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推しが弟の友達でした!?  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
第一章

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6/20

6.会えないのが推し!?

「姉ちゃん、瑠為とイベント出たんだって?」


 弟からの突然の言葉に、私はぱちくりと目を瞬かせた。

 今日は料理の差し入れをするため、真守の部屋に来ている。もちろん事前了承は得て。

 こいつ全然料理しないからな。金に任せて宅配と外食ばっかり。

 まあ私も人のこと言えるほど常に自炊してるわけじゃないけど、息子大好きな母が、大層心配しており。

 わざわざ田舎から料理をするためだけに東京まで出て来ようかなんて言うもんだから、仕方なく私が代理を引き受けているのである。


「姉ちゃんの会社そんなにでかくないじゃん。よく呼べたよな。俺のおかげ?」

「自惚れんな。別に私は関係ないし。会社の方で事前に決まってたんだから、お前も関係ないわ」

「えー」


 とはいえ、少しは関係あるのかもしれない。

 だって瑠為くん、真守から私の会社の話聞いてたって言ってたし。

 もしかしたら、それで引き受けてくれたっていうのは、ちょびっと、あるのかもしれない。

 でもそれにしたって、元々ゲームやってたらしいし、真守の功績ってわけじゃない。

 すぐ調子に乗るから、それは阻止しておかないと。


「でも姉ちゃん、人前出たりとかできたんだな」

「できたんだなってなによ。そりゃ社会人なんだから、そのくらいできるわよ」

「ふーん。したらさ、姉ちゃんも配信とか出てみる?」

「はあ?」

「いや、俺のチャンネルもちょっとマンネリ化してきたからさ。せっかく乱入イベントがあったことだし、いっそ姉と実況ってのも面白いかと思って。素人の実況好きな人もいるし、言うてゲーム会社社員だし」

「ふざけんな。社員が実況していいわけないでしょ」

「えー。自社ゲームはダメだとしても、他社ならいいんじゃないの?」

「普通競合他社の方がダメだけどね」

「就業規則確認してみたら? VTuberやってるゲーム会社社員いるじゃん」

「いやいるけどさあ」

「頼むよ、姉ちゃん」


 この生意気な弟が、素直に「頼む」などと言うのは珍しい。

 私は悩んだ末、「確認してみる」と答えた。



 ☆★☆



「え? いいんですか?」

「うん、いいよー。別に規定ないからね。ただ、一応風間さん社員としてイベントで顔出ししてるから、自社の評判落としたり、他社貶して訴訟になるようなことは避けてくれれば」

「はい、そこはもちろん」


 まさかこんなにあっさり許可が出るとは。

 会社で上司に相談したら、ふたつ返事でOKだった。

 実のところ、会社がダメだと言ってくれれば断る口実になると思ったのだが。

 まあ、うちの会社自由だしな。


「せーんぱい。配信やるんですかあ?」

「美心ちゃん……。耳ざといね」

「いいじゃないですかあ! 例の配信者の弟くんですよね? もしかして、ルイくんも一緒ですか?」

「いやいや、そうそう来ないでしょ。それに、弟は私がルイのファンだって知ってるからね。呼んだりしないって」

「えー。また会えるチャンスかと思ったのに。残念ですね」

「美心ちゃんが会えるわけじゃないでしょ」

「わかんないですよ。先輩がルイくんと仲良くなったら、私も会えるかもしれないし?」

「はは……」


 どこまで本気なんだか。相変わらず、この後輩は底が読めない。


「配信日決まったら教えてくださいねー! 絶対見るんで!」


 あんまり会社の人には見られたくないなあと思いながら、私は曖昧な笑顔で頷いた。



 ☆★☆



「で? 配信って何やるのよ」


 私は配信に関しては初心者である。

 そのため、真守の部屋で作戦会議をしていた。


「まー無難にゲームかな。ホラーゲーム」

「なんでホラー?」

「初心者が配信するなら、やっぱホラーだろ。初見の反応見るだけで皆が楽しめるもん。操作性いるやつは下手だとイライラするし、初心者っつってんのに内部目線で解説されてもイライラするし」

「なんだそれ。なら私である必要ないじゃん。ゲーム会社勤めだから呼んだんじゃないの?」

「まー最初はさ。配信者の身内ネタってだけでもある程度ウケると思うし」

「真守のオマケってわけね」

「当たり前じゃん」

「……お前が『出てくれ』って頼んできた立場だってことを忘れるなよ?」


 向こうから頼んできたくせに、まるで「出してやる」みたいな態度になっていたので、釘を刺す。

 ちょいちょい刺していかないと本当にすぐ調子に乗るこいつ。


「……わかってるよ」


 姉の威圧に、幼少からすりこまれた恐怖なのか、真守が引きながらも素直に返事をする。

 母は真守を無自覚に溺愛しているので、物心つく頃には真守はすっかり他人を見下す癖がついていた。

 このまま野に放ったら被害者が出ると、姉である私は責任感もあって、弟を教育した。

 まあ普通に、家庭内にモラハラ予備軍がいたから腹立ったというのもある。

 でも私の教育のおかげで、女性人気を得てるんじゃないのか?

 それは私も自惚れがすぎるというやつだろうか。


「ゲームとか機材とかは全部こっちで用意しとくから。とりあえず、日時決まったら連絡するよ」

「私の都合は?」

「……都合の良い日時を、いくつかお知らせください。調整して、追ってご連絡いたします」

「よろしい」


 打ち合わせを終えて、私は弟のマンションを出て、自宅に帰った。



 ☆★☆



 自宅に帰ると、私はソファに座り込んだ。


「配信かあ」


 ちょっと怖い。だって、前回の乱入だって、一部否定的なコメントあったし。

 いやでも、あれはルイに関することだから、ルイがいないならただの姉弟だし、大丈夫かな?

 

 何とはなしにテレビをつけると、バラエティ番組にちょうどスタスタが出ていた。

 可愛いキャラのショート、ワイルドキャラのユウマ。そして真ん中に、しっかりもののルイ。

 ショートがドジってセットを壊したのを、ルイが笑顔でフォローしていた。


(瑠為くん、忙しそうだな)


 友達、なんて言ってはいたものの、私は瑠為くんの連絡先も知らない。

 いや、そりゃ、アイドルのプライベートなんて、簡単に入手できる方が問題だけど。

 でも、じゃあ、友達になりたいってのは、なんだったの?

 私ばっかりやきもきして。なんか、ズルいな。

 もやもやした気持ちを振り払うように、私はクッションに顔を埋めて叫んだ。


「ええい、アイドル様と簡単にお近づきになれると思うほうが厚かましい!」


 そうだ、あれはきっとリップサービスってやつだったのだ。

 深い意味なんてなかった。

 だって会う気があるなら、連絡先くらい交換したはずだ。

 忘れてたのだとしても、真守がいるんだから。真守経由でわかるはず。

 それをしないってことは、別に私とプライベートで交流する気はないのだ。


「仕事しよっ!」


 自分を奮い立たせるように口に出して、私はパソコンを開いた。

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