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逆転劇

 数日後。王立アルヴェリア魔法学園の大講堂は、異様な熱気とどこか粘りつくような悪意に包まれていた。

 今日は月に一度の全校集会。全校生徒に加え、教師陣、さらには王家の威光を盾に一部の貴族たちまでが傍聴席に名を連ねている。こんなにも人が集まるのは異例なこと。きっと、第1王子の元婚約者が公開処刑される様を見て、あざ笑いたいのだろう。その証拠に、私の身には下品な視線が集まっていた。


 それらの視線に無視を決め込み、顔を上げる。視線の先にある壇上の中央、豪奢な装飾が施された演壇に立っているのは、我が物顔で胸を張るレオンハルト殿下。そしてその隣には、いかにも『無垢な少女』といった風情で小首をかしげるミレイユ・ローズがいた。


「皆、静粛に!」


 レオンハルトの声が講堂に響き渡る。


 「今日は、この学園の浄化を宣言するために集まってもらった。長らく我々を悩ませてきた、聖女候補ミレイユへの卑劣な『いじめ問題』。その首謀者であるリリアナ・フェルディアに対し、本日、王家の名の下に最終的な裁きを下す!」


 レオンハルトの背後で、ミレイユがわざとらしく目元をハンカチで押さえた。


 「私……リリアナ様を恨んではいません。でも、正義は果たされなければならないって、殿下が……」


 震える声、健気な態度。周囲の生徒たちからは「なんて慈悲深いんだ」や「それに比べてリリアナは……」という罵声に近い囁きが漏れる。


 私は、講堂の最前列で背筋を伸ばし、その茶番を静かに見守っていた。

 殿下の隣で、ミレイユが私と視線を合わせた瞬間__彼女がハンカチの下で、真っ赤に塗られた唇を歪めて勝ち誇ったように笑ったのが分かった。


(さようなら、リリアナ様。貴方の居場所なんて、もうどこにもないのよ)


 そう、瞳が語っていた。目は口程に物を言うとはいうが、どうやら本当らしい。そんなことを他人事のように考える余裕すらあった。


「さあ、リリアナ! 前に出て、ミレイユに膝をつき、その罪を……」


 レオンハルトが断罪の言葉を紡ごうとした、その瞬間だった。

 ゴォン、と重厚な鐘の音が講堂に鳴り響いた。壇上に据えられた、儀式用の巨大な記録水晶が、突如として禍々しいまでの青い輝きを放ち始める。


「な、なんだ!? 何が起きている!」


 慌てふためくレオンハルトを余所に、講堂の空間そのものをスクリーンに変えるように、巨大な映像が浮かび上がった。


 それは__1ヵ月前の、うららかな中庭の風景だった。


 画面いっぱいに映し出されたのは、天使のような微笑みを消し去り、毒々しいほど冷淡な表情をしたミレイユ・ローズ。彼女は周囲を一度だけ確認すると、自らの足元に鋭い風魔法を放ち、派手に転んで見せた。


『ふふっ、これでまたリリアナ様のせいにできるわ。あのお馬鹿な王子様なら、私が泣きつけばすぐに信じるもの』


 再生された声が講堂に響くと同時に、空気は一瞬にして氷点下まで凍りついた。映像の中の彼女の声は、魔法によって増幅され、隅々にまで残酷なまでに明瞭に響き渡る。教師陣は勿論、笑いに来ていた貴族までもが唖然としている。


「え……?」

「今の、聖女様の声……?」

「嘘だろ。まさか、自作自演……?」


 映像は止まらない。分散したスクリーンには、全て違う映像が映し出される。

 

 1人で自分の教科書をナイフで切り裂く姿。階段で誰もいないのに突き飛ばされたふりをする姿。第1王子に取り入るための綿密な計画まで__。そして、最も大きなスクリーンに映し出されたのは『誘惑の宝珠』を盗んだ現場だった。


 その全てが、嘘偽りのない証拠として、数多の瞳に焼き付けられていく。


「な……なんだこれは! 消せ! 今すぐ消せ!」


 王子が顔を真っ青にして叫ぶが、操作卓に駆け寄った騎士たちは見えない結界に弾き飛ばされた。


 その混乱を割って、1人の男が悠然と壇上に現れた。

 銀髪を翻し、冷徹な美貌に微かな嘲笑を浮かべたアルヴィン・クロイツェル様だ。


「無駄だ、レオンハルト。これは学園の魔導記録から直接抽出した、真正なる映像だ。改ざんは……たとえ王族であっても不可能だ」

「アルヴィン、貴様……!」

「見ての通りだ、諸君」


 アルヴィン様はレオンハルトを無視し、全生徒に向けて、凛とした声を響かせた。


 「リリアナ・フェルディアへの糾弾は、すべてこの女の捏造による冤罪である。……真の『悪女』が誰であったか、これ以上説明する必要はあるまい」


 その一言が、導火線となった。

 今までミレイユを擁護していた生徒たちの顔から血の気が引き、次にその視線が燃え盛るような怒りへと変わる。


「……嘘よ。こんなの、何かの間違いよ!」


 ミレイユが絶叫するが、その声はすでに誰の心にも届かない。


 私は、ゆっくりと立ち上がった。

 混乱の渦中で立ち尽くす王子と、震えながら後退りするミレイユを見つめ、最高の淑女の微笑みを浮かべる。


「殿下。……何か弁明はございますか?」



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