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カオスティックな考察

まだ少々不貞腐れ気味のフユカが、目の前でケーキを頬張っている。

予約していたレストランでの夕飯が期待外れで、気分治しにもう1件、カフェスペースに寄りました・・・という所なのだが、食べるだけ食べて腹の減っていない俺たちはドリンクのみで、それがさらに気に入らないフユカは「付き合いが悪い」と、さらにへそを曲げている。

しかしそれも、美味しいケーキのおかげで幾分マシにはなった。

「何でお肉で頼んでたはずなのに、お魚が出てくるのよ? ジェイン、ここでも何か変更してたの?」

愚痴をこぼしていたフユカは、ショートケーキにフォークを刺したまま、睨むような目で前科のあるジェインを見る。

「それ濡れ衣。俺は何もしてないよ、どうせどっかで注文が間違ってたんだろ?」

嫌疑をかけられたジェインは、ホットコーヒーを手にしてさらりとかわす。

という事で、俺たちには不満は無い。あるのはフユカ一人だけだ。

やはり期待が大きい分、外れた時の反動も大きいものか、珍しくグズグズと後を引いている。

「じゃぁ後は疑わしいジェインに任せて・・・リョータ付いて来て。」

紅茶を空にしたミレイが、スッと立ち上がり俺を呼んだ。

おそらく時間を頂戴と言った『パーフェクトJ』の件だろう。

「俺は無実で疑わしくなんかないから。それよりリョータを御指名って、そっちの方が疑わしくないか?」

「何が? レポートの事で話があるだけよ。」

表情も変えずにイスを戻すマイペース・クイーンのミレイには、何を言っても無駄だろう。「行きましょう」という誘いの声を残してさっさと一人で歩き出してしまった。

振り回される事に多少の迷いはあったものの、機嫌の悪い女の子はそれ以上に面倒臭い。心の中の天秤はあっさりとミレイに傾き、これは良い口実だなと、ジェインに心無いエールを送る事にした。

「じゃ、そういう事で。フユカの事は頼んだ!」

「あ、おい・・・。」

「何よ二人とも、その言い方は!?」

さらに機嫌を損ねるフユカには触れないようにして、弱るジェインに『頑張れ。』と目で告げて、後ろを気にしもせずに先を行くミレイを追いかけた。



「で、結局考察って何?」

最上階のラウンジに連れて行かれ、カクテルを注文するミレイにつられて、俺もビールを頼んだ。

窓の向こうは宇宙空間で、下を覗けばきれいな青を湛えたプールが複数見える。

水の色が青いのはレイリー散乱のせいだと理解しているが、その常識の通じないコーラルで育った身としては、やはり物珍しい気分になる。

「ねぇ『パーフェクトJ』のカーティ博士のフルネーム知ってる?」

「んぁ? いや・・・突然何?」

そう答えると、眉を(しか)め、

「レポートのテーマなんでしょ?」

と、呆れた声を出しながら、前に置かれた端末を操作し始めた。

ここには自由に使える端末が置かれており、ミレイはネットワークストレージにアクセスすると、認証ブレスをスキャンして自分のデータを呼び出した。

「確かにそうではあるんだけど・・・進んでなくて。ジェインが良さそうなの見つくろってくれたけど・・・それもボチボチしか読んでなくて・・・さ。」

頭を掻きながら言い訳をすると、きつい一言を浴びせられた。

「役立たず?」

「・・・酷い言い草だな。今日のためにバイト必死に頑張ってたんだって、ボロボロになってたの知ってんだろ?」

半分酒のせいである事は、もちろん言わない。

仕方なくもう一台の端末を引き寄せ、俺も自分のストレージにアクセスし、ジェインが用意してくれたリストを呼び出した。

俺のレポートが進んでいないのは、実はこのリストに安心しているというせいもある。これを読んで、見て、後は纏めればいいだけだという安心感だ。

おそらく纏めるのが一番の大仕事なのだが・・・そこは今考えないようにしている。

「・・・かもしれないけど、じゃぁ聞いて。ジェイン・ガリレオ・カーティ。ねぇ、どう思う?」

「どうって、ほとんどジェインと一緒だな。」

しかもミドルネームにガリレオって、カプセルでジェインが読んでいた姿を思い出して思わず笑った。そういえば、酒飲みながらも熱く語っていた事もある。

ミレイは画質の荒い昔のニュース動画を再生し、俺のほうに向けて無言で見ろと促すので、グラスのビールをチビチビやりながら、仕方なくそれを眺めた。


その動画の2Dのカーティ博士は、宇宙に出る事の有用性について語っていた。

たしかこの時代は、技術的には停滞期とされている。

人々は枯渇してゆく鉱物資源に変わる新たな技術を見出せず、仕方なくちびちびと使い続けてやり過ごし、おまけに人類が自ら汚した地球に異常気象という報復を受けていたらしい。汚れた大気により気温が上昇し、想定外の雨量や、足りない水、気温の変化等により、それまでの作物がまともに育たず、食料事情は混乱した。

さらにその後は氷期と間氷期の境目に入り、ますます環境は激変し悪化した。

そんな時代だから、母なる星を捨ててでも、宇宙に出る必要があるのだという主張だ。


「ね、似てるでしょ?」

熱弁する姿は確かにジェインによく似ている。しかし今のジェインより少々年嵩である・・・が、声に関しては同一にしか聞こえない。

「あぁ、うん。確かにそう思うけど、でもこれ過去の人間だし。実はジェインの先祖とかって話か?」

なら、俺に確認するような事じゃないだろう?

「それは本人に否定された。」

・・・何だよ、もう確認したのか。

「じゃぁこれ。」

次に再生された動画はテレビ討論会のようで、次々に浴びせられる厳しい口調の質問を、涼しい顔で論破していた。

「癖も一緒よ。」

確かに時折髪を掻き上げる仕草は同じに見えるが・・・、

「それは単に、長い髪が邪魔なだけじゃないのか?」

俺の否定的な意見にミレイは何も答えず、次の動画を再生する。

それは腕時計のCMらしくて、アップになった文字盤がなるほど地球だなと思わせた。

12までしか無いのがその証拠だ。


自転にかかる時間は各惑星によって違い、一日の長さは異なる。

その昔、一日の長さを決めるため色々と話し合われ、24時間制を推す意見もあったが、昼夜を無視するのは混乱を生じる(おそれ)があるとして、各惑星の自転周期に任せるという結論に至った。

よって、コーラルの一日は28時間である。

ちなみに、色々な惑星の人間が利用する宇宙空間に存在する施設では、24時間制を採っている。


「これ、何かのメッセージのような気がするの。」

腕時計から引いたカメラはカーティ博士の全身を映す。傍にあるガラスの向こうには男1女2の3人の人間が楽しげに談笑をしている姿があるが、彼には一向に気付かない。

そして、彼が手を伸ばすとガラスが砕け、スローで落ちる鏡面化したガラスに憂い顔の彼の姿が映る。

『未来へ繋がる時を・・・。』

暗転した画面で女の声が響き、映像は終わった。

「これ、寂しそうな表情が話題になって、女性にものすごい人気だったらしいんだけど。でも・・・これはカーティ博士の見た悪夢が元になってるんだって。で、ここにその取材記事があるの。」

次に表示されたのは雑誌の記事で、ソファで取材に応じる大きな博士の写真と、たくさんの文字が並んでいた。

大きく目を引く見出しには『実は私が見た嫌な夢なんですよ』とあり、『スタッフも人が悪いですよね、人の悪夢をそのままCMにしてしまうんですから。』と、記事は続いていた。

「ね、リョータ・・・どういう事だと思う?」

「・・・どういう事って言われても、」

俺は言葉に詰まった。

ミレイの言わんとしている事は理解できるが、それはあまりにも突拍子が無い。

博士は明らかに過去の人間で、ジェインはこの時代にいて、いくら声や姿が似ていようと同一人物では有り得ない。

コールドスリープで自身の時を止めて未来に甦る術ならあるが、未だ過去に行く手段などは無く、それは話の世界だけの特権である。

「俺の結論は他人の空似。もう少しファンタジックにしていいなら、生まれ変わりってくらいだろうな。」

背もたれにふんぞり返って腕を組み、これ以上荒唐無稽な話を続ける気は無いという態度を示した・・・つもりだったのだが、ミレイを見ると「・・・生まれ変わり・・・か、」と呟いていて黙りこんでしまった。

・・・まさか、もしかしてそれで納得してるのか?

似てるのは何とか説明つくかもしれないが、意味深なCMにはまったく関係無いぞ?

「ミレイ・・・ひょっとして生まれ変わりの案が採用されてたりするのか?」

ミレイはふと気付いた感じで、俺の方を向くと、

「うん、その発想は悪くないかなって思う。」

そう言って、早速端末で輪廻転生について調べ始めてしまった。

いやいやいや、輪廻転生なんか科学的に証明されてないから。

・・・と、言ってもどうせ無駄だろう。

タイムワープと輪廻転生、どっちもどっちだが・・・納得いくまで調べたら、また何かアクションがあるんだろう。

真剣なミレイを横目に、(いささ)か温んだ残りのビールを一気に煽り、端末の履歴をクリアして終了させた。

「じゃぁ俺、部屋戻るから。」

「うん、ありがとう。この考察が纏まったら、また意見を頂戴。」

突っ込みたくなるほど真剣な姿に、別に返事なんか期待していなかったので、きちんと返事が返ってきて逆に驚いた。

そして、やっぱりまた聞かされるんだなと苦笑が漏れた。

「はいはい。」

さて、次はどんな話になるのやら・・・仏やヒンズーの神の名が飛び交われても困るんだがな。いくら家が仏教徒でも、俺はまったく詳しくないっての。

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