第18話 第5節「逃げろメロス」1
「何?」
部屋でベットに座っているハルスは、目の前に立っている治に対して語りかける。治はなんのためらいもなく言った。
「契約ってどんな事をするんだよ?」
治がそう言うと、ハルスの目は大きく見開かれた。ハルスはすぃっと立ち上がると、治の股間を蹴り上げる。治が股間を抑えてバランスを崩して座りこむと、ハルスは治を見下ろして言った。
「そんな事、誰から聞いたの?」
「いや、だから、モルデス王に・・・。」
治がそう言うと、ハルスは治の顔をふむ。その顔は赤くなっていたが、治は目を足で塞がれ気付かなかった。
「うそつけ。」
「いや、だから・・・。」
「いい?契約は禁句だからね。」
「説明してくれないと協力しないぞ!」
治が抗うと、ハルスは更に治の顔を強く踏む。
「契約のけを言ったら、な、殴るからね!立ちなさい!」
「は、はい・・・。」
ハルスの足が顔から外れると、治は顔をばっばっと払って立ち上がる。
「俺さ、明日また・・・。」
「知っているわ。遠足でしょ。あたしもあんたがいなくでせいせいしているわ。」
そう言い、ハルスは平然と再度ベットに座る。それを見下ろして、治は怒鳴る。
「何なんだよ、その態度!」
「あら?言ってなかったっけ?あんたはあたしの召し使いなのよ。」
「そんな!王子なのに差別するなんでえげつない・・・」
治がそう言うと、ハルスは治の頭を力強く殴る。
「契約、言ったわね?」
「そ、そんな、しかも濁点で、」
「だまらっしゃい。」
ハルスは更に治の頭を連打する。治は意識が遠のき、無の世界に入っていく感触を覚えた。
目の前で倒れた治を見て、ハルスは立ち上がる。その顔には、寂しさがこみあげていた。明日は、楽しくない遠足。とってもつまらない遠足。そう思うと、ハルスの目からぼろぼろ涙が流れる。なんなんだろう、こんな孤独・・・。ハルスは再びベットに座る。生まれて初めて味わったような、とてつもない孤独感。その理由は分かっている。でも・・・、あたしはウィルソン王子が好きだから・・・、そう自分に無理やりいい聞かせ、ハルスは少々のためらいは持ちつつも、気絶したままの治の胴体を何回も蹴る。しかし蹴る毎にさらにいやみが増えていくのを感じ、ある程度蹴ってからハルスは治の前に座りこむ。
モルデス王ラヴァリンは、残りを此度落とした城の守備に回し、50万の兵と大量の兵糧、そして大量の騎馬、弩を運搬した。そして、参謀として、オサム・トルヴァリング・ド・モルデス、他にも将軍を数十人引き連れた。ギルモは、留守番役として、城に残り、ザファロ将軍を見張っていた。
ウモライ国は、6つの城を持っていた。6つの城はペンタゴンの如く中央の1つの城を囲んでいる。しかしこの配置には欠点があり、中央の城をペンタゴン状に囲んでいる5つの城は、規模がとても小さく、住民もほとんどが城の外に住んでおり、ほぼ砦当然なものであった。その中で、モルデス軍が向かっているのは、5つの城(これからは便宜上砦と呼んだ方がいいかもしれない)のうち、一番手薄なライアン砦であった。
モルデス45世は、ライアンの砦を目の前にして、偵察の報告を待っていた。そのモルデス45世の後ろに、多数の兵が控えていた。治はモルデス45世の傍らに控えていた。
治は、まさか再に戦争に参加するなど思ってもいなかった。そして、自分の指揮が見破られる日、それも不安だったが・・・、自分が住んでいる平和な国日本国で、今まで命の危機を感じた事はなかった。この世界にいる限り自分は常に命の危機に直面している。それが一番の不安であった。
夜になってようやく偵察は帰ってきた。モルデス45世は、すでに陣を張り、テントの中に偵察をいれると、言った。
「兵力は?」
偵察は答えた。
「1000程度と思われます。」
「よし、そこには治を入れるまでもないな、・・・タナトス将軍を呼べ。」
「は。」
偵察はテントから出、しばらくして一人の男性をテントに導いた。タナトス将軍は、モルデス45世に一礼する。
「どのようなご用で?」
モルデス45世は、即答えた。
「ライアン城には1000足らずの兵がいるようだ。ここには万を入れるまでもない、明日の朝にでも5000の兵士を引き連れて鎮圧してまいれ。」
「はっ。」
タナトス将軍は再度一礼し、テントから出ていった。




