18.推しのグループ大集合!?(3)
「ルイ、煮込むのってどれくらい?」
「あくを取りながら、15分くらいかな」
「えっめんどくさあい! これもっと火を強くしたら短縮できないの?」
「こら! 火は弱火から中火! 焦げるから!」
「うえー」
「じゃ、水で煮込んでいる間に、ポテトサラダの準備を進めていきます」
「わーい!」
「ショートは鍋に集中! マモル、見張りよろしく」
「ういっす」
ひとりで火を見るのが危ないと判断されたショートの隣に、真守が見張りとして付くことになった。
一応真守は料理できるし、1対1で張り付いているなら安心だろう。
「えー、まず、じゃがいもを用意します。これはさっきの皮を剥いたやつがあるので、これ使います」
ボールに入った、皮を剥いてひと口大に切れたじゃがいもをカメラに向ける。
「丸ごと茹でた場合は、そのまま皮を剥いて、潰します。今回は切れたものがあるので、これをこのままレンジで加熱します。じゃがいもはしわしわになりやすいので、できれば茹でた方が失敗しないですが、レンジの場合は様子見ながらまず短時間でやりましょう」
少しだけ水を振って、ラップをかけて、レンジで加熱。
「温かい内に潰します。はい、ユウマ」
「わかった」
マッシャーを渡されたユウマが、じゃがいもを力の限り押し潰す。
「ちょ、ユウマ、すり潰さないで。ペーストになってる」
「ん? 潰すんだろう?」
「そうなんだけど……軽く押し潰した方が、じゃがいもの食感が残るから……あーあー」
私は滑らかなポテトサラダも結構好きだけど。
圧縮されたじゃがいもを見て、瑠為くんが頭を抱えていた。
あーれは……滑らかともちょっと違うか……?
考えた末、私は予め用意しておいたマッシュポテトを、すっと横から差し出した。
気づいた瑠為くんが、それを受け取って。
「えー……加熱したじゃがいもをマッシャーで潰したものが、こちらになります」
適度に潰されたじゃがいもの入ったボールを、瑠為くんがカメラに向ける。
「じゃがいもは、このまま暫く置いて粗熱を取ります。……まあ、これは既に冷めてるんですけど……。その間に、他の野菜を用意します」
野菜はカレーと同じ人参と玉ねぎ、そしてきゅうり。
「きゅうりは頭を尻尾を落として、ピーラーで皮を剥きます。はい、ユウマ」
「わかった」
ユウマがピーラーで勢いよく皮を剥く。
「ちょちょちょ! それ手の皮まで剥ける! あっぶないなもう!」
「そうか?」
「もっとゆっくり! 押さえる手に気をつけて!」
ユウマが意識してゆっくり、ピーラーで皮を剥く。
「全部剥けたら、今度はスライス。これはスライサーがあるから、こうやって」
瑠為くんがお手本で何枚かスライスする。
それから、スライサーをユウマに渡した。
「ゆっくりね! 指までスライスしないでね!」
「わかった」
うーん、この人たちに火とか刃物触らせるの、危ないなあ。
番組、ちゃんと成り立つんだろうか。
「スライスしたきゅうりは、塩もみすると馴染みやすくなるけど……今回は省略。あとは玉ねぎと人参を、薄く切って加熱します。が」
きゅうりでやっとだったユウマに、玉ねぎと人参まではきついだろう。
ちらりと瑠為くんが視線を寄越したので、私は心得たようにボールを渡した。
「はいそうしたものがこちらです。プラス、ハムも短冊切りしてあります」
「おお。準備がいいな」
「でないと鍋の方が心配だからね! ショート、どんな感じ?」
「いい感じ~!」
真守に見張らせておいたおかげで、事故もなく、無事鍋は煮えているようだった。
いや、普通煮てるだけでそうそう事故は起こらないんだけどね。
「よし、それじゃそろそろルー入れよっか。いったん火を止めて」
「なんで?」
「ダマになるからだよ。でも、初心者はレシピに疑問を持たずに、とりあえず書かれてる通りに作ろう。省略とかせずに。面倒くさがらずに」
「はーい」
瑠為くんの威圧に、おとなしく返事をして、ショートが火を止める。
それからルーを割り入れて、ぐるぐると混ぜて溶かしていく。
「ちゃんと全部溶かしきってね」
「ほーい」
「十分にルーが溶けたら、また弱火で煮込みます」
「今度はどのくらい?」
「10分くらいかな」
「そうなんだ。短いね。カレーってめちゃくちゃ煮込んでるイメージだった」
「本格派ならね。家庭用なんだから、これで十分」
「隠し味は入れないの? チョコとか、コーヒーとか」
「初心者は、レシピに、忠実に」
「……はーい」
背景に暗雲を背負った瑠為くんを見て、ショートはすぐに引き下がった。
うーん、ほっといたら料理で実験しだすタイプ。
「ルーを入れたあとは焦げつきやすいから、底の方からしっかりかき混ぜ続けてね」
「えー!」
「えーじゃない。火力もあげない! マモル、よろしく」
「がってん」
ショートの見張りを真守に任せて、瑠為くんは再びポテトサラダへ。
「さて、この頃にはじゃがいもの粗熱も取れているので、混ぜていきます」
今回は冷めているものを渡したけど、本来だったらあそこで加熱しているから、まあこのくらいだろう。
「味はシンプルにマヨネーズと塩コショウ。慣れたら色々自分好みに調節すれば」
はい、と瑠為くんがユウマにボールとスプーンを渡す。
調味料を入れたボールを、ユウマが混ぜていく。
「瑠為は何か入れるのか?」
「俺? 練乳入れるかな」
「練乳!?」
ぎょっとしたようにユウマが声を上げる。
「な、なんだよ」
「ポテトサラダだぞ? デザートじゃないんだぞ?」
「合うんだよ! 今度食べてみなって!」
「いや……練乳だろ……?」
今日は教えるばかりだったから、瑠為くんがたじたじになっている画はレアだ。
珍しい表情に、私もこっそり笑った。
ポテトサラダが完成したので、人数分の皿に盛りつける。
「カレーは? どんな感じ?」
「おいしそ~!」
「よし、そろそろそっちも盛ろうか」
瑠為くんが言い出したところで、ショートが首を傾げた。
「そういえば、ごはんってあるの?」
瑠為くんが固まった。
ぎぎぎ、とユウマの方を向いて、
「米って……誰か……炊いたっけ……?」
「いや? おれたちは言われたことしかやってないからな」
瑠為くんが膝から崩れ落ちた。
「え!? ごはんないの!?」
「カレーだけ作ればいいと思っていて、盲点だったな」
ショートとユウマが顔を見合わせて、爆笑する。
堪えていたのか、真守もそれに合わせて声を上げて笑った。
「カ、カレーなのに! ライスないって!」
「いや、まだ、パンで食べるという手がだな」
「ごめん、うちパンないわ」
「詰んだー!」
爆笑が埋め尽くす中、私は膝をついた瑠為くんに、そっとパック米を差し出した。
「みのりさん……これ……」
「いえ、あの、ご飯炊くの失敗するかもって思って」
お約束的には、洗剤入れて洗ったりとか、水を入れずに炊いたりとか。
そういうハプニングを予想して、レンジで加熱するだけのパック米を、人数分用意していた。
真守から頼まれたリストにはなかったけど、企画を聞いたあと、これは要るだろうと思って、下ごしらえの時間に急いでコンビニに行って買っておいたのだ。
「ありがとうございます……!」
瑠為くんは心底感謝した様子でパック米を受け取り、立ち上がってカメラにそれを向けた。
そしてやけくそ気味に叫ぶ。
「今回は! 誰も! 米の不在に気づかなかったので! スタッフさんが気を利かせて用意してくれた、こちらを使用します!」
「やった~! ごはんだ~!」
そうして無事、カレーライスとポテトサラダが、テーブルに並べられた。
4人掛けの席に、スタスタの3人と、真守が座る。
席についた全員を見て、瑠為くんが号令をかける。
「それでは、皆さんご一緒に」
「「「「いただきます!」」」」




