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推しが弟の友達でした!?  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
第一章

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8/20

8.推しとサシ飲みなんて!?

 私が出た動画は、なかなかに好評だったらしい。

 私が出たことにより男性視聴者の登録が増えたらしく、視聴者層が広がったと、真守は喜んでいた。

 対価として、高い焼肉を奢らせたけど。実際、あいつのところにはいくら入ったのか。

 それからも、頼まれて数回だけ動画に出た。

 瑠為くんと絡んだのは、初回のサプライズの1回きり。

 だけど。


(やっぱ異性の介入はよくないのよ)


 以前否定的なコメントをしたのはルイのファンだけで、そのあたりは初回のサプライズの時にも同じコメントをしていたけど。

 私が数回出ると、ちらほら、元々のマモルの女性ファンからも苦言が出てきた。

 当たり前だ。だって彼女たちは、マモルが見たくてチャンネル登録してるのに。

 いくら姉とはいえ、知らん女が喋ってるのなんか聞きたくないだろう。

 ただ、それを真守に告げたところ。


「なんで? そんなに数いるわけじゃないし、気にしなきゃいいじゃん。それより男のコメント増えてる数のが多いよ」


 ほら、とマモルが見せてきたコメント欄には、確かに私に好意的なコメントをする、おそらく男性と思われる人たちのコメントが連なっていた。

 こういうところが、真守の能天気なところ。

 そして、私の気にしすぎなところ。


 真守は、増えた男性ファンに目を向けている。

 私は、減りそうな女性ファンに目を向けている。

 多分、数字で言うと、後者の方が圧倒的に少ない。けれど私は、元々配信者じゃない。


「もう出るのやめるわ」

「はあ!? 中途半端に関わって投げ出すのかよ」

「あほか。そもそもあんたのチャンネルでしょ。私は収益も貰ってないんだから、これ以上付き合う義理ない」


 真守はぶーぶー文句を言っていたが、私はそれきり話を終わらせた。

 ファンを大事にできないやつに、タレントをやる資格はない。

 配信者というのは、生でライブをやったりしないせいか、いまいちその辺の感覚が甘いと思う。

 真守の生活を支えている、お金を払ってくれている人たちが、その画面の向こう側にいるのだと。ちゃんとわかっているのだろうか。



 ☆★☆



 瑠為くんから連絡が来たのは、それから暫くしてからのことだった。

「少し会えません?」というメッセージがきて、私は目を疑った。

 まさか。瑠為くんが。直接会う!?

 めちゃくちゃ忙しいんじゃないだろうか、と思いつつ、でも向こうからの誘いなので、私は瑠為くんの希望日をそのまま受け入れて、仕事終わりに瑠為くんとふたりで会うことになった。


 瑠為くんが指定したちょっと高そうな個室居酒屋に入り、そわそわと瑠為くんの到着を待つ。

 やっぱり芸能人て個室なんだな、とか、持ってきたお金で足りるかな、とか、色んなことが頭をぐるぐると巡っていた。

 個室で待つこと30分。


「すみません、お待たせしました!」


 焦ったような様子で、瑠為くんが個室に到着した。

 良かった、すっぽかされたわけではなかった、と私はほっと息を吐いた。


「ううん、全然。むしろ忙しいのに、ごめんね。急いで来てくれたんだ」

「誘ったのこっちですから。撮影が思った以上に押してしまって……。ほんとすみません」


 瑠為くんが、室内でも帽子は取らないまま、眼鏡とマスクだけを外す。

 暦の上では秋とはいえ、まだ暑いのに。店員対策なのかもしれない。

 高そうな店だから、きっと店員さんも守秘義務がわかってる人たちだろうけど、絶対はないものな。

 それでも会ってくれたのだと思うと、きゅうと胸が締め付けられた。

 いや、しっかりしろ。別に深い意味はないから。


「何飲みます?」

「とりあえず、ビールで」


 しまった、可愛くなかったかな、と思ったけれど、瑠為くんは軽く笑って。


「わかります。仕事終わりは、やっぱりビールですよね」


 その顔だけで3杯飲める。

 内心をひた隠す私に気づかず、瑠為くんはふたり分のビールと、簡単なおつまみを頼んだ。


「食べたいものあれば何でも頼んでください。奢るんで」

「いやいや、とんでもない! むしろ私が奢る側だよ、年上なんだし」

「呼び出した側ですから」

「弟と仲良くしてもらってるし!」

「なんですか、それ」


 お互い顔を見合わせて、同時に吹き出す。


「わかりました、なら割り勘で」

「そうして貰えると助かります」


 財布は痛手かもしれないが、気分の問題だ。

 運ばれてきたビールで乾杯して、さっそく本題に入る。

 瑠為くんは忙しいのだ。だらだら飲みに付き合わせるわけにはいかない。


「それで、今日呼び出した用事って?」


 一応質問の体をとったけれど、実のところ察しはついている。

 瑠為くんはちょっとだけ気まずそうな顔をしたけど、すぐに白状した。


「すみません。真守から、お姉さんを説得してほしいと頼まれまして」

「やっぱりか」

「俺が言えば、言うことを聞くだろうと」


 あの野郎。

 こういうところが安直なんだ。

 確かに私はルイ推しだし、ルイに頼まれたらたいていのことは断れない自覚はあるけど、それとこれとは話が別だ。

 姉弟間の問題に他人を巻き込むとは。


「それで。俺が頼んだら、また真守の配信に出てくれます?」


 こてん、と小首を傾げて尋ねる瑠為くんは、殺人級に可愛い。間違いなく死人が出る。

 だけど、ここで頷く姉じゃない。


「ごめん。瑠為くんの頼みでも、それは無理」

「ですよね」


 ……あれえ?


 あまりにもあっさりと引き下がった瑠為くんにぽかんとしていると、瑠為くんが微笑む。


「みのりさんなら、そう答えると思ってました」

「どうして……」

「自分の意思がしっかりしてる人ですから。あなたが真守のためを思って行動したことを、曲げることはないと思ってましたよ」


 真守のため。

 その言葉に、ぐっと胸が詰まる。

 真守の口から説明されたなら、きっとあいつは私を悪く言っただろうに。

 瑠為くんは、私の行動が真守のためだと、わかってくれた。

 そのことが、とてつもなく嬉しかった。


「それなら、どうして今日来てくれたの?」


 説得できないと踏んでいたなら、わざわざ会う必要はなかったはずだ。

 純粋に疑問だったのだけど、瑠為くんは、少し拗ねたような顔をして。


「……俺が会いたいと思っちゃいけませんか?」


 クリティカルヒット。99999のダメージ。

 じゃないんだわ。瑠為くん、それは、ダメだよ。相手を勘違いさせるよ。

 引きつりそうな顔を必死でこらえて、大人のお姉さんとして振る舞う。


「まさか。私も、瑠為くんとゆっくり話してみたかったもの。一緒に飲めて嬉しい」


 そう答えると、瑠為くんはほっとしたように目元を緩めた。

 うわああ、可愛いいいい。


 それから後は、瑠為くんと他愛ない話をした。

 やっぱりふたりの共通の話題は、真守のことが多かったけれど。

 瑠為くんが、真守のことを弟みたいに思ってくれていることがわかって、嬉しかった。

 配信なんて不安定だし、危ないこともある仕事だけど、芸能界の先輩がついててくれるなら安心だろう。

 それなりに飲み食いしたところで、瑠為くんのスマホが鳴った。


「そろそろお開きにしましょうか。迎えが到着したみたいなんで」

「迎え?」

「真守を呼んでおきました。酔った女性をひとりで帰せませんし」

「えっ!? それであいつ素直に来たの!?」

「根はいいやつなんで。それに、俺のアリバイ作りも兼ねてますから」

「アリバイ?」

「女性とふたりきりで店にいた、って言われないように。真守といた写真があれば、3人だったと言えるでしょう」

「なるほど」


 一応瑠為くんは正体がバレないように気をつかっていたけど、万が一ということがある。

 リスクヘッジはしておくべきだろう。


「今日はありがとう。すごく楽しかった」

「俺の方こそ、ありがとうございます。ゆっくり話す機会は欲しかったんで、今日会えて良かったです」


 さすがアイドル、リップサービスがお上手だ、と思っていたら。


「それと……配信も。正直、みのりさんが辞めてくれてよかったと思ってます」

「えっなんで!?」


 もしかして私なんかひどかった!? と一瞬青ざめたら。


「みのりさんは、俺の推しなんで。他の人が推してるの、やだったんですよね」


 ……え。


 ……え?


「あ、真守来た」

「姉ちゃん、迎えに来てやったぞ〜。感謝しろ」


 弟の上から目線にも、瑠為くんが写真を撮る間も、私のフリーズは解けることなく。


「それじゃみのりさん、また」


 爽やかに手を振る瑠為くんに、ロボットのようにぎこちなく手を振り返すしかできなかった。

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