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断罪


「リリアナ……っ! これは、その……何かの間違いだ! そうだ、誰かが俺たちを陥めるために細工を……!」


 レオンハルト殿下は、震える声で無様に言い逃れを始めた。先ほどまでの傲慢な態度はどこへやら、その顔は脂汗でひきつり、見苦しく泳ぐ視線が救いを求めるように私を捉える。私は、その差し伸べられた手を視線だけで冷酷に切り捨て、1歩、また1歩と優雅に壇上への階段を上った。


 ヒールの音が、静まり返った講堂に小気味よく響く。壇上に辿り着いた私は、呆然と立ち尽くす王子の前で、これ以上なく美しく、そして心底冷ややかな微笑を浮かべた。


「殿下。……いいえ、レオンハルト様」


 真っ直ぐに名前を呼ぶ。彼はびくりと肩を揺らした。


「何を狼狽えていらっしゃるのです? 『証拠など必要ない。彼女が泣いている、それが全てだ』……そう仰ったのは、貴方ではありませんか。あの時、いわれのない濡れ衣を着せられた私の心はズタズタでしたのよ」


 嘘泣きとも呼べないほど、杜撰に言葉を紡ぐ。しかし、レオンハルトは私の言葉に目に見えて狼狽えた。きっと焦りすぎて、まともに真偽を見分けられないのだろう。この期に及んで謝罪ではなく、保身に走るとは。結局、この程度の人だったということだ。


「そ、れは……」

「もう、結構ですわ」


 私は、縋り付こうとする彼の言葉を一喝した。


「婚約を破棄していただいたこと、今では心より感謝しております。おかげで、盲目な愚か者に捧げるはずだった私の人生を、取り戻すことができましたもの。……ああ、もう他人ですので、これ以上私に近づかないでいただけますか? 『悪女』の毒が移ってはいけませんでしょう?」

「あ……、あ……」


 王子の顔が、屈辱と絶望で土色に歪んだ。衆人環視の中、かつて自分が泥を塗って捨てた女に、これほどまでの慈悲なき宣告を突きつけられる。これ以上の屈辱はないだろう。


 一方、王子の背後に隠れようとしていたミレイユ・ローズは、すでに蛇に睨まれた蛙のように震えていた。


 「嘘よ……嫌、私は、私は聖女なのよ……っ!」


 彼女が叫ぶが、その言葉を信じる者はもう1人もいない。先ほどまで彼女を「可憐だ」と称賛していた生徒たちは、今や汚物を見るような、冷え切った軽蔑の視線を彼女に浴びせている。


「聖女候補? 笑わせないで。貴女がしていたのは、神聖な魔力を私欲と虚栄のために浪費する、ただの『魔女』の所業ですわ」


そこへ、アルヴィン様が冷徹な追撃を加える。


 「ミレイユ・ローズ。貴様が『誘惑の宝珠』を盗み、悪用した事実もすでに罪にかけられている。私利私欲のために王族に術をかけ、公爵令嬢を陥れようとした罪……。退学だけでは済まないと思え。残りの人生は、冷たい石牢の中で反省することだ」

「ひっ……! 嫌あぁぁぁぁ!」


 ミレイユはその場に崩れ落ち、警備兵によって無残に引きずり出されていった。その際に乱れた髪や剥がれた化けの皮は、まさに彼女の浅ましい本性を象徴していた。


 残されたレオンハルト殿下も、もはや無事では済まなかった。


 「殿下。陛下より伝言です」


 いつの間にか現れた王宮魔導師が、非情な宣告を下す。


「『常日頃の婚約者への非礼な振る舞いだけでなく、いとも容易く術をかけられて心身を掌握されるとは。そのような者に王位は相応しくない』とのこと。本件を以て、貴方の王位継承権は最下位に。また、国境警備の任に就くまでの間、謹慎を命じられました」

「そんな……王位が……俺の、権力が……」


(まだそんなものに縋っていたのね)


 膝をつき、舞台から転げ落ちるように退場していく元婚約者。全校生徒の冷ややかな視線に晒されながら去っていく彼の後ろ姿に、かつての威厳は微塵も残っていなかった。

 

 講堂に、嵐のような拍手と、私への謝罪の声が沸き起こる。


 けれど私は、そのどれにも興味はなかった。ふと視線を横に向ければ、アルヴィン様がわずかに満足げな、そして少しだけ独占欲の混じった瞳で私を見つめていた。


「……見事な反撃だったな、リリアナ」

「いいえ。協力してくださった貴方がいてこそですわ、アルヴィン様」


 周囲の熱狂を余所に、私たちだけの時間が流れる。

 泥を落とし、宝石よりも眩しく輝きを取り戻した私は、彼の腕に優雅に手を添えた。



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