第17話 第4節「我輩はエロである。エロした事はまだない」4
ハルスは、ぼつりぼつりと、健治の出した昼御飯を口に入れ始めた。
治がいず、この部屋が極端に広くなったような気がするともの悲しく、かといってウィルソン王子を慕わないと忠義に反すると、自分に無理やり言い聞かせる。
「じい。」
ハルスはそれを振り切るような声で言った。
「はい、何でございましょうか、ハルス姫様。」
「ふたつお願いがあるんだけれと。」
「何でございましょうか。」
「あたしをお嬢様と呼んで。」
「承りました、お嬢様。それでは、もう一つのお願いは何でしょう?」
「もう一つのお願いはね・・・。」
ハルスは視線を食べ物に落とし、ためらいの入った声で言った。
「あのバカをね・・・。」
一方、その頃治は、明日の遠足に向けて軍議につき合わされていた。
「明日ウモライ国に侵攻する。で、ここに貼っているのが地図だ。侵攻方法について何か意見はあるかね。」
モルデス45世は、将軍達に話しかける。
一人の将軍が手を挙げる。
「何だね、ギルモ。」
モルデス45世が名指ししたギルモは、立ち上がって意見を述べる。
「まず、ザファロ将軍を斬首した方が望ましいと思います。」
「なぜに?」
「逃走したら相手国に隙を与える事になります。」
「ならばお前が監視しろ。」
「はい?」
「お前が監視したらザファロ将軍は逃げる事はないだろうな。」
「は、はい・・・。」
「ただし殺してはならん。」
「はっ、」
と、ギルモは座る。ギルモが完全に座ったのを見て、モルデス45世は言った。
「では、今回の参謀は、オサムだ。」
モルデス45世がそう言うと、治以外の家来は一斉に立ち上がった。
「何だ?」
モルデス45世が問うと、家来達は一斉に言った。
「会ったばかりの人はいくら才があろうと参謀にするのは早すぎではないのでしょうか!」
「座れ。」
モルデス45世が一喝すると、家来達は渋々座る。
「そういえば、君は他の世界から来たそうだな。」
どこから聞いたのか、モルデス45世が治に問うと、治は黙ってうなずく。
「君の世界では、はいも言わないのか。」
「は、はい!」
「あの見事な采配振りから見て、君の世界では戦争がたくさんあるのだね?」
「いいえ、平和な世です。」
「ならなぜあれほどの軍配が出来るのかね?」
「ちょっとした兵法書を読んでいました。」
「なぜ戦争がないのに兵法書を?」
「知恵をつけるためです。僕の世界では、戦争ではなく言論で戦います。その時の身構えについて勉強しただけでございます。」
史記は歴史書、とはっきり言うと、ややこしい説明に追い込まれそうなので、治は嘘をついた。
「そうか。・・・そういえば、この世界での名前は付けていなかったな。」
「はい?」
「なら、君は今から、オサム・トルヴァリング・ド・モルデスだ。」
モルデス45世がそう言うと、家来達は再度一斉に立ち上がる。
「トルヴァリングの身分は、トルエンディングと結婚してから名乗るものです!」
「あの・・・、」
治も立ち上がる。
「トルヴァリングって何でしょうか?」
治が尋ねると、モルデス45世は答える。
「王子。ちなみにトルエンディングは、王女の意味だ。」
「は、はい。」
治は悪寒がして、座る。見知らぬ世の中で、いきなり一国の王子にされるなど、治は考えもしていなかった。
ハルスと初めて向きあったあの日、ハルスは「ハルス・トルエンディング・ド・モルデス」と名乗っていた。それをふと思い出し、治はハルスに言いたい事が一斉にふき出てきた。軍議が終わると、治はまっすぐハルスの部屋へ直行した。しかしドアを前にして、治はためらった。確か、さっきハルスは俺の事燃えるごみって言ってなかったっけ?その言葉を思い出すたび、治の心の中では憤りが募ってゆく。
「オサム・トルヴァリング・ド・モルデス様・・・。」
傍らから健治が来たのに気付き、治は慌てた。
「聞いております、あなたが任命されましたこと・・・。」
「それについて俺はハルスに聞きたい事があるんだけと・・・。」
「いえ、名目上でも結婚できます。」
「で?」
「一年以内に契約をしないと、あなたの命は消滅します。」
「はい?結婚は・・・」
「結婚と契約は違います。一般的に契約は結婚の時にするので契約と結婚はまとめて扱われます。」
「で、契約ってどんなことをします?」
治がそう言うと、健治は急に顔を真っ赤にして、
「し、失礼します!」
と言い、走って逃げた。
「ち、ちょっと、」
治が健治を止めようとするが、健治の姿は既に見えなくなっていた。
治は決心したように、ハルスの部屋のドアを勢いよく開け、前をよく見もせずに怒鳴る。
「契約ってどんな事をするんだよ!」
「こんばんは、」
と、ハルスはベットに座っていた。治はドアをバンと閉めると、ベットの方へ駆け寄り、ハルスを見下ろして再度怒鳴る。
「俺はさ、お前に聞きたいことがある!」
そんなわけです。
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