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サケと会話と水着

部屋に戻ると強化クリスタルガラスのテーブルに、緑色の空の瓶が2本立っていて、空のグラスが一つと、微妙に気泡の上がる金の液体が半ばまで入ったグラスが1つ、それと何かのつまみが載っていたであろう皿が残されているだけだった。

このスパークリングワインの空き瓶からでは、消費した比率は判らないが・・・これまでの経験上、たぶんジェインの方が多いんだろうなと予測をつけた。

しかし、ここには2人の姿が無い。

・・・まさかもう寝たとか?

酒が入って、おまけに4時間の差が感覚を狂わすのは事実だが・・・まだ11時にもなっていない。

だがそれはただの杞憂で、探すまでもなく寝室に向かうとジェインがベッドに転がって本を読んでいた。

「何だ、やっぱり起きてたのか。」

サイドテーブルには透明の液体が入ったグラスが置かれているが、あれは水ではないな。その証拠に、グラスの隣には淡い青色をした瓶があり、『純米吟醸』と書かれたラベルが張ってある。

・・・どれだけ飲む気だ?

ジェインは読んでいたページに(しおり)を挟んで起き上がると、気持ちの悪い事を言出だした。

「もちろん。・・・こんな場所で一人寝なんて寂しいマネが出来るか?」

物憂げな様子で、しかし力の強い誘うような目で・・・それ同性の俺でも赤くなるから。

「だから、その手の冗談は止めろって、酔っ払い!」

鳥肌の立った腕を擦ると、ジェインは笑い出した。

「リョータは良い反応するから面白いんだ。」

あーもう、また俺からかわれてるよ?

「けどこれ、乗ってこられると俺も困るんだよな。」

ジェインは笑いが止まらず、俺にとって有益な情報まで暴露する。

「捨て身になってまで、んな事すんなよ・・・。」

じゃあ次の機会には乗ってしまえばいいのか・・・と、分かった所で気は乗らない。

「大丈夫、馬鹿正直なリョータはやらないから。」

「・・・俺、信用あるんだな。」

しかし、まったく嬉しくない。

「もちろん、だから親友なんだ。」

今までの話のどこに『だから』に掛かるのかさっぱりもって解らず、問い質したかったのだが、アルコールの魔力がプラスされたジェインの微笑にドギマギしてタイミングを逃し、無常にも話題は次に移ってしまった。

「それよりミレイと何の相談だったんだ?」

ジェインは本をサイドテーブルに置き、その代わりにサケのグラスを手にして、ベッドの背にもたれて楽そうな姿勢をとると、さっきまでの俺の事を探りだした。

「あぁ・・・どう説明すればいいのかな?」

上手い表現は無いかと考えながら、備え付けのサイドボードから出したグラスにサケを注ぎ、その常温の液体を一口含んだ。すると仄かな甘さが広がり、おまけに鼻に抜けた香りは豊かで、これは当たりだなと改めて瓶のラベルに目をやった。

「そうだな、パーフェクトJの未来人説を推す・・・その考察?」

空いているベッドに腰を下ろしてもう一口飲み込んだ後、一旦グラスを置いて寝転がった。

さすがスイートだけあって、ベッドもよく弾む。

「・・・なるほど、諦めてないのか。」

納得した声は苦笑交じりで、既にジェインもあの考察を聞かされていたらしい。

「今度は、生まれ変わりをベースとした理論を組み立てるんだろうよ。」

「それはまた、オカルトな方向に走ったな。」

俺の説明で、飲みかけたサケを吹き出しそうになったジェインを見て、少し胸がスッとした。

「返答に困って冗談で言ったんだけど、悪くない説だって本気にされた。」

「それはそれは、次はどんな推論を立ててくるか、少し楽しみだな。」

一頻(ひとしき)り2人で笑い・・・笑い終わると、何となく気まずい空気に支配された。

「・・・まぁ、あの映像がお前に似てるってのは否定しない。」

実の所、未来のジェインを見てるような気がした。

「・・・それは俺もだ。同じ名前に興味が湧いて、昔調べた事があるんだ。大きくなるとますます似てきて、声変わりすると気持ち悪いほど同じで・・・髪型同じだと瓜二つだろ?」

後ろの結び目に手をやって、髪を摘んで揺らしながらニヤリとする。

「ひょっとして、そのために髪伸ばしてたのか?」

「そ、あまりに似過ぎてて気持ち悪いけど、それだけに興味もあるんだ。」

思わぬ所で、謎が解けてしまった。

「・・・そっか、そうかもしれないな。」

しかし、あまりにも不確定なことばかりで、推論も危ういこの話題は続ける言葉が浮かばない。世の中には自分に似た人間が3人いると言うが、これはその1つなのだろうか?

今の所俺は、自分にそっくりなヤツに出会った事はない。

けど、もしそんなヤツが目の前に現れたら、どんな気分がするんだろう? コイツは、今までどう思ってきたんだろう?

・・・ジェインの心中を察して、何かしんみりしてしまった。

「まぁ、頭では負けないつもりでいるけどな。」

しかし、横から聞こえた予想もつかない発言に、別の意味で俺は言葉を失う。

希代の天才、パーフェクトJに頭脳で勝つだと?

ほんのり赤い顔をして、ご機嫌にグラスを揺らす酔っ払いの発言ではあるが、それにしても大胆不敵な事をさらりと・・・。だから今度は俺があっさり話題を変えてやった。どうせ続けるにも辛い。

「・・・で、そっちは? フユカはの方はどうなった?」

「スルーかよ。・・・彼女は失恋の愚痴を熱弁して、飲むだけ飲んでつぶれたよ。」

「なんだ、また振られたのか。」

それで今日はあんなに機嫌が悪かったんだな、なるほど・・・納得した。


フユカの彼氏は見かけるたびに相手が違うような気がする。

しかも振ったという話は聞かないが、振られたというのはよく耳にする。

・・・あの強気でわがままな性格が災いしてるのかもしれないが、そんな事を彼女に言うと怒り出すのは火を見るより明らかなので、真偽の確認はした事がない。

しかしその都度荒れて、誰かが愚痴に付きあう事になる。

面倒だと思わない訳ではないが、これも友人の役目だろう。

しかし、振られ続けるというのもすごいが、それにも増して次の彼氏があっさり出来るという所に、実は感心していたりする。


「だから向こうの部屋に転がしといた。」

「・・・そりゃ、お疲れさん。」

でも吐き出すだけ出した後は、気持ちを切り替えるのが早いのか、あるいは無理をしてるのものか、とりあえず表面上は元に戻る。

まぁいつもの事だな。・・・と、俺はそんな風にしか考えなかった。



翌日。

夜遅くまで話し込んでた俺たちと違い、早々に潰れたフユカは一人で元気だった。

水着もやる気満々な赤のビキニで、一体何を挑発する気だ?

ミレイはこれまた対照的に白いワンピースで、コイツら実は相談して逆の物を選んできたんじゃないかと思いたくなる。

その彼女も、いつまで輪廻転生について学習していたのか知らないが、俺たち同様に眠そうで・・・それでも全員水着にパーカー羽織ってプールサイドに集まったのは、フユカの活躍があっての事だろう。。


リズミカルでトロピカルな曲の流れる、熱帯をイメージしたご機嫌な場所には、多くの男女が仲睦まじい姿を恥ずかしげもなく晒していて、見ている方が照れる。

視線を逸らして青いプールに目をやれば、張られた水が揺れるたびに照明の光を色々な方向に弾き飛ばしていて、とてもきれいだった。

そこのサマーベッドに転がって水面を眺め、そのうちに眠ってしまいたい・・・それが今の俺の希望だったりするのだが、それは叶うはずも無い。

「どうせこの二人は動かないから、色々回るわよリョータ。」

フユカから直々の指名を受けて、今日の俺はこのまま連れ回される事が決定した。

俺が転がりたかったサマーベッドには、ジェインとミレイが優雅に転がり、人事のように爽やかに手を振る。

・・・まぁ、確かに人事なんだがな。

昨日はジェインに押し付けてしまった事もあり、そもそもインドア派の二人をプール遊びに連れまわすのは所詮無理だと、フユカも俺も経験上よく知っている。

「・・・了解。」

どうせそれしか答えが無いんだ。・・・無駄な抵抗はしないよ。



ウォータースライダーは楽しい。流れるプールも波のプールも楽しい。俺にしてみれば童心に返る思いだ。

しかし、

「フユカ、そろそろ休まないか? 何か飲もう。」

バイトのおかげで基礎体力が向上し、多少の寝不足などそれほど問題にはならないが、フユカの方が気になる。

昨夜は大分ガス抜きが出来たんじゃないかと期待してたんだが、連れ回されて違うと感じた。彼女も表面上は楽しそうなのだが、テンションが高いのが逆に不自然で、俺には自棄になっているようにしか見えなかった。

プールサイドの端にあるバーカウンターで、ライムソーダとレモンスカッシュを頼んで手近なプールの端に座り、足だけを水に浸した。

「確かに疲れたかも。」

そう言うわりにはしっかり足を動かして、水飛沫を上げて遊び、非常に元気そうで・・・ある意味迷惑だ。

「こら、散らすな! ソーダに入る。」

「えー、じゃぁもっとやる。」

「おい、自分のにも入るぞ?」

・・・これ放っておいても、自力で立ち直るんじゃないか?

無邪気に足をバタつかせているのを見て、何か意気込んでいた気分が萎えた・・・。

いやいや、そういう訳にもいかない!

楽しい旅行を楽しく過ごさず、悔いを残すのは間違っている。

そう思い直して口を開こうとしたら、少し離れた場所で歓声が上がった。

「あれ何だろ? リョータ言ってみよう。」

フユカはあっさり興味の向かう先を変え、返事も待たずに水からするりと足を抜くと、賑わいの中心部を目指て歩き始めた。

その途中で「もう、早くしてよ!」と、置いていかずに俺を急かすのを忘れないのは、ありがたいのか何なのか・・・いや、もういい。

俺は完全に気力が萎えた。

多少元気が無ろうが、たとえ空回り気味だろうが、これだけ人を振り回せるなら上等だろう。

ひとつ溜息を落とした後、水が散って本当に水玉模様になってしまった残念なパーカーに袖を通し、諦めて彼女の後を追った。

実は共通言語は英語がベースってイメージがありまして、

それで日本酒を「サケ」という表現にしております。


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