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推しが弟の友達でした!?  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
第一章

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4/11

4.推しとイベント出演なんて!?(1)

 それからの日々は慌ただしかった。

 何がって、仕事が。

 だって1周年記念。リリース当日まで、気が抜けやしない。

 しかもこのゲームをルイが遊ぶと思えば、気合もひとしお。

 イベントについては、基本的な打ち合わせは高宮さんの宣言通り広報がやるので、私は当日までほとんどルイと会うことはなかった。


 ただ、ルイが高宮さんを苦手だと言っていたのは気がかりだったので。

 それとなく、女性社員とふたりきりにしない方がいいんじゃないか~みたいな言い方で、広報部長にちくっておいた。

 そしたらなんと、本当はあの日の打ち合わせも、男性社員が同席するはずだったらしい。

 ところが直前でトラブルが起きて、その男性社員はトラブル対応に追われてしまい、やむなく高宮さんがひとりで対応したそうだ。

 それって高宮さんが仕組んだのでは、と思うのは、私の性格が悪すぎるだろうか。

 けれどそもそもルイの案件の担当は激戦だったらしく、高宮さんはほとんどゴリ押しでも ぎとったらしい。

 だとしたら、あながち間違いでもないかもしれない。

 とはいえ、確証もないので、私にできることは高宮さんとふたりきりの状況を避けてもらうくらいだ。

 ルイが嫌な思いしてなきゃいいけど、と思いながら、私は仕事にあけくれた。


 そうして迎えた、イベント当日。

 ルイの出演は事前に告知してあったし、時期的にも夏休みだということもあって、会場は満員。

 私も出番まではスタッフとして動いているので、ステージ上のルイをファンの気持ちで見ていた。


(ああ~今日も推しが尊い~)


 司会者や社員も登壇していたけれど、まるでスポットライトがルイだけを照らしているように輝いていた。


(ていうか私あそこに行くの、無理)


 高揚していた気持ちが、ひゅんと降下する。

 心臓がバクバクしてきた。

 お客さんだっていち社員に芸能人のようなトークは期待していないだろうし、そもそもルイしか目に入っていないだろう。

 でも、私もあのステージに立って、ルイとゲームをするところが、配信で全世界に流れるのだ。

 控えめに言ってきつい。

 そんな私の気持ちを置き去りに、イベントはどんどん進行していく。

 いよいよ次が出番となって、私はステージ袖に控えた。

 セット変更のため、一時的に袖にハケてきたルイが私を見つける。


「みのりさん、次よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 ガチガチな私を見て、ルイが目を瞬かせる。


「みのりさん、緊張してます?」

「そりゃ、しますよ。私ただの一般人ですもん。指先冷えすぎて操作怪しいかもしれません」


 さっきからずっと指をさすっているのだけど、一向に温まらない。

 やばい、私のミスでクリア失敗したら、どうしよう。


「どれどれ」


 え、と思う間に、ルイが私の手をとった。


「わ、ほんとだ。冷たい」


 そう言うと、ルイが私の指先に顔を近づけて、「はー」と息をかけた。

 ……息を、かけた?


「――――ッ!?」


 ぼん、と音がしそうなくらい、一気に顔が赤くなった。

 それと同時に、全身の体温が急上昇する。


「少しはあったかくなりました?」


 無邪気に微笑むルイに眩暈を感じながら、なんとかこらえて返答する。


「なりました、熱いくらいです、沸騰してます」

「あはは! じゃ大丈夫そうですね。良かった」


 良かった、じゃあないんだよ。殺す気か。

 過度のときめきを摂取しすぎたせいで、逆にキレそう。


「そろそろ準備できたみたいですし、行きましょうか」


 ルイが私の手をひいて、ステージへ向かう。

 え、ちょっと、待った。これ見られたらさすがに大炎上、と思っていたら、袖口のぎりぎりお客さんから見えない位置で、するりと手を離した。

 さすが、アイドルだし、そのあたりはよくわかっているのだろう。

 離れた体温を少しだけ寂しく思いながら、私は社会人の顔を取り繕ってステージ上に歩み出た。


「それでは次のコーナーです! ルイさんに、1周年記念イベントボス、【荒野のガレリオス】を実際に倒していただきます!」


 司会の案内と、再び姿を見せたルイに、わあ、と会場が歓声に包まれる。

 その勢いに圧倒されそうになっていると、ルイがこちらに視線を寄越して、ウインクした。

 緊張を解そうとしてくれてるんだろうけど、その仕草はやばいですよ。


「ルイさんは、以前から【シャドウ ビハインド スターライト】をプレイしていたんですよね?」

「はい。名前に親近感があって」

「あはは、確かに! スターリー☆スターライト、シャドウ ビハインド スターライト、スターライトが被ってますね!」


 ルイの冗談めかした言葉に、笑いが起こる。

 うーん、さすがプロの司会者。喋りがうまいなあ。

 司会は当初広報がやるか、という話になっていたのだが、ルイを呼ぶからには司会もプロがいいだろう、という話になった。頼んで正解。


「1周年イベントもすぐチェックしたんですけど、今日のイベントで倒すから事前にやらないようにって言われてて、ボス手前で止まってるんですよ。攻略サイトも見てないし。だからずっとそわそわしてて。今日やっと倒せるって、楽しみにしてました」


 ルイがトークで繋いでいる間に、私とルイにスマホが手渡される。

 それぞれの画面はスクリーンに接続されていて、観客にも見えるよう大画面で映し出される。


「本日のイベントでは、サポートとして開発チームの風間みのりさんが一緒にプレイしてくれます!」


 紹介されたので、慌てて頭を下げる。


「開発担当をしております、風間みのりです。よろしくお願いします」


 ピンマイクはちゃんと声を拾って、お客さんから拍手が起こる。


「それではさっそく、プレイ開始!」


 会場にゲーム内の音楽が流れる。わわ、ちゃんとしなくちゃ。


「風間さん。俺の装備こんな感じなんですけど、これでいけそうですか?」


 いつもと違う呼び方に、そりゃそうか、と納得する。

 さすがにファンの女の子の前で、女性を名前呼びはしないだろう。


「そうですね、このくらいで大丈夫だと思います。今回はイベントボスということで、基本的には協力プレイを想定していますが、上級者ならソロでも討伐できるくらいに設定してあります。このボスのためにだけに課金装備を用意しないと絶対に倒せない、ということはないので、ご安心ください」


 このイベントは既存ファン向けでもあるが、ルイ目当てで来たお客さんに向けて、新規獲得のアピールイベントでもある。事前に言われていた通り、しっかりゲームのアピールもしておく。

 それを拾って、司会が客席に振る。


「だそうです! 金欠の皆さんも、安心してください! 今始めると1周年記念でアイテムガンガン配布してるので、お得ですよー!」


 それに反応して、お客さんの声も上がる。今日のお客さんはいい人たちみたいで、良かった。

 ぽちぽちと画面を動かしながら、ルイが会話を進める。


「アイテム何かいります?」

「荒野のガレリオスは、途中で石化を使ってくるので、状態異常回復アイテムは持っておいてください。回復できなくても5ターンで解けますが、かなり痛いです」

「なるほど、それは重要ですね!」

「あと、敵に多めのバフがかかるので、バフを解除するか、耐えるために防御を上げるか、どちらかの対策をしておくと死ににくくなります」

「なるほど。俺の装備だと、防御ちょっと心許ないかもですね……。俺攻撃特化型なんで」

「意外ですね。ルイさんて、バランス型かと思ってました」

「そう見えるでしょう? 結構ガンガン攻めたいタイプなんですよ、俺」


 含みのある言い方に、会場から黄色い悲鳴が上がる。

 うーん、ファンサービス。


「そうしたら、私がバフ解除の手段を持っておきますね」

「ありがとうございます!」

「いえいえ、サポートですから」

「よし! それじゃ、準備OKです!」


 ルイの言葉を合図に、司会が頷いて、手を上げた。


「さあ、それでは……【荒野のガレリオス】、バトルスタートです!」

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