第20話 第5節「逃げろメロス」3
イパバート池に、二人の影があった。
一人は、ウィリエ。そして、もう一人はハルス。
二人は、たいぶ歩いた。ザディアムの城からは少し遠いのだが、イパバート池のほとりで、ハルスは自信なさげにイパバート池の水面を眺め、ウィリエは周りの森や景色などを眺めていた。
この世界はちょうど夏に当たり、暑い時季であった。しかしイパバート池の近くは涼しいのであった。このあたりにいると、特に夏は落ち着けると言うのが、ハルスの言い分であった。
「で、どうするの?」
ウィリエが、近くの木などを見まわしながら言う。
「魔法の第一歩、浮遊。」
ハルスは自信なさげな声で答える。
「足元の石で試せば。」
ウィリエが、ぼそりとつぶやくと、ハルスはこくりとうなずく。そして足元の、自らの握りこぶしほどはある石を見つけ、それに杖を構える。
「フライ」
念を込めた、大きく重い声であった。しかしハルスがそう唱えるなり、イパバート池の水が全部逆流した滝の如く上に登り、そして再び空っぽになった大きなくぼみの中へ一斉に、滝の如く落ちた。その水しぶきをあびびしょぬれになったウィリエは、しばらくぼんやりとしていたが、つぶやいた。
「あんた・・・魔法使いの器はないのでは・・・。」
「そ、そんなことないもん!」
「もしかして、惚れの魔法を使いたいんでしょ?」
ウィリエがぼそりとつぶやくと、ハルスは首を一生懸命横に振る。
「そう、ならいいけと。」
ウィリエはぼそりとつぶやく。
それを、城からついて来て、木の影から覗いている者がいた。ギルモ将軍である。ギルモ将軍は、以前からモルデス45世に冷やかされており、反乱を考えていた。その折、この余りにも強大すぎるハルスの力を見て、にやりと笑った。
そうだ、これを使えば・・・、その前にハルスを捕まえておかないとな、とギルモは小さくつぶやき、ささっとその場から離れていった。
ギルモは、ザディアムの城に戻ると、牢屋に直行した。警吏の敬礼を受け、ギルモは牢屋の奥地に入っていった。岩の壁、小さな松明。ギルモは薄暗い地下の廊下から、ザファロの檻を見つける。ギルモは、座っているザファロに話しかける。
「なあ・・・。」
「何だ?」
ザファロは、愛想もない返事をした。まあ、当たり前か、とギルモはつぶやき、それから言った。
「なあ、一緒に反乱を起こさないか。」
「えっ?」
ザファロは、目を丸くする。
一方、イパバート池では、ハルスの必死の特訓が続いていた。しかし、結果はいつも水にかかるのであった。石が浮かんだと思えば、水が落ちた時の衝突風であったり、地鳴りに反応していたりした。それでもハルスは負けすに呪文を唱えて石に魔法をかけていった。
「ねえ、また?」
ふぁぁ、とあくびをしながら木にもたれてハルスの練習をぼんやりと見ているウィリエは、待ちきれなくなりハルスに声をかける。
「また!」
とっくに日は暮れかかっており、空は橙になっていた。しかしハルスは練習をやめる様子がない。
「先に帰っていい?」
ウィリエが言うが、ハルスは返事をしない。ただただ杖に念を込めているだけである。
「じゃ、先に帰るね、」
と、ウィリエはそう言い残し、イパバート池から去った。それを見計らったように、隙を見張っていたザファロとギルモは、石にいざ魔法をかけんと呪文を唱えんとしたハルスの背中から、まずザファロがハルスの口を塞ぎ、第二にギルモがハルスの頭を強く殴った。
「あっ・・・。」
ハルスは気を失い、二人の掌中からするりと抜け、―――・・
「はっはっは、これで反乱の準備は終わった。」
ギルモは、ハルスを入れた檻を目の前にし、大きな笑い声を上げる。
「ああ、全くでございますな。」
ザファロも、機嫌がよく、ギルモの肩を叩く。
「はっはっは、いつかはモルデス45世を殺して、わしがモルデス王になってやる!」
「そして、わたしは側近ですな。」
ギルモとザファロは、男の約束と称して、お互いの小指を固く結ぶ。その小指を背景として、ザディアムの城のモルデスの旗は下ろされ、代わりに独立を宣言したギルモの旗がずるずると大空に舞った。
「はぁ、はぁ・・・」
ウィリエは、森の中を走っていった。もう、身も体もぼろぼろであったが、それでもモルデスの遠征軍の陣目かけて走っていった。ザディアムの城の旗が「ギルモ」になっているのに気付き、反乱、そしてハルスは人質になった―――・・、その旨を伝えに、走りに走っていった。
真っ黒な空に、満月が登っていた。
この昼、ライアンの砦では、治とライアン砦を守護する将軍の間で、必死の戦いが繰り広げられていた。
反乱が起こってしまいましたね・・・^^;
とりあえず、この反乱の続きは第22話にして、
第21話では、治とライアン砦の将軍との戦いの様子を
伝えます。
・・・・・・戦争はいやですか。はい。




