14.推しの記者会見!?
【水縹の恋】は大ヒットだった。続編映画が作られるのではないか、と言われるほど。
アイドルは一般的に寿命が短いとされ、第2ステージとして、芝居だったり、音楽だったり、バラエティだったりと、ソロで特化した能力を伸ばしていくことが多い。
男性アイドルグループは、女性アイドルグループに比べて息が長く、無理してソロ活動を押し進めなくても、グループで活動していける。
けれど、ほとんどの場合、映像作品への出演はマストでやってくる。
ルイの歌唱力であれば、ソロシンガーとしても十分やっていけると思うが、やはり芝居で認められるにこしたことはない。
今回のドラマの成功は、ルイのファンたちにとっても、大変喜ばしいものだった。
無事最後まで完走して、ほっとしたのも束の間。
まるでドラマの放送終了を待っていたかのように週刊誌に掲載された、ルイと雪乃さんの熱愛報道。
せめてドラマの放送期間中に発表されれば、視聴率を稼ぐための話題作りだと思えなくもなかったのに、わざわざ終了を待ったところがガチっぽい。
ルイ推したちは、完全にお通夜状態だった。
ルイも雪乃さんも顔を隠していて、撮影中のオフショットなどではないと思われる写真。
隠しているのに、隠しきれぬ芸能人オーラ。
これは雪乃さんの方が強い。瑠為くんはそのあたりうまいのか、意識するとオーラを消せるところがある。私と一緒にいる時も、うまいこと消している。
でも雪乃さんはだだ漏れだ。ひねくれた考え方をするなら、この写真を撮らせるために、わざと、なんて。
「いやいやいや!」
雪乃さんだって清純派で売ってるんだから、熱愛報道なんて困るはずだ。
ドラマで恋人役で共演すると、だいたい仲良くなるって言うし。
だったら、これだって、別に普通に友達として会ってるだけかもしれないし。
やけに距離が近いけど。
ジュエリーショップから出てきた写真とかもあるけど。
でもでも、ホテルみたいな、決定的なやつは、ないし……!
最近だと合成とかAI生成の線も捨てきれない。
本人からの声明が何も出ていないのだから、考えるだけ無駄だ。
私にできるのは、公式からの説明を待つことだけ。
(ほんとは、それだけじゃないけど)
私はスマホをじっと眺めた。
私は、瑠為くんの連絡先を知っている。彼に直接聞くことができる。
でも、なんて聞くの?
雪乃さんと付き合ってるの? って?
聞いてどうするの? 彼女でもないのに?
いくら友達だからって、そこまでの権利、ないよね。
溜息を吐いて、私はスマホを放り投げた。
けど、暫く唸った後、スマホを再び手にとり、メッセージを送った。
☆★☆
「で、なーんで俺に聞くんだよ」
「うっさいな。いいから、知ってたら教えなさいよ」
私が連絡したのは、真守だった。
一応話を聞かせてもらう側なので、ちゃんとデパートで手土産も買ってきて、真守の部屋まで足を運んでいる。
だというのに、偉そうな態度が腹立つ。
いやいや、教えてもらう側。抑えて、抑えて。
「で? 知ってるの? 知らないの?」
「瑠為に直接聞けばいいじゃん」
「聞けるわけないでしょ! そんなミーハーファンみたいなこと!」
「ミーハーファンじゃん」
「ぐ……う……っ」
こいつ。拳を握りしめて、ぷるぷると震える。
そりゃそうだ。友達として、なんて、理由になってない。
友達が、こんなことに首突っ込む資格、ないんだから。
「だって……仕方ないじゃない。気になるんだもん」
「……まー、気持ちはわからなくもないけどさ」
溜息を吐いて、真守はあっさり口にした。
「別に、付き合ってはないよ」
「ほんと!?」
「ほんとほんと。瑠為から直接聞いたもん」
「な……なんだ~、そっか~……」
気が抜けて、私は床にへたりこんだ。
そして、はたと気づく。
「瑠為くん、あんたにはちゃんと説明したの?」
なんとなく、瑠為くんが自分からわざわざ熱愛報道の弁明をするとは思えなくて、真守に尋ねると。
「俺から聞いた。俺雪乃のファンだもん」
あっさりと白状した内容に、私はあんぐりと口を開けた。
「ミーハーファンなのあんたの方じゃん!」
「うっせーなそうだよわりーかよ! うじうじ裏から知ろうとするより、素直なだけ俺の方がマシだろ!」
そう言われるとぐうの音も出ない。
真守が人から好かれるのは、こういう部分もあると思う。
なんというか、人付き合いに、躊躇がない。
こうしたら嫌われるかも、とか、今は迷惑かも、とか。
それは必要な気づかいでもあると思うんだけど、時としてジャマにもなる。
そういうストッパーがない分、真守はまっすぐに行動できる。
質問をするにしても、自分が尋ねたら、相手は素直に教えてくれるものだと思っている。
それは、自分で調べたりしなくても、聞けば必ず教えてもらえる環境にしかいなかったからだ。
真守の愛嬌が、何をしても母に肯定されてきた養育によるものだと思うと、長女の私としては憎らしさすらある。
それに、結局こいつだって、雪乃さんの熱愛が信じられなくて聞いただけなんじゃん!
「事実無根なら、なんであんな報道出たの? スタスタの事務所なら、言い方悪いけど握り潰せたんじゃない? 雪乃さんの方だって、清純で売ってるのに、困るでしょ」
「さー、そのへんはちょっと事情あるらしい。でもデタラメなんだから、その内記者会見やるよ。それ待ったら」
「まあ……そうだけどさ」
「じゃなきゃ、改めて自分で瑠為に聞きなよ」
「……」
私はむっつりと口を噤んだ。
私は真守とは違う。相手のことを考えられる。
きっと今瑠為くんは、あちこちから熱愛報道について聞かれて辟易していることだろう。
そこで私まで尋ねたら、「こいつもか」ってなるに決まってる。
でも、記者会見を見てから連絡とるのも、なんか手のひら返しみたいで、感じ悪い。
――やだな。私、なんだか、保身ばっかり。
友達って、そうじゃないはずなのに。
☆★☆
自分のマンションに帰宅すると、私はあの日のキーホルダーを眺めた。
私だったら、大変な時、どんな言葉をかけてほしいだろう。
私と瑠為くんじゃ、立場が全然違うけど。
彼にとって一番いいことを思いつくほど、私はまだ、瑠為くんのことを知らないと思うから。
【報道見ました。しんどくなってない? 大丈夫? 体を冷やすと落ち込みやすくなるから、暖かくして、美味しいもの食べてね。私のおすすめはチャイ。苦手じゃなければ、スパイスをたっぷり入れて。内側から温まるよ。今大変だと思うから、返信はお気づかいなく】
「これで、いいかな」
説明は求めない。ただ、「あなたを心配している」というメッセージだけ、伝わるように。
例え熱愛が事実だったとしても、味方がいると、思えるように。
「送信っと」
送って暫くすると、スマホが鳴った。
慌てて確認すると、まさかの瑠為くんから返信が来ていた。
珍しい。もしかして、報道のせいで、仕事をセーブしていたりするんだろうか。
内容に目を通すと。
【心配かけちゃってごめん。でも、正直ちょっと嬉しい。みのりさん何も聞いてこないから、幻滅されたのかと思った】
「えっまさかそんな! するわけないよ!」
届くはずもないのに、文面につっこみを入れる。
そっとしておくのが気づかいだと思ってたのに。まさかそんな風に捉えられていたとは。
【雪乃さんとは、ただの友達。それは、記者会見でもちゃんと説明する予定。ただ、ちょっと事情があって、報道は止められなかった。そのあたりの説明は、今度会って、ちゃんと話したい。待ってて】
瑠為くんからのメッセージにきゅんとして、スマホを抱きしめた。
うん、絶対、待ってる。
瑠為くんが、私にちゃんと説明しようと思ってくれていることが、嬉しかった。
☆★☆
そして、記者会見が行われた。
私はテレビの前で、クッションを抱えてはらはらしながら見ていた。
瑠為くんと雪乃さんのふたりが、黒い服で登場し、まず世間を騒がせたことについて頭を下げた。
『私と雪乃さんがプライベートで会っていたことは、事実です。ですが、写真に撮られた瞬間がふたりきりであっただけで、どの写真も、その日共に行動していた人物がいます。雪乃さんとはドラマの共演を経て、友人として親しくさせていただいております。ただ、恋愛関係にないことは、この場ではっきり申し上げておきます』
毅然とした瑠為くんの態度は、普段の甘い顔と違って男らしくて、頼もしかった。
続いて、雪乃さんが話し始める。
心なしか、雪乃さんの方が、顔が硬い気がした。
『今ルイさんがおっしゃった通り、私たちは友人として仲良くさせていただいてます。誤解を与えてしまったことについては申し訳ありませんが、この関係は変わりませんので、今後も見守っていただければと思います』
撮影のフラッシュがたかれる。
お互い弁明して、これで終わりかと思いきや。
『この場を借りて、もうひとつ、皆様にご報告申し上げたいことがあります。私、雪乃には、かねてよりお付き合いさせていただいている方がいます』
「ええっ!?」
突然の発表に、会場がざわつく。私も、思わず声を上げてしまった。
『お相手は一般の方です。今回の報道に、大変心を痛めておりました。とても優しい方です。どうか、今後私たちのことは、そっとしておいていただけると嬉しく思います』
頭を下げた雪乃さんに、今日一番のフラッシュがたかれる。
それはそうだろう。清純派朝ドラ女優の、恋人。
案の定、記者から質問が飛びまくっている。
けれど、相手に関しては【一般人】以上の情報は決して出さなかった。
それだけ、雪乃さんにとって大切な人なんだろう。
瑠為くんが言っていた事情というのは、もしかしてこれに関係しているのだろうか。
日本中に大きな衝撃を与えて、記者会見は終了した。
「……あ。真守、生きてるかな」




