第16話 第4節「我輩はエロである。エロした事はまだない」3
「ねえ、長谷川さん、」
治は、健治の部屋にいた。健治の部屋は城の端っこ辺りにあり、かび臭く、まさに召し使いの部屋としてふさわしい部屋であった。
「治様。」
健治は丁寧に、治に言った。
「あの・・・、孫の友達に様付けをしないと思います、普通。」
「すみません、癖でございます。」
「そうですか・・・。」
そう言い、治は小さな窓から外を見る。
「寂しゅうございますか?」
そう健治に言われ、治は感傷的になる。涙がぼろぼろこぼれてくる。
「私も、はじめは寂しかったです。家に帰りたい気持ちは、私も同じです・・・。」
そう言われ、治は切ない気持ちになった。
「そういえば、さっきハルスに谷のことを言ったら怒られたんですけと。」
「谷?といいますと?」
「谷間に手をいれないて、と言ってましたし、ハルスはどこか気に入っている谷とかあるんですか?」
「あの・・・、治様。谷間とは、女性の胸のことでございます。」
「はい?」
「正確に言いますと、おっぱいとおっぱいの間でございます。」
「はい?」
治は目を丸くする。
「そんな意味付けはややこしいのでは?」
「しかし・・・。」
そう言い、健治も窓の方を向いた。
治のいない部屋は、幾度か広くなったように感じた。ハルスは、着替えもせずに、ベットに座り、後ろの窓から外の景色を眺めていた。ふと、ハルスは立ち上がり、たんすの抽斗を開ける。そこから、一本の杖を取り出し、握る。
「なぜ、あたしは魔法が使えない・・・。」
その一言で忘れようとしたが、やはり頭から離れない。ウィルソン王子ではなく治のことばかり考えている自分に対し、憤りを感じた。
「まだ一人だったの?」
ウィリエが黙ってドアを開けて入ってくる。
「ノック、しなさい。」
「あら?仮にもあたしは姉さんよ。」
「そう。」
ハルスはそれだけ返すと、再び杖を見てつぶやく。
「なぜ、あたしは魔法が使えない・・・。」
「そりゃ、魔力が余りにも高すぎで、暴走するからでしょ。」
ウィリエはあっさりと答える。
「じゃ、どうすればきちんと使えるの?」
ハルスが問うが、ウィリエはしばらく考えてから短く言った。
「分からない。」
「そう・・・。」
「それよりさ、忘れようとしていたんでしょ?」
「えっ?」
「治を忘れたい気持ちは分かるわよ。」
「えっ?」
ハルスは目を丸くする。
「やっぱりね、最近のハルスの行動は分かりやすくなったわ。」
「どういう意味よ?」
「ふふ・・・それはとりあえず。」
ウィリエは、くすくす笑いながら、ベットの、ハルスの横に座ると、ハルスの肩を叩く。
「心配ご無用。あたしが代わりに恋人になってあけるから。」
「・・・・・・。」
「さっき、じいと治が話しているのを聞いたけれと、今朝の夢で治とキスしていたでしょ?」
「えっ?」
ハルスは真っ青になる。
「やはりね・・・、嬉しい夢が本当になったら嬉しいでしょ?」
ハルスは一瞬にして顔を真っ赤に染める。
「そ、そんなこと、な、ないよ・・・。」
そう言いながらも、口はあわあわとうごめいている。ウィリエは、そんな顔を見てくすっと噴出す。
「じゃ、さっきお父様に聞いたけれと、明日また遠足に行くそうよ。」
「遠足・・・。」
ハルスは下をうつむく。ウィリエは、笑いながら続ける。
「なんでウィルソン王子の墓に参らないか、その理由はみんなにばればれよ。」
ハルスは一気に顔を上げ、立ち上がる。
「参る。」
「無理しなくでもいいのよ。」
ハルスはその言葉を無視してドアに向かう。ウィリエは杖を構えると、ハルスに向ける。後ろから気配を感じたハルスは、ドアノブに手をかけたまま後ろを向く。こちらに杖を向けたウィリエを見て、ハルスは驚く。
「来なさい。」
ウィリエにそう言われ、ハルスは恐れたように再びベットに座る。
「無理しちゃだめ。」
「・・・・・・。」
「それじゃ、明日の遠足の心の準備でもしてて。」
「うん・・・。」
ウィリエは、ドアを閉めて部屋から出ていってしまった。その閉まりゆくドアを見て、ハルスはやっと自分の心の中を悟った。悟ったは悟ったで、どんと涙があふれ、ハルスはベットの枕を掴むと、うつむき枕を顔に押し付けて、さめざめと泣き続けた。




