9.推しと遊園地デートとか、夢!?(1)
私が配信に出るのを辞めて、マモルのチャンネルから男性ファンが少しだけ減少したようだが、ほとんど変わりはなかった。
瑠為くんとは、軽くメッセージをやりとりすることはあったけど、なかなか会うこともなく、日々は過ぎていった。
そんな矢先、ネットニュースで衝撃の記事を目にした。
「ルイが……ドラマの……主役……!?」
アイドルに芝居はつきものだ。
でも、ルイは歌唱力を売りにしていたので、あまりドラマなどに出ることはなかった。
出ても友情出演みたいな、美味しいけど出番は少ないやつ。
それが、主役。
(大抜擢じゃん!!)
私は大興奮していた。と同時に、僅かながら不安もあった。
ルイは、確かに、抜群の歌唱力を誇る。
ダンスもすごいし、バラエティのトークもうまいし、グループをまとめるのにも長けている。
だけど、芝居に関しては、なんというか、その。
ちょーっとばかり、苦手なようだった。
(大丈夫かなあ)
私なんかが心配することではないけど。
そんなことを思っていた矢先、瑠為くんから連絡があった。
【みのりさん、デートしませんか?】
ぎょっとして、画面を見たまま暫くフリーズしてしまった。
宛先を間違えているのだろうか、誤爆というやつだろうか、でも私の名前が入っているし。
震える手で、何とか返信を打つ。
【詳細をお伺いしてもよろしいでしょうか】
しまった、業務連絡か。瑠為くんもそう思ったようで、
【これプライベート用で合ってますよね?(笑)社用だったりします?】
うおおおお、文面からでも見える推しの笑顔……!
すみませんと謝って、あらためて詳細を聞く。
【実は、今度ドラマの主演をやることになって】
知ってます知ってます、と頷きながら、オタクっぽさを出さないために口を挟まず次を待つ。
【俺、あんまり普通のデートってわからなくて。恥ずかしいんですけど、芝居があんまりうまくない自覚あるんで、気持ちだけでもしっかり作っておきたくて。役作りに付き合ってくれませんか?】
なるほど。ドラマの役作りのために、一般人らしいデートがしてみたい、と。
そういえば、瑠為くんって芸能活動始めたの早かったもんな。あんまり普通の青春時代は送ってないのかも。
【場所は遊園地を考えてるんですけど、どうですか?】
【遊園地? 人の多いとこだと目立っちゃわない?】
【変装はするんで。それに、万が一に備えて、サポートを待機させておくので、あまりあちこち移動しないようにしたいんです】
なるほど。映画見て、ご飯食べて、ショッピングして、みたいなコースを組んでしまうと、それだけ人目に触れるリスクも増えるし、見張る方は大変だ。
個室居酒屋の時と同じように、近くに誰か待機させておいて、万が一見つかって騒ぎになりそうだったら「グループで遊びに来た」という体を装いたいのだろう。
だったら確かに、1日遊んでいられて、食事や買い物も中で全て済ませられるテーマパークは適しているかもしれない。
【わかった。遊園地デート、楽しみにしてる】
瑠為くんからスタンプが返ってきて、私はそのまま流れるように五体投地の姿勢をとった。
いや、役作りだけど。疑似だけど。
推しと、デート…!?
(私、正気をたもっていられるかな……)
醜態をさらさないか、今から気が気でなかった。
☆★☆
日々はあっと言う間に過ぎて、いざデートの日。
現地集合だったため、私は早くから遊園地の前で待機していた。
間違っても、推しを待たせるわけにはいかない。
もう外で待つのは寒い季節だけど、推しを待つのは全然苦ではなかった。
暫く待っていると、人の流れにのって、ニット帽とサングラスで顔を隠した人が見えた。
シルエットが瑠為くんっぽいな、と思っていると、その人物は手を振りながら近づいてきた。
「みのりさん、お待たせしました」
少しサングラスをずらして、挨拶してくれる。
ああ~、この待ち合わせ感~。
思わず拝んでしまいそうなのを隠して、私は笑顔で答えた。
「ううん、全然」
「それじゃ、行きましょうか」
手を差し出してくれた瑠為くんに、一瞬固まってしまう。
こ、こ、これは。
手を繋いでいいって、ことですか…!?
こ、恋人ならそうか。そんなもんか。
あれ恋人?
「瑠為くん、デートの前に設定を確認しておきたいんだけど、一緒にデートする相手は恋人でいいの? それとも片思い?」
「ああ、そうですね。ええと……最初は片思いから始まるんですけど、デートする頃には恋人です。今日の目的は、デート中にする自然な仕草とか、女の子がきゅんとするポイントとか知りたいかなって。なので、きゅんとしたら、丸でも作って教えてくれると嬉しいです」
「そんなバラエティみたいな」
冗談めかした瑠為くんに、私も笑って答える。
というか、それで言うと、私は四六時中ルイにときめいているので、常に丸作りっぱなしになるんだけど。
「そうだ。その役って、敬語キャラ?」
「いえ?」
「だったら、瑠為くんも普通に喋ってよ。ちょっと気になってたんだよね。私の方が年上ではあるけど、友達だって言うなら、そういう上下関係みたいなのが見えるの嫌だなって」
そういう礼儀正しいところも好きだけど。
パワーバランス的にはどう考えたって私の方が下だし。
瑠為くんはちょっと考えて、その方が役に近いと思ったのだろう、ひとつ頷いた。
「わかった。みのりさん」
にこっと笑った瑠為くんの笑顔と、崩れた言葉遣いに、胸を撃ち抜かれた私は手で丸を作った。
「え? 今ので?」
「う……ごめん、私、採点ガバガバかも」
「ええ? 厳しくしてくれていいよ」
声に出して笑う瑠為くんは、年相応の青年に見えて、可愛い。
まだ24だもんなあ。
「それじゃ、改めて」
「……うん」
瑠為くんが差し出してくれた手を握り返して、私たちは遊園地内に入った。
「まず何からいく?」
「体力ある内に、テンション上がるやつに乗りたいな。絶叫系とか」
「みのりさん絶叫平気なんだ」
「割と好きだよー。スカッとするしね」
「じゃあまずジェットコースター行こっか」
ジェットコースターの列は、冬の平日だというのに、そこそこ並んでいた。
列に並んで喋っていると、バレるリスク上がるんじゃないかなあ、なんて思っていたら。
「みのりさん、こっち」
「あれ? 並ばないの?」
「俺、特別優待パス持ってるんで」
あれか。金持ちがやる、スポンサー関係とかああいう。
そういえばスタスタ、ここの遊園地のCMやったことあったっけ。
一般のデートが知りたい、という瑠為くんの希望との兼ね合いを考えた結果、多分撮影でもロングで並んでるシーンなんか撮らないだろうと判断し、ありがたく優先で乗らせてもらう。
「ジェットコースターなんて久しぶり」
「友達と遊園地とか来ないの?」
「いやー……大人になると、なかなかねー。よく飲みには行くんだけど、1日使って遊ぶってあんまりしないかな」
「へえ……そういうものなんだ」
「いや、やる人もいると思うけどね? 私の場合は」
「じゃあ、今日は思い切り楽しもうね」
もう既にだいぶ楽しいですけど!
と叫びそうになった時、ジェットコースターが動き出した。
カタカタと上がっていく時間は、なんだかわくわくする。
「ごめん瑠為くん、先に謝っとく。私叫ぶから、うるさかったらごめんね」
「あはは、ジェットコースターって皆叫ぶよね。俺も叫ぼっかな」
「喉大丈夫?」
「このくらい、バラエティでもやるから大丈夫」
ジェットコースターが頂上に辿り着く。
くる、くる、という期待感から、一気に。
がくん、と襲う落下。
「っきゃー!!」
ストレス発散も込めて、大声で叫ぶ。
胃が浮き上がるような浮遊感が気持ちいい。
ぶんぶん振り回されて、ぎゃーぎゃー喚いて。
私はすっかり緊張なんか忘れて、遊園地を楽しんでいた。




