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最低の旅の終わり

4日目の今日は、予め申請しておいた、6人乗りのレンタルシップのキーをフロントで借りた。

この旅は今日で終わりとなり、明日にはこの宇宙空間に別れを告げ、コーラルの重力の支配下に戻らなければならない。

昨日は宇宙の大きさに恐怖を覚えたが、今日はそんな事を考える暇もないほど遊び倒してやる。


サファイアとコーラルの間に出されていた航行禁止は、今朝早くに解除されていた。


『・・・フレアの影響ですが、2日が経過して空間は安定したと思われます。しかし念のため、レーダーで質量の偏りや電磁波の乱れが無いかを確認し、十分注意して航行するようにして下さい・・・』


起き抜けに見たニュースでそう言っていた。

という事は・・・希望通りサファイア方面に行けそうだなと眠いながらも喜び、欠伸をしてベッドから降りた。

隣のベッドのジェインはまだしっかり寝ており、長い髪が横を向いた顔の半分以上を隠している。

くすぐったくはないのだろうか? という素朴な疑問が胸に湧いたが、そのままにして眠気覚ましのシャワーを浴びる事にした。


シャワーを終えて部屋に戻ると、ジェインはベッドの上で胡坐をかいてボンヤリしていた。

「よぉ、起きたか?」

「んー、・・・半分くらいな。」

酒が入っていようがなかろうが、こいつはあまり寝起きの良い方ではない。

目を覚ましてから実際に活動出来るようになるまでには、機械で言う所の『暖機』の時間が必要になる。

髪を後ろでザックリまとめ、背を丸めて(うつむ)いている姿は確かに半分眠っているらしい。

「動けるなら、顔でも洗って目を覚ませ。」

「・・・動けないからこうしてるんだ。」

まぁそうなんだろうが。

「あぁそうだ、サファイアとコーラルの間に出されていた航行禁止が解けてたぞ。」

ふと思い出してニュースで見た事を伝えた。俺は嬉しさから少し興奮気味なのだが、

「ふーん。」

それしか返ってこなかった。

・・・くそっ、寝起きのジェインは張り合いが無いな。


指定のレストランで、バイキング形式の朝食を食べながら今日の予定について皆で話し合った。

「どうする? 航行禁止解除されてたから、予定通りサファイアの方に行く?」

「ああ、通れるようになったんだ?」

一度俺の言った事を、今再びミレイから聞いたはずなのに・・・ジェインは今初めて聞いたかのような反応を示してくれる。

・・・お前、やっぱり寝てたんだろう?

「俺はそれに1票。」

焼き魚を箸でほぐしながら、俺の意見を伝えた。

「えー、でも何となくまだ怖くない? 不安定な空間って何が起きるか分からないから、危ない気がするんだけど・・・。」

しかしフユカは、フルーツの入ったヨーグルトを混ぜながら眉根を寄せる。

「さて? 航行局は解除したけど、安全性までは分からないってのが本当の所だな。正確には宇宙に安全な所なんか無いしな。」

コーヒーを啜るジェインは、何となくはぐらかして軽く笑う。そりゃ確かに100%安心って場所は無い。

「じゃぁ、もしサファイアの方に行かないなら、どっち行く? とりあえず今の惑星の並びだと、シトリンの方に行くって手もあるけど、今はシトリン側に太陽の黒点があるからお薦めはしない。」

うん、次のフレアに遭遇したくはないな。すぐに起こるかどうかはわからないが、可能性の高い場所に当たる。

「・・・それは他に選択肢が無いって言わない?」

フユカは呆れた視線を議長のミレイに向けるが、当の本人は気にした様子も無く別の選択肢を示した。

「惑星の無い外の宙域に向かうってのもあるけど?」

予想外の発言に驚き、味噌汁が気管に入りそうになってむせ、俺は激しく咳き込んだ。

「大丈夫?」

しかし、フユカの気遣いを手で制し、結構必死に声を出した。

「・・・それは、選択肢に・・・含めないで、ほしい。」

「そう?」

ミレイの返事からしばらくの間が開いた後、他の2人は呆れた様子で失笑し・・・(こら)え切れずにそのまま大声で笑ってくれた。

周りにいた他の客が何事かと振り向き、注目を集めるがこの2人は一向に意に介さず。ミレイに至っては興味も無い様子で、何か俺1人だけ恥ずかしい思いをしているような気がする。

「・・・必死だ、こいつ必死だ。」

苦しそうに笑うジェインに、「それはお前もだ!」と、心の中で突っ込んでおいた。


--*-*--***--*-*--


レンタルシップの窓の向こうに、青い青いサファイアが見えている。

・・・これは不本意ながらも、朝食時のやりとりの成果である。


サファイアはコーラルよりも外を回る惑星で、目の覚めるような青から水が豊富にある・・・らしいが、その形状は固体である。

太陽から遠い分、寒く凍てつく氷の惑星なのだ。

大気にはガスが多く、その何種類も交じり合ったガスが青以外の光が吸収してしまうため、こんなに見事な色をしているらしい。

・・・俺も説明を読んだだけなので、そのくらいの知識しか持ち得ていない。


操縦席のミレイ以外はセーフティースーツを着込み、嬉々として宇宙に飛んだ。

目に見えるサファイアはアーモンドのような形をしている。昼の部分から段々と闇に呑まれ、夜の部分は黒く塗りつぶされている。

とはいえ、船外で完全な形を見るために日の当たる側に出る事など出来ない。

当たり前だが太陽の影響が大き過ぎる。

残念ながらセーフティースーツにそこまでの耐久性は無く、まともに太陽風の熱や放射線を浴びるなんて、そんな自殺行為は出来ない。


しばらく経つと、ジェインは危なっかしいフユカに付きっ切りで、結局1人で放って置かれる形になった。

飛び回るのにも飽きてきた俺は。星の世界に浸る事にしようと宙を漂う事にしたのだが、延々聞こえてくるフユカの悲鳴は甲高く耳に付く。

なので、フユカとのラインはあっさり切ってしまった。

一方、根気良く励ましながら指導を続けるジェインの声を聞いていると、さすが家庭教師が出来る人間だなと、妙に納得してしまった。



いつ音が消えたのか記憶に無い。

目を遥か昔に放たれた彼方からの光に向けて、意識は自分の内側に向け、光の放たれた場所へ思いを馳せていたら、聞こえてくる声が気にならなくなっていた。

だから、本当に音がしなくなっていた事に気付いていなかった。

必死な様子のジェインに腕を引かれ、その時初めて無音に気付いた。

・・・本当についてないな俺は、また無線がいかれたらしい。急いでサブに切り替えると、

「急げ、何か異常が起きたらしい。シップに戻るぞ。」

マジか? 緊急事態じゃないか。

冗談で無い事は、声を聞けば判る。

「解った。」

それだけ答えてスラスターを操つり、シップに戻る軌道を取り少し速度を上げた。

「フユカは?」

「もうシップに戻った。」

「そうか。・・・悪い、俺のまた無線がいかれてた。異常って何だ?」

「ミレイが言うには、近くで質量の異常が発生したらしい。一点だけが急に増えて何が起きるか判らないそうだ。」

「なるほど・・・。」

とは言ったものの、俺にも何が起きるのか想像もつかない。

『急いで、どんどん質量が増えてる。』

「努力はしてる。」

現に何度かスラスターを噴射して、結構な速さが出ている。

おかげで少し減速に失敗した。

「焦るな。」

ジェインの声がした。

だから今度は落ち着いて慎重に、行き過ぎた分を戻りハッチの下に戻ると

「早く入れ。」

とヤツは入りかけた状態で待っていた。

無事2人ともシップに入り、扉が閉まりはじめた所で、何かに下に引っ張られでもするような感覚がして、景色が上に流れた。

異常な事態に思わず叫び、無線でジェインの短い叫びも聞こえた。

そしてまもなく扉は閉まり、俺は無事シップの中に残っていたが、そこにジェインの姿は無かった。


はっきり言って何が起きたのか良く解らない。しかし、今の状況から言って、閉まりかけた扉の向こうに引きずり出されたとしか考えられない。

「・・・何だ? おいジェイン!?」

無線で呼びかけるが、返答は無い。

ディスプレイを見ると、ジェインの無線機の反応そのものが消えていた。

くそっ、また故障か? この欠陥品め、リコールかけた方がいいんじゃないか?

『今の何? 真下で一瞬高エネルギーが発生したんだけど。』

「ジェインが消えた!」

『どういう事?』

「俺に解るかっ!!」

思わず叫んで、微かに聞こえたミレイの息を飲む音に後悔した。

ここで騒いだ所でどうにもならない。それよりもジェインだ。

「悪い。・・・扉が閉まる前にジェインが外に出されちまった。何かに引っ張られる感覚があって、たぶんその時だ。」

『外部のレーダーに彼の姿は・・・無い。ちょっと待って、記録を見てみるから。』


しかしレーダーにも、船内・船外の映像も記録に残っていたのは一瞬だけで、突如として現れた高エネルギーと共にジェインの反応、そしてその姿は消え失せた。

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