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推しが弟の友達でした!?  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
第一章

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15/20

15.推しと女優と一般人で会食!?

 暫くの間世間はざわついたが、次第に雪乃さんの件から人々の興味は薄れていった。

 不倫のようなバッシング対象でもなければ、結婚ほどのニュースでもない。

 雪乃さんはアイドルでもないし、事務所の契約上も問題がない。

 本人が「そっとしておいてほしい」と言った通り、昨今の風潮もあり、恋人のことをとやかく言うような人間は、そう多くなかった。

 そうして落ち着いた頃に、私は瑠為くんから、高級そうな料亭の個室に呼び出された。


(だから払えないんだってえ~……)


 前回は意地で割り勘にしたが、今回は、はたしていけるだろうか。

 なるべくお金下ろしてきたけど。

 いかにも口が堅そうな着物の従業員に案内され、私は個室に入った。


「みのりさん。呼び出してちゃって、ごめんね」


 そう言って頭を下げた瑠為くんの向かいには、雪乃さんが座っていた。

 私を案内した従業員はすっと頭を下げて、静かに襖を閉めてすぐにいなくなった。

 私は瑠為くんに促されて、彼の隣に腰を下ろす。


「雪乃さん。こちら、俺の友人のみのりさんです」

「は、初めまして。風間みのりです」

「雪乃です。撮影の時には、お世話になりました」

「え、覚えてるんですか……!?」

「もちろん。とても助かりましたから。ありがとうございます」


 あんな一瞬のことを。

 てっきり忘れているだろう、と思ったのに。

 さすが芸能人。

 でも、何故雪乃さんが一緒にいるのだろう。首を傾げた私に、瑠為くんが心得たように頷いた。


「順を追って説明するよ」


 瑠為くんが、週刊誌のゲラと思われる紙を出した。


「事務所にこれが送られてきたのは、ドラマ放送中のことだった。向こうは、美男美女カップルで祝福される、ドラマの話題作りにもなるって、むしろ好意的な解釈で出してきた。けど、雪乃さんは清純派のイメージで売ってるから、男性アイドルとの熱愛報道がプラスになるとは思えないと、俺と雪乃さんの事務所双方の判断で、この記事はいったんお蔵入りになった」


 その判断は正しいだろう。

 雪乃さんのファン層だと、バッシングはしないまでも、一時的にショックから離れてしまう可能性がある。

 連ドラの放送中にそれはまずい。


「そして次に送られてきたのが、これ」

「え……っ?」


 それは記事ではなく、ただの写真だった。

 雪乃さんと、仲睦まじい様子の女性がもうひとり。

 この写真に、何の問題があるのかわからなかった。

 それが顔に出ていたのか、疑問には雪乃さんが答えた。


「彼女は、私の恋人です」

「えっ!?」


 驚いてしまって、慌てて口を塞ぐ。

 彼女が、恋人。ということは。


「この写真単体では、特に問題ないように見えるかもしれません。でも、そういう目を向けられるだけで、私は耐えられても……彼女は、耐えられないと思いました」


 視線を下げた雪乃さんの言葉を、ルイくんが引き継ぐ。


「俺と雪乃さんの件は事実無根だから、探られても痛む腹はない。でも、雪乃さんと彼女は事実恋人だから、パパラッチが張り付くと、相手の負担になるし、決定的な写真が撮られるかもしれない。それを危惧した雪乃さんと相談して、ドラマの放送終了後なら、という約束で、俺との件を表に出すことにした」


 交換条件、というやつだろう。

 雪乃さんと恋人の件について深掘りしない代わりに、瑠為くんと雪乃さんが矢面に立つ。


「でも、それなら恋人の存在を発表する必要はなかったんじゃ……?」


 雪乃さんに視線を向けると、彼女は緩く首を振った。


「いえ、それも、このタイミングだと思いました。ルイさんとの熱愛報道が出たあとなら、自然と、私の相手は【男性】だと思い込むでしょう。相手の良心頼みにはなりますが、『相手が一般人であること』、『そっとしておいてほしいこと』を私の口からはっきり伝えれば、今後似た騒動が起きても、ファンの人たちの自浄作用が働くのではないかと。それに、恋人がいると明言しておけば、業界の男性からのアプローチも避けられるし、根拠のない熱愛報道で恋人を不安にさせずに済みますから」


 なるほど、確かに雪乃さん本人からの発信なら、抑止力にはなるだろう。

 独り身だと思っているから、ちょっとしたことで熱愛報道が出るのだ。

 恋人がいる相手に対して浮気だのなんだのの記事を出したければ、確実な裏取りが必須となる。


「ただ、私の事情に付き合わせたせいで、ルイさんにはご迷惑をおかけしてしまいました。それから、みのりさんにも」

「えっ私?」

「不安にさせてしまって、すみません」

「いえいえ! とんでもない! 私に謝るようなこと、何もないですよ!」


 ぶんぶんと手を振る私に、雪乃さんはちらりと瑠為くんを見た。

 それを受けた瑠為くんは、何故か苦笑していた。

 でも、本当、雪乃さんが謝る意味がわからない。

 不安にさせたって、そりゃ、ルイのファンは皆不安だったろうけど。

 わざわざ私ひとり呼び出して、雪乃さん自ら説明するほど、私特別な関係じゃないし?


「みのりさん。他に何か、聞いておきたいことある?」

「え? あー……えっと、そうだ。ふたりがジュエリーショップから出てきたのって?」

「あれは、私が彼女へのプレゼントを買うのに、ルイさんに付き合ってもらったんです」

「俺も女性が喜ぶ贈り物って知っておきたかったしね。男ひとりで入るの、ちょっと勇気がいる場所だからさ」

「なるほど、そうだったんですね。彼女さんには、何を?」

「……指輪、です。今回のことで不安にさせたので、法的に一緒にはなれなくても、せめてずっと傍にいる誓いの証として」


 少しだけ頬を染めた雪乃さんは、本当にお相手のことが大好きなんだろうと思った。

 瑠為くんが協力したいと思ったのも頷ける。


「彼女さん、喜んでくれるといいですね」

「はい」


 国民的朝ドラ女優の満面の笑みを浴びて、私は灰になるかと思った。眩しすぎて。


「さて、話も済んだことだし、ごはんでも食べよ。ここ美味しいよ」

「う……っあーえっと、その、庶民的なことを言って申し訳ないのですが、なるべく手ごろな価格のものを」

「ご心配なさらず。ここは私の奢りです」

「えっ!? いえいえ、そんな、雪乃さんに奢ってもらう理由が」

「今回は私のわがままで、ルイさんも、みのりさんも巻き込んでしまいました。せめてものお詫びだと思ってください」

「じゃ遠慮なく」

「ええ!?」


 瑠為くんがさらっと答えたので、瑠為くんより遥かに稼ぎのない私だけが遠慮するのも、妙な意地に思えて。

 私は恐縮しながらも、雪乃さんの奢りで、豪華な日本料理を食べた。

 味はめっちゃくちゃ美味しかった。

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