第19話 第5節「逃げろメロス」2
その次の朝、タナトス将軍はモルデス45世の命令により、早朝5000の兵を引き連れ、ライアン砦に向かった。
その頃、ハルスは、ザディアムの城の自分の部屋で、ぼんやりと朝食を食べていた。ドアのノックの音がし、
「とうそ。」
と、ハルスが言うと、ドアが開き、執事とウィリエが現れた。
「何、じい。」
「はい、まだ食べてらっしゃっていたのですか、多ければ・・・」
「別に多くない。味わって食べていただけ。」
「は、はぁ・・・。失礼しました。」
ハルスが食べるのがいつもより遅く、尋ねに来た健治は、恐縮極まった顔つきをして、部屋から出てドアを静かに閉める。
「何。」
ハルスは、ドアの脇の壁にもたれていたウィリエに言う。
「おはよう。」
ウィリエは、いつもの挨拶を返す。
「おはようってなによ。」
「そんなちびちび食べるなんで、ハルスらしくないわね。」
「味わって食べてただけ。」
「治が心配?」
ウィリエがそう言うと、ハルスは口の中の食べ物をぶっと吐き出す。その口を腕でふき、ハルスはウィリエに怒鳴る。
「そんなことない!」
「あーら、吐く位じゃあなつかないわよ?」
「そんなわけない!だって・・・。」
ハルスがそう言うと、ウィリエは調子に乗って言った。
「治がこの部屋に帰ってきて、まずハルスが好きにしてと言って、治がハルスにキスをするでしょ。」
ハルスの顔は真っ赤になった。
「それで、今夜は満月でしょ。治とハルスがベットに座って月を見ながら、治がハルスにプロボーズ・・・」
ハルスの顔は以前にもまじて真っ赤になり、反逆の形相が出来始めた。
「そして、無事結婚よ。まあ、まずありえないと思うけと。」
ウィリエはハルスを揶揄するような口ぶりでそう言い、部屋をしばらく散策したのち、ベットに腰掛ける。
「こんな汚い部屋じゃあね。」
ウィリエがそう言うと、ハルスは言った。
「い、今からきれいにするもん・・・。」
「そう?」
ウィリエはくすっと笑った。
「な、何笑ってるの?あたしはね、魔法が使えなくで、」
「あんたの言い訳はいつもそれね。」
「言い訳じゃない!」
ハルスが怒鳴ったので、ウィリエはちょっとびっくりした仕草をして、立ち上がる。
「じゃあ、練習する?」
「何の?」
「魔法の。」
タナトス将軍の軍勢は、目の前にある1000足らずの兵士のいる砦に、力攻めを決行した。
5000の兵と1000の兵であり、仮に相手が精鋭であろうとも結果は最初から決まっている物であった。誰もがそう確信していた。
タナトスは、余裕の表情で、敵軍と闘っている前線の兵士達を眺めていた。と、タナトスの目の前で、前線がじりじりこちらに押されている。
「何事だ?」
タナトスが兵士達に問いかける。一人の兵士が答えた。
「これ、1000じゃありません!」
「何?」
治は、陣の一番高い所からこの戦の様子を見ていた。やはり、あの物見はすりかえられたんだ、と治は思い、モルデス45世のいるテントに駈け寄る。
「失礼します!」
「何だ?」
モルデス45世は、何か書物を読んでいたらしく、その本を閉じてから治の方を向く。
「俺に1万の兵を預けてください。」
「何?1万?何の用途に使うのだ?」
「ライアン城の鎮圧です。」
「何?ライアン城には1000足らずの兵士がいて、その倍の5000の兵が鎮圧しているのだ。」
「だけれとも、万事には万事を乗して、」
「ならぬ。」
モルデス45世は、権威をもった顔で言う。
「そこを何とかお願いします。」
治は土下座をした。それにはモルデス45世にも流石に事の異様さを感じたらしく、
「8000で我慢しなさい。」
と言った。治は立ちあがり何度も礼をすると、テントから出た。
敵兵士からの矢が多く飛び舞う。その数を見て、敵は千ではないと悟ったタナトスは、怒鳴る。
「引き上げだ、引けい!」
しかし前線の兵士達はそれを聞く前に槍を突かれた。
一本の矢が、タナトス将軍の騎馬の方へ向かう。
「うん?」
タナトスが気付く前に、その矢はタナトスの首に命中した。




