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10年後

ジェインがいなくなって、あと1ヶ月で丁度10年という日、ミレイからメールが届いた。

『ジェインのいなくなった日、皆で集まらない?』


それは俺も考えていた。

同じ思いを抱えている仲間は、胸に抱えたその(おもり)のせいで、少し関係が変わってしまった。

会えば言葉を交わすが、その前には一瞬緊張感が走った。一緒にいれば辛さが増し、俺たちは何となく互いに距離を置くようになった。

そしてそのままそれぞれの道に進み・・・以前のように皆で集まる事は無くなっていた。

そんな関係は寂しいって思いはあるし、この状況は好ましくないと分かっている。

けれど、忙殺される日々を言い訳にして、これまで具体的な行動を起こさなかった。そして時間が経てば経つほど疎遠になっていく。

だから、この節目にでも関係を修復出来ればと思っていた。


・・・それと、あともう一つ言い分けさせてもらうならば、その一因はいち早く結婚してしまったミレイにもある。

大学を出て1年くらいで「結婚するから」と打ち明けられて驚いた。

こいつが一番とは思ってなかったってのもあるが・・・結婚のシステムにいは疑問を感じるとか言いそうなヤツが、普通に結婚すると言った事に驚いた。

他も驚く事ばっかりだったな。相手は同じ大学にいた人間で、俺は付き合っていた事すら・・・それ所か、ミレイが誰かと付き合っているなんて事も知らなかった。やっぱりミレイは謎だと、改めて認識したもんな。

・・・それはさておき、それから何となく遠慮があるのだ。

いくら昔からの友人とはいえ、人妻を呼び出して会うというのは・・・何となく悪い事をしているような・・・いや、もちろんそんな気などまったく無いが、でもそう、背徳感がある。

今は3人の子供がいて、カリスマ・エッセイストになっている。

俺からすれば、相変わらず彼女のワールド全開だなと思う所なのだが、ファンの域を超えた信者が結構いたりする。

・・・と、メディアを通じて見かけるばかりで、実際にはもう何年も会っていない。


一方、振られ続けていたフユカも何とかいい人を見つけ、4年くらい前に落ち着いた。

卒業後はアパレル系の仕事をしていたが、結婚を気にスッパリと職を捨てた。

ちなみに旦那は結婚式で始めて見て、別にその後も交流は無い。

今は2歳になる娘がいて色々大変らしいが、言う割りには嬉しそうな写真のついた年賀状を毎年送って来る。


俺? 俺は・・・・・・聞くな。

いや・・・俺にだって、そう思う人がいないって訳じゃないんだが・・・。

うん、何というか、やっぱり躊躇がある。

・・・俺に幸せになる資格はあるのか? って、

で、結局あの日に一体何が起こったのか知りたくて・・・答えが欲しくて、大学に残った。

そして今は、あの時のデータや、その後も観測を続け、ジェインが消えた謎を解明しようとしている准教授だ。

無論教鞭に立たねばならず、人に教えるのが苦手だとか言っていられない身になってしまった。



しかしこの話は、すぐにおかしな事になった。


ミレイに返事を返すと、

『私そんなメールを送っていないよ。フユカからそういうメールはもらったけど。』

・・・どういう事だ?

そして、フユカからメールが届いた。

『メールありがとう。もう10年なんだね・・・うん、久しぶりに皆で集まろう。』

・・・訳が分からない。

俺はフユカにメールを送っていない。

だから、2人にメールを送った。

『フレンディーズのch3521に来てくれ。』

つまりチャットに誘ったのだ。

すぐに直接会う事は出来ないが、顔を見ながら直接話すことは出来る。

この訳の分からない事は、いちいちメールを飛ばすより直接話した方が早い。


--*-*--***--*-*--


丁度10年目の当日。ジェインの実家に皆で顔を出した。

久しぶりに会ったおじさんとおばさんに挨拶して、それぞれの今について話した。

そして、その後はそのまま俺の実家に流れた。


結局メールの件は解決しなかった。3人が3人とも誰にもメールを送ってなどいなかったのだ。本当にあれは、一体誰が出した物なのだろう?

それでも、良い機会だからそのメールに乗っかろうという事で落ち着き、今日を迎えた訳だ。


しかし、チリンと涼しげな音をたてる風鈴の下がる縁側に一列に座り、玉の汗を流す麦茶のグラスを思い思いに傾けながら、皆一様に押し黙っていた。

久しぶりに会って、最初に近況を話してしまえば、次の話題が出てこない。

昔もみんなでこうやって座り、おやつを食べながら騒いでいたが、その時はこの場にもう一人いるのが当たり前だった。

・・・だから皆黙っているんだ。感傷に浸っているか、浸らないように我慢してるか、どっちかは分からないけど、今、口を開けばジェインの名が出てきてしまう。

ジェインを口実に集まったのではあるが、口に出してヤツの事を語るのは、俺にはまだ無理だ。いや、おそらくずっと無理だ。


時は流れても思い出は変わらない。

いや、時が経てば経つほど、思い出は理想を含み色合いを増す。

違う場所にすれば良かったかもしれない。

珍しがってやたらと出入りしたこの縁側も、今は実の無い庭の夏みかんの木も、花火をした庭も思い出が多過ぎる。


いや違う! こうしてシンミリしてたら、今日集まった意味が無い。

関係の修復を図りたいのだから、何かを言わなければならない。

・・・ただ何を言えばいいのか分からない。

「何も考えずに思いっきり遊ぼう」なんてのは、いい年しておかしいし、「ジェインの事は忘れて、また仲良くしないか?」・・・なんてのは嫌だし。

難しいな。

そうしてイライラと考え込んでいると、不意にチャイムが鳴った。

パタパタとスリッパの音をたてて母が玄関に向かったのだが、すぐに俺の名を呼んだ。


-*--*-


「大きい箱ねぇ、リョータ何か頼んだの?」

そう言うのも当然で、長さ250cm、幅100cm、高さ80cmくらいの金属の塊が防水ビニールに包まれている。どれくらいの重量なのか分からないが、到底人の手では動かせそうもない。今宅配の人が使っているエア・リアカーでも使わないと無理だろう。

「知らないよ。俺何も頼んでないし、第一頼んでも実家には送らないって。」

「でも、受取人はリョータよ?」

「・・・はい?」

受取証を母から受け取り、受取人の名前を見ると確かに俺の名前だった。

そして、差出人の名前を見ると『ジェイン・カーティ』とあり、息を呑んだ。

「あ、あの、これ庭のほうに入れてもらえますか?」

心臓が急に跳ね、息苦しさを覚えながらグリーン・エクスプレスの配達員に頼んだ。

ジェインは何を寄越してきたんだ? 10年前にいなくなったってのに、アイツはいつこんなものを仕込んでたんだ?


板垣に注意しながら、慎重にエア・リアカーを操作し庭まで運び入れてもらうと、フユカとミレイが、「何それ?」とそれぞれに尋ねてきた。

「わからん。・・・が、ジェインからだ。」

当然2人も、俺と同じように息を飲んだ。

「・・・何でジェインが?」

「さぁ、随分と手間のかかる仕掛けをしてたらしいな。」

「・・・そうね、じゃぁ空けましょう。」

この暑いのに青い顔をしたミレイが、縁側から降りて荷物に近付き、表面を覆う防水用のビニールを剥がし始めた。

「やる事早いな。」

「だって気になるじゃない。」

結婚してようがしてまいが、彼女は相変わらずだ。

一方フユカは、縁側に座ったまま近付けずにいる。予測不能の出来事に、状況の整理がつかないのかもしれない。

時間の劣化によるものか、一部張り付いてしまったビニールを俺も一緒になって必死に剥がすと、小さなディスプレイとアルファベットのコンソール、そして小さなメモが貼り付けてあった。

『君たちの名前を』

そのメモに書かれていたのはたったそれだけ。

しかし、その字を見ると懐かしさが込み上げてくる。少し右上がりの細い線は確かにジェインのものだ。

順番とかあるのか? と、気にならない訳ではないが、指示に従い3人の名前を入れると中で何かが忙しく動く音がして、ディスプレイに『10:00』と表示された。

そして、ディスプレイの数字は徐々にその数を減らしていった。


-*--*-


10分後、カウントが『0』になり、続いて『OPEN』と表示されるとロックの外れる音がして、冷やりとした白い煙を吐き出しながら蓋が開いた。

そして、煙が薄れるともう1つ内側の蓋が開き、よく知る人物が姿を現す。

・・・正確には、記憶にあるよりいくらか年を取っている。そう、映像でよく見る姿そのままだ。

そいつはゆっくり目を開けて、何度か(しばた)いた後、俺に気付くと、

「よっ、久しぶり。」

と、何て事ない挨拶をしやがった。

・・・人の気も知らないで何てヤツだ。

だから、負けずに言い返してやった。

「お前、今日はやけに寝起きがいいじゃないか。」

「・・・せっかくの感動の再会の一言目がそれか? まぁこれは特殊な眠りだから、俺の寝起きは関係ない。」

冷凍睡眠装置が世の中にある事は知っているが、それは医療目的であったり、遥か遠くへ旅立ちたいヤツが使うもので、日常生活には一切関係ない。よって、実際に使った事はない。

「しかし10年ぶりだぞ? 今まで何してたんだ?」

俺の感覚から言えばそうなるのだが、実際にはそんなレベルの話では無いはずだ。

「使命を果たしてきた・・・って、とこかな?」

悪戯を仕掛けた時みたいに笑う姿は、正直泣きそうだ。

もう会えないと10年前に思った。もう映像でしかその姿を見る事は無いと思っていた。なのに・・・。

「自分の時間を止めての時間移動? 無茶するわね・・・まったく。」

涙声のミレイが、ジェインの傍で膝をついた。

「ああ、正直賭けだったんだが、無事成功したみたいで良かったよ。」

ジェインは確認するように腕や足を動かしていたが、あっさり体を起こしてミレイの涙を拭いてやってた。

「良かった・・・。」

出遅れたフユカも、涙でグシャグシャだ。

「未だコーラルが存在しない時代から、きちんとこの日のこの場所に配送されるか、皆が集まってくれるかも不安だったんだが・・・やっぱり俺は天才だな。パーフェクトJの名は伊達じゃないだろ?」

じゃぁ、あのメールの送り主はジェインだったのか?

350年も前から仕掛けてたって・・・一体どんな手を使ったんだか、俺には想像もつかない。諦めずに無茶をする所もそのまんまだな、

「ははっ・・・何てヤツだ。それ笑えねぇよ。」

まったく、笑おうにも涙しか出てこないっての。


コールドスリープ装置から抜け出したジェインは、夏の空を眩しそうに見上げて微笑み、そして嬉しそうな声を上げた。

「これこれ、やっぱり空はこの色じゃないとな。」



俺たちにはいつもと変わらない当たり前の色だ。しかしアイツが長い長い眠りにつくまで見ていた空は、青い色をしていたのだろう。

記録映像でしか見た事の無い、不思議で美しい色。

・・・けれど、この空が一番なのかもしれない。満足そうなジェインを見てると、何となくそう思った。

当たり前のいつもの事・・・そして、いつもの仲間。

幸せになろうとするのに資格なんかいらなくて、変に気にするのもおかしくて、当たり前に生きている事、それこそが幸せというものかもしれない・・・って。


俺は・・・後悔の鎖から放たれて、今やっと自分を許せるような気がした。


パーフェクトJから350年。

・・・妙な偶然だなこれ。

これじゃ、何となくガリレオみたいじゃないか?

最後まで読んで頂きありがとうございました。


当初は、帰って来るなんて考えてなかったのですが、何となくシックリこなくて。

やっぱりハッピーエンドがいいです、はい。

きっと今後も大変でしょうが、居場所はあるので彼は大丈夫です。


如何でしたでしょう? たぶん広げた風呂敷は全部畳んだはず・・・。

ありがちですか? 途中でオチ、バレちゃってましたか?


これを書くに当たって、すっごいウィキペディアのお世話になりました。

太陽関連、惑星、地球、光、何度もいっぱい読みましたが・・・大したこと無い?(^^;


次、1本書いてから、その次に「サマーグリーン」って惑星のお話を書いて、

空想科学祭に参加したいと思います。

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