第02話 第1節「長いトンネルを抜けると殴られた」2
彼女の名はハルス・トルエンディング・ド・モルデスと言った。彼女はモルデス国王の娘、モルデス国の王女。モルデス国はかつてはその世界を統治していたのだが、100年前の39世の暴虐政治により多くの反乱が一斉に起こり、今では反乱国に囲まれ、唯一の同盟国ベールマルズ国と連携してかろうして生きている有様であった。
「起きてくださいませ、ハルス姫様。」
一人の黒いスーツみたいなものを着た老人、ハルス姫の執事ごとケンジ・ザルロディエ・ド・ハセカワが、ハルスの寝ているベットの横前に立ち、静かに声をかける。ハルスは目をばちっと開け、むくっと起き上がる。
「おはよう、じい。」
「おはようございます、ハルス姫様。」
ハルスはピンク色の寝巻きを着ていた。ハルスはしばらく空気を見てから、言った。
「ねえ、じい。」
「何でございますか、ハルス姫様。」
「召喚の儀式はいつ?」
「明日でございます。」
「明日・・・。」
「心配なされている御気持ち、御察し致します。」
「少なくとも片方は満足する、っていう言い方ね。」
「・・・・・・。」
ハルスは、稀代の美麗な顔の持ち主であり、非常にかわいく黄金がいくらあっても足りないというほどのかかやきであった。特に笑った時の顔は絶世の美女に勝る顔つきであり、女性も流石に惹かれるほどの様であった。彼女の顔を見て、心臓の弱い人は鼻血を出す人がほとんどで、中には倒れて死んでしまうものもいた。また、心臓が弱くなくでも気の弱い人もめまいがする。それほどかわいらしい愛嬌のある動き方であった。
「じい。」
ハルスは、傍らにいる男の人に言った。
「もうちょっと寝ていい?」
「だめでございます、お嬢様。予定は予定でございます。」
「そう・・・。」
「御気持ち、御察し致します。しかしそれだけは出来かねます。」
「精神を集中したいの。絶対あのウィルソン王子がひっかかるように・・・。」
「国王の王命でございます。」
「そう・・・。」
ハルスはそれだけ言うと、心配した顔つきでベットから立ち上がる。
「モルデス国王様、一人の男が面会を願い出ております。」
ここはハルスの父、モルデス45世の部屋である。そこには、かつての世界統一国であるということを象徴するように、多くの装飾があった。モルデス45世は、一つの机に向かった一つの椅子に座っており、本を読んでいる間に目の前のドアが不意に開き、不意に家来が入ってきた形となった。モルデス45世は黙って本を閉じる。
「ここへ通せ。」
「はっ。」
しばらくして、家来数人と、一人のみすぼらしいなりをした男が部屋に入ってくる。
「お前か、あの時以来だな。で、何だ?」
モルデス45世は、机のすぐ前にみすぼらしいなりをした男が立つと、質問を浴びせた。彼は答えた。
「ハルス姫様が今度結婚相手の召喚の儀式をやるのは本当でございますか?」
「ああ、明日な。」
「いますぐやめていただきたいのです。」
「なぜだ?」
「姫様は生まれつき実に膨大な魔力をお持ちでございます。それがため幼少の時分その魔力が暴走して大変な事になられ、私が封印の印を付けました。」
「ああ、その印は今でも手のひらにあるよ。それがどうした?」
「その時、私があなたに警告したことを覚えてらっしゃっていますか?」
「なんだ?」
モルデス45世がそう言うと、男は目を丸くした。
「本当に御存じでござらないのですか?」
「ああ、忘れた。」
「それは・・・、彼女に杖を持たせてはいけないということでございます。」
「うむ、なぜだ?」
「ハルス姫様に魔法を使わせると言う事は、城一つを吹っ飛ばすくらいの覚悟が必要でございます。」
「・・・・・・しかしハルスも楽しみにしている。それにハルスの運命を決める儀式だ。やめるわけにはいかない。」
「・・・・・・それほどまでに申し上げるのでしたら、従来の城の中庭ではなく、さらに広い草原でやることをお勧め致します。」
「そんなに危険なのか。」
「はい。」
「しかし、そのような所はこの近くにはないぞ。あるとしても敵国と隣接しているラヴェート草原しか・・・。」
「それがございます。」
「どこだ?」
「イパバート池でございます。」
男がそう言うと、モルデス45世は小さく微笑む。
「分かった。イパバート池でやる。それでいいな?」
「はっ、さようでございます。」
「そうか。」
「では、これにて。」
と、男は部屋から出て行く。
いよいよ明日召喚です。
・・・それにしても、心臓の弱い人が鼻血を流すって・・・
治はどうなんでしょうね^^;




