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推しが弟の友達でした!?  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
第一章

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2/11

2.推しとオフィスで再会なんて!?(1)

『こんばんはー! マモルです! この動画は、先日ルイとやった配信のアフタートークでっす! 配信見てなかった人は、アーカイブあるから是非見てね~』


 後日、真守のチャンネルにアップされた動画を、私は自宅マンションでぼんやり眺めていた。

 生配信のあとに、録画用のアフタートークを収録していたらしい。こちらはちゃんと動画用に編集されている。

 弟と並んでいるルイのビジュが良すぎて、思わず「ほう」と溜息が漏れる。

 この超絶美形アイドルが、うちの弟なんかと一緒に画面に映っているなんて。何かの冗談みたいだ。


『いやほんと、あそこでルイがさー』

『いやいや、マモルだって』


 ゲームのプレイ感想を言い合っているだけなのに、バラエティのトーク並に面白い。さすがルイ。

 絶対ルイの力だからコレ。真守じゃないから。

 内心で弟を貶していたら、ぎょっとする言葉が飛び込んできた。


『そうそう、配信中にトラブルで一時中断したの、ほんっとにごめんなさい! 心配する声がいっぱいあったので、改めて説明するとさ。姉ちゃんが乱入してきて』

(おいおいおいおいおい!)


 家族構成をバラすな。しかも、男性配信者のファンなんて女ばっかりなのに、たとえきょうだいでも異性の存在を出すな。

 ハラハラしながら見ていると、さらに爆弾が投下された。


『うちの姉ちゃんマジで横暴だからさー。ルイもごめんなー、迷惑かけて』

『いや、結構おもしろかったよ』

(ちょーい!!)


 これだと、私がルイと会ったってことまでバレるじゃないか。何考えてんだ!

 真っ青な顔で見ていたが、動画配信中に家族が乱入してくるというのは、割とあるあるなネタらしい。

 だから真守も話題に出したようだが……ファン層を考えてほしい。母と姉では全然違う。


『お姉さん、すごくしっかりした人だったよね。なんかマモルがここまで無事に生きてこられた理由がわかったわ』

『なにそれどういう意味!?』

『だってマモルってポンコツじゃん。お姉さんに感謝しなよ』

『うーわ、裏切られた! ルイは俺の味方だと思ってたのに』

『味方だよー。だからちゃんと守ってあげてるでしょ』


 よしよし、と真守の頭を撫でるルイに、きゅんとしてしまう。

 お、お兄ちゃんだ〜っ!

 ルイはグループのセンターだから、グループ内の立ち位置もしっかりキャラである。

 わがまま末っ子キャラの真守と相性が良かったのだろう。


『ルイは姉ちゃんと気が合いそうだよなー』


 だからその話題を引っ張るなって!!

 思わず手に力が入って、スマホがみしりと鳴る。

 問われたルイは、くすりと笑って。


『そうだね。機会があったら、話してみたいかも』

(ひえええええ!?)


 推しが、推しが私と話してみたい、とか。

 いや、わかってる。もちろん、こんなの社交辞令だ。リップサービスだ。

 それにしたって、どきどきするよ〜っ!

 はらはらしながら動画を見終えて、私はコメント欄をチェックした。

 ほとんどはマモルとルイの仲の良さについてだけど、やはり私に言及したものもいくつかある。


【生のルイと会えたなんて、お姉さん羨ましいっ!】

【前世でどんな徳を積んだら、マモルの姉になれるの……。代わってほしい】


 いつでも代わってやるが。

 それは置いといて、このくらいならまだいい方だ。問題は。


【姉だからってルイに会えるのズルくない? 仲いいのはマモルで、姉はただの一般人じゃん】

【配信乱入とか、ルイがいるってわかってて、わざとじゃないの?】

(ほーら)


 アイドルのファンにはガチ恋が多い。

 アイドルは、存在そのものでお金を稼いでいる。

 見るだけ、会うだけのことに、大金を飛ばす人がたくさんいる。

 だから、ちょっとしたラッキーに「ズルい」という感情が起こりやすい。

 しかも、こんなネット上じゃ、言いたい放題だ。

 それを咎める気にはなれない。

 私だって、知らない誰かがルイに偶然会ったと知ったら、嫉妬のひとつもするだろう。


 目を閉じて、ルイを推し始めた頃を思い出す。

 仕事に追われて、部屋なんかぐっちゃぐちゃで、毎日なんのために働いてるのかもわからなくて。

 せめて世間についていくために、見るともなしに流していたテレビから聞こえた歌声。

 ぐったりとソファに倒れ伏していた私の耳に、キラキラとした声が飛び込んだ。

 音なのに、本当にキラキラしていたのだ。

 私は勢いよく体を起こして、食い入るようにテレビを見た。

 そこに映っていたのは、天使のような優しい顔をした男の子だった。

 私はその瞬間、沼に落ちた。


 翌日から、ルイの情報を漁りまくった。

 あんなに億劫だった仕事もバリバリこなして、有給をもぎ取り、ライブにも行った。

 広い会場では、人間ひとりなんか豆粒みたいで。スクリーンに映る姿がメインで。

 ファンサなんて、滅多に貰えないことを知った。

 それでも通路側の席が取れた時、通路を駆け抜けるルイと目が合った、と感じた瞬間があった。

 ああ、あの目が、確かに私に向けられていた。

 それだけのことを、何度も何度も繰り返し思い出しては、奇声を上げながら転げ回った。

 それだけのものなのだ。アイドルというのは。

 視線ひとつを、誰もが熱望している。

 だから私は、私に嫉妬する彼女たちを、悪く言うことはできない。

 その気持ちは、痛いほどにわかるから。


「ま、今後関わることもないでしょ」


 こんなのは一過性で、すぐ収まる。

 真守と同居しているならまだしも、お互いひとり暮らしなのだから、よほどのことがなければ鉢合わせることもあるまい。

 私は、ただのファンなのだから。



 ☆★☆



「先輩先輩っ! 聞きましたあ!?」


 都内のオフィスにて。

 朝からうるさい職場の後輩に、私はげんなりした視線を向けた。


「朝から元気ね……美心(みこ)ちゃん」

「先輩もこのニュース聞いたら元気出ますよお! 広報部の子に聞いたんですけど」


 きょろきょろと周囲を見回してから、私の耳に顔を近づけて、美心ちゃんがこそっと告げた。


「今度のうちの広告塔、ルイくんがやるらしーんですよ!」

「えっ!?」


 思わず大きな声を上げた私に、美心ちゃんが「しーっ」と口の前に指を立てる。


「ルイくん、ゲーム好きで有名じゃないですか。で、最近ゲーム配信者ともコラボしたりしてるでしょう? だから、あんま大手じゃないうちでも、引き受けてくれるんじゃないかって打診したら、なんとOK出たんですよう!」


 そうなのだ。

 何を隠そう、私の仕事はゲーム開発。

 弟のゲーム好きは、姉の私の影響がないとは言えない。

 だからゲーム実況を止めもしない。

 でも、まさか、うちのゲームの広告を、ルイがやってくれるなんて。

 だってうちが作ってるの、人気メーカーのコンシューマーとかと違って、スマホのソシャゲだし。

 天下の大人気アイドル様がやってくれるような仕事じゃ。


「そ・れ・で! なんとなんと、今日、打ち合わせのために来社してるって話を掴みまして!」

「なん……だと……!?」


 ルイくんが、今、このオフィスのどこかに……!?

 わなわなと震える私に気づいた美心ちゃんが、悪魔の囁きをする。


「見たいですよね〜? 見たいでしょう? 見に行きましょうよ」

「だだだダメよ! 仕事中なんだし! そんなヤジ馬根性丸出しで覗きをするような社員がいるって、案件断られたらどうするの!」

「ええー、大丈夫ですよ、見るだけなら。偶然を装って」

「偶然……」


 先日のことが脳裏を過ぎる。

 あれは完全に偶然だった。でも、今回はわざわざ見に行くなら、故意だ。


「~~~やっぱりダメっ!」

「ええー」

「さー仕事よ、仕事!」

「せーんぱーい」


 不満そうな声をあげる後輩を無視して、私は仕事に励んだ。

 すると、通りかかった課長が、私に声をかけてきた。


「ああ、風間くん、すまない。今ちょっといいかな」

「はい」

「第三会議室に、この資料を持っていってくれないか? 開始までに印刷が間に合わなくて」

「わかりました」


 課長から資料を受け取って、第三会議室へ向かう。

 ドアをノックして、返事があったので入室する。


「失礼します。狩野課長から資料をお預かりして――」

「あれ? お姉さん?」


 その声を聞いた瞬間、私の手から全ての資料がなだれ落ちた。

「ちょっと風間さん!」と焦った弊社社員の声が聞こえるが、耳に入らない。

 

「また会ったね」


 にこりと微笑んだ天使は、もう会うこともないと思っていた、ルイだった。

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