の風邪は治った。それに付け加え、モルデス45世は40万ほどの兵を率いて、ザディアムの城の反乱の鎮圧に向かった。治は10万の軍勢で、ウモライの首都をペンタゴン状に囲んでいる残り4つの城(砦)を落とす事になった。
治率いる軍勢は、ペンタゴン状に囲んでいる5つの城を一周して、今夜までにライアンの城へ戻る事になった。そして、明日はウモライの首都を落とす。それは治の独断であった。しかし、治は一生懸命は考えなかった。ハルスのことで思いがいっぱいで、早くここを落としてハルスを助けたい、この手で、と治は思った。
治は的確な指揮で、夜とまでは言わず、夕方まてに4つの城を全て落とし、ライアン砦に戻った。
治は、荒野を走っていた。もうすぐ夜になる、夕方で真っ赤になっている空の下で、荒野を走っていた。ふと、目の前の裂け目からうめき声がする。
「助けて・・・。」
治はその裂け目の方へ駆け寄り、かすかに出ていた手を両手で一生懸命に引っ張る。
「治?治でしょ?」
裂け目から再び声がする。
「ハルス・・・、今助けてやるからな!」
治がそう叫んだと同時に、裂け目からすぼっと人が、治に引っ張られて出てきた。その少女は顔を上げた。
「ひっ!?」
治は真っ青になった。さっき治が引っ張った少女は、ハルスではなくウィリエであった。
「将軍様・・・?」
兵士達のこの声に反応して、治はベットからばっと起き上がる。
「夢か・・・。」
「将軍様・・・。」
一人の兵士が、治に言う。
「魘されてございます。何か悩みでも・・・。」
「たくさんの人を指揮する人は自分も自分で指揮するから、」
と、治は無理したような顔で言った。そして、窓から空を見上げる。外は薄暗く、治は言った。
「もうすぐ夜か・・・。」
「いいえ、朝でございます。」
後ろから兵士に言われ、治は体を石の如く固くする。それから急に兵士の方を振り向き、怒鳴った。
「何で起こさないんだよ!?」
「いくら起こしても起きないので・・・。」
「・・・支度だ。」
「既に出来ております。後は将軍様でございます。」
兵士にこう言われ、治は真っ赤になった。恥ずかしいのである。最高に恥ずかしいのである。
「わ、分かりました・・・。」
治は小さな声でそう言うと、ベットから降りた。




