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証拠集め

 翌日から、私たちは極秘裏に行動を開始した。

 向かったのは、学園の地下深くに存在する、厚い石壁と強力な結界に守られた魔導記録室である。


 松明の炎が揺れる薄暗い通路を、アルヴィン様と共に歩く。コツ、コツと二人の足音だけが重なり、密やかな連帯感が胸を支配した。


 「……驚きました。これほどの重要施設に、学園生が立ち入る許可を持っているなんて」


 私が横顔を盗み見ると、アルヴィン様は淡々とした口調で答えた。


 「クロイツェル家は代々、この学園の結界維持を任されている。……まあ、私物化するつもりはないが、不当な裁きを見過ごすほど俺は気が長くない」


やがて辿り着いた最深部。そこには、巨大な青い水晶が鎮座していた。学園内で放たれたあらゆる魔力を感知し、その残滓を映像として記録する真実の眼だ。


「いいか、少し眩しくなるぞ」


 アルヴィン様が水晶に手を触れ、静かに魔力を流し込む。

 瞬間、冷ややかな魔力の奔流が室内に満ち、空中に淡い光の粒子が舞った。それらはパズルのように組み合わさり、数日前の中庭の光景を鮮明に映し出す。

 


 そこには、周囲に誰もいないことを確認し、1人で佇むミレイユの姿があった。


 『……ふふっ、これくらいかしら』


 映像の中の彼女は、可憐な外面からは想像もつかない冷酷な笑みを浮かべ、自らの足元に精密な風魔法を放った。わざとらしく転び、制服を汚し、膝を擦りむく。


 『きゃあっ! 誰か……誰か助けて……っ!』


 その声を聞きつけ、数人の学生が集まってくる。その中には、元婚約者のレオンハルト様の姿もあった。必死な顔で彼女を支えるその姿に、無意識の内に眉間にしわが寄る。


 

「……思っていた以上に、お粗末な自作自演ですね」

 

 私は思わず額を押さえた。あまりの執念と、あまりの浅はかさ。ツッコミどころしかないそれに、呆れしか浮かばない。


 「魔法式が彼女固有のサインを捉えている。言い逃れは不可能だ」


 アルヴィン様の声は氷のように冷たい。彼はさらに操作を続け、別の日の映像を呼び出した。


 今度は、ミレイユが一人で自分の教科書をズタズタに切り裂き、その後で「リリアナ様にやられました」と教師に泣きつく場面が、音声付きで完璧に再現された。証拠としては、これ以上ないほどに真っ黒だった。


「まだまだあるな」


 数えきれないほど出てくる自作自演の証拠。

 念のため、多めに証拠だけ確保しておく。言い逃れ場出来ない。まあ、させるつもりは毛頭ないけれど。


 アルヴィン様が魔法を解き、室内は再び柔らかな闇に包まれる。

 ふと視線を感じて顔を上げると、彼は至近距離で私を見つめていた。薄暗がりの中、彼の青い瞳が、星のように鋭く光っている。


「……リリアナ」


 唐突に名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。


 「はい、アルヴィン様」

 「これを使えば、君の潔白はすぐに証明される。だが……王家を敵に回すことになる。覚悟はできているのか?」


 その問いには、彼なりの深い懸念がこもっていた。公爵家の嫡男として、政治的な危うさを誰よりも理解しているはずの彼が、それでも私のために動いてくれている。

 私は、彼の胸元にそっと手を添えた。上質な上着越しに、彼の規則正しい鼓動が伝わってくる。


「……覚悟は、あの食堂で捨てられた瞬間に決まっておりますわ」


 私は、わざと悪戯っぽく微笑んで見せた。


 「密室でこっそり身の潔白を訴えるなんて、フェルディア侯爵家の令嬢としては芸がありません。……どうせなら、全校生徒の前。それも、あの方々が最も輝いている瞬間に、奈落へ突き落として差し上げたいのです」


 私の言葉に、アルヴィン様は一瞬だけ呆然と目を見開いた。


 そして次の瞬間__彼は、声を殺して愉しげに笑ったのだ。

 普段の鉄面皮からは想像もつかない、少年のような、そして酷く煽情的な笑み。


「……君は、毒を含んだ薔薇だな。だが、嫌いじゃない」


 彼は私の手に自分の手を重ね、指先を優しく絡めた。


 「その反撃、俺も最後まで特等席で見させてもらおうか。君に暴言を振りまいた連中が、どんな顔で這いつくばるか……今から楽しみで仕方がない」


 絡められた指先から、彼の熱が伝わってくる。


 復讐への高揚感か、それとも彼への高鳴りか。

 私は火照る頬を隠すように、静かに頷いた。



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