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推しが弟の友達でした!?  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
第一章

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5.推しとイベント出演なんて!?(2)

 1周年のために作られた【荒野のガレリオス】戦専用のBGMが流れ出す。

 バトルはコマンド選択式のターン制。

 バトルが開始すると、まず敵の先制攻撃が入る。


「いきなり削られますね」

「そうですね。ある程度レベルがあれば開幕全滅ということはないでしょうが、まだレベルの低いユーザーさんは、復活アイテムを持ち込むか、開幕時に無敵バリアを張れる装備を用意するといいと思います」


 ルイのレベルなら問題はないが、一応回復だけしておく。

 そこから数ターン、攻撃を繰り返すと、荒野のガレリオスが咆哮をあげ、姿を変えた。


「おおー! グラいいですね!」

「記念ボスなので、カッコよく見えるよう、ここは頑張ってもらいました。そして、プレイヤーさんもここからです」

「あ、今のでバフついたんですね」

「そうなんです。ここから強くなるので、対策が必要になります。今回は私がバフ解除できるので、消していきますね」

「助かります」


 私が荒野のガレリオスにかかっているバフを解除して、ルイがガンガンダメージを与えていく。

 あと少しというところで、石化が飛んできた。


「このタイミングなんですねー。ここで5ターン足止めは嫌ですねー」

「あとちょっとで気が緩んだところに最後の抵抗、って感じです」

「持っててよかった状態異常回復アイテム」


 ルイが石化を解除して、最後のダメージを与えていく。

 そしてようやく、荒野のガレリオスが撃破された。


「【荒野のガレリオス】、撃破ー!!」


 司会が高らかに告げると、勝利の派手なBGMが流れ出す。


「どうでしたかルイさん、感想は!」

「いやー、良かったですよ。ほどよく強くて、初心者さんでも2、3人でやれば倒せそうですね。何よりグラフィックと曲が気合入ってて、カッコよかったです」

「だそうです! 開発の風間さん、どうですか」

「想定通りの反応がいただけて、嬉しい限りです。やはり多くの人に楽しんでほしいので、ヘビーユーザー向けにならないよう、調整には苦労しました。期間限定ボスなので、来月には倒せなくなっちゃうんですけど、せっかくの記念イベントだからと開発一同気合を入れて作ったので、グラフィックなども注目していただけたら嬉しいです」

「ゲーム内1周年記念イベントは今月末まで! まだの方はお早めにどうぞ! それではおふたりとも、ありがとうございましたー!」

「ありがとうございました」


 次のコーナーでは暫くディレクターから今後の展望について話すので、私と共にルイもいったんハケる。

 奥に引っ込むと、急に体の力が抜けて、私はへなへなと座り込んだ。


「みのりさん!? 大丈夫ですか!?」


 側にいたルイが、慌てて膝をついて、私の様子を見る。

 うう、私の推しが、優しい。


「ご、ごめんなさい。一気に緊張が解けて」


 手足が軽く震えている。はは、今更。

 そんな私を見て、ルイはふっと優しく笑うと、私の頭を柔らかく撫でた。


「よく頑張ったね。お疲れさま」


 天使の笑みでそんなことを言われた日には。もう。

 フリーズするしかないんですけど!?

 頭ぽんぽんなんて一般男性には絶対に許されない所作だけど、ルイ相手ならとてつもないご褒美である。

 でもルイ、あんまりうかつにスキンシップするタイプには見えないんだけど。

 もしかして、私がルイのこと推してるって、バレてる!?


「大丈夫? 立てる?」

「は、はい! わっ」


 いつまでもこんなところに座り込んでいるわけにはいかない。

 わたわたと立ち上がったもののよろけてしまった私を、ルイが支えた。


「危ないな」

「すすすすみません」

「送っていけたらいいんだけど……俺次の出番もあるから、ここ離れられなくて」

「大丈夫です! もう、全っ然! 平気なので!」


 ぶんぶんと手を振る私に顔をしかめて、ルイは近くを通りかかったスタッフを呼び止めると、私を託した。


「じゃ、あとは俺に任せて、ゆっくり休んでてください」

「はい……」


 ばちっとウインクを決めた推し、かっこよすぎる。

 今日は私の命日かもしれない。 

 私はスタッフに椅子に座らせてもらって、その後もイベントを見守った。


 イベントは大成功だった。

 ルイがCMに出演することも公表されて、ルイのファンがプレイヤーになってくれることも期待できる。

 私はやりきった気持ちでいっぱいだった。

 だけど、それを快く思わない人も、いる。



 

 終わったあとの打ち上げ会場にて。

 ルイは、色んな人に囲まれていた。当たり前だろう。

 偉い人たちは挨拶に行くし、ファンの社員も喋りたいだろうし。

 私だってルイと話したいけれど、もう今日はずいぶんとルイと関わった気がする。

 私ばっかりズルい気がして、少し遠くから眺めていた。

 そんな私に、突然かけられた声。


「いいご身分ですね」

「……高宮さん」


 高宮さんが、敵意もあらわに私を睨んでいた。


「アイドルと一緒にゲームして、優しくしてもらって、勘違いしちゃったんですか? あんなの全部仕事ですから」

「いや、わかってますけど」

「たかが開発の一員のくせに、割り込んできて。みっともない」


 みっともないのはどっちだよ、と私は呆れた。

 仕事に私情挟みまくりじゃないか。

 それに、私が割り込んだわけじゃない。私が登壇したのは、ルイの希望だ。


「高宮さん。私も、あなたも、ルイも、全員仕事を全うしただけ。何も言われる筋合いないけど」

「弟さんが仲いいんでしたっけ? それを利用して近づいて、図々しい」


 聞いてないなこの女。

 話してもムダなタイプだと、私は話を切り上げようとした。


「そうですか。どう思おうとご自由に。では、私はこれで」

「っ待ちなさいよ!」


 立ち去ろうとした私の手を、高宮さんが思い切り引いた。

 ステージに出るため、慣れない高ヒールを履いていた私は、思いきり後ろにぐらついてしまい。


(あ、やば)


 後頭部から床に打ちつける、と思ってぎゅっと目を瞑ったが、予想した衝撃は訪れなかった。


「――大丈夫ですか? みのりさん」

「……え!?」


 目を開けると、ルイが私の体を支えていた。

 それを見た女性社員たちから、控えめな悲鳴が上がる。

 さすがに状況からして人助けなのはわかって、自重しているのだろう。

 それでも漏れ出てしまう悲鳴、わかる。

 現実逃避的な思考をしていると、私から手を離さないまま、ルイが高宮さんを睨みつけた。


「……謝らないんですか?」


 珍しいルイの厳しい目に、高宮さんはびくりと肩を震わせたが、それでも気丈に言い返した。


「なんで私が……っ! その女が勝手に転んだだけで」


 ルイの眉間にぐっと皺が寄る。

 けれど、ふうと一度息を吐いて、すぐに落ち着きを取り戻した。


「高宮さん。風間さんは俺の友人です。友人が危ない目にあって、黙っている人間はいませんよ」

「え……っ」

「今、この会社は俺のクライアントですし、風間さんの会社でもありますから、問題にはしません。でも、あなたと仕事することはできません。担当は変えてもらいます」

「そんな……!」


 青い顔をする高宮さんを無視して、ルイは私に話かけた。


「俺、そろそろ移動するので。風間さん、タクシーの手配お願いできますか?」

「は、はい」


 担当を外された、だけじゃない。

 大事なタレントの不況を買ったのだ。広報での高宮さんの立場は、悪くなるだろう。

 だけど同情する気にはなれなかった。


 私はタクシーを呼んで、ルイと一緒に外で待つ。

 来たら呼びに行くと言ったのだけど、騒ぎを起こしたあの場にいたくないようで、ルイは外で私と一緒にタクシーを待っていた。


「ルイさん、ありがとうございました。庇ってもらっちゃって」

「いえ、俺の方こそ、気づくのが遅れてすみません」

「そんな! タレントさんを守るのが我々の役目ですから。なのに逆に守ってもらっちゃって」

「……さっきのは、あの場を取り繕うための方便でしたけど。俺、結構本気で、みのりさんとは友達になってみたいと思ってるんです」

「へっ?」


 友達? 誰が? 私が? パンピーの私が? 天下のアイドル、ルイと??


「それに、みのりさんと初めて会った時の俺は、【ルイ】じゃなくて、【南雲瑠為】だったでしょう。だから、アイドルだからとか、そんなんじゃなくて。普通に、友達として接してくれません?」


 そんな無茶な。アイドル様と、友達て。

 でも、そんな子犬みたいな目で見られたら、断れるはずがない。


「……なら、南雲くん、て呼んだ方がいい?」

「ええ? そこは瑠為くん、でいいじゃないですか。俺みのりさんなんだし」

「じゃ、瑠為くん」


 響きは同じなのに、なんだか特別な感じがする。

 にこにこしているルイ……瑠為くんが可愛くて、私はもう、高宮さんのことなんか、すっかり頭から飛んでいた。

 やがてタクシーが来て、瑠為くんは次の現場に向かった。

 私は呆然とタクシーを見送りながら、なんだか一連の全てが夢なのではないかと思えて、頬をつねった。

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