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推しが弟の友達でした!?  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
第一章

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12/20

12.推しの撮影現場を目撃!?(2)

 下に降りてから、私はそうっと、遠巻きに見ていた野次馬のひとりに話しかける。


「何かあったんですか?」

「ああ、それがねえ。撮影に使ってた小物が壊れちゃったらしいんだよ」

「すぐに買えないものなんですか?」

「なんかの限定品らしくて。すぐには手に入らないらしいの」


 聞き耳を立てていると、監督とスタッフたちが言い合っているのが聞こえる。


「やっぱり、別のもので代用しましょう。すぐには無理ですよ、ここ1日しか押さえてないですし」

「そりゃまずいでしょ! スポンサーたっての希望なんだから! このドラマで使ってアピールするって!」

「限定品にしたのがまずかったですね」

「手に入らないプレミア感があるからいいんだよ!」


 ついに監督は頭を抱えて座り込んだ。


「あ~、どうすんだもう。正人(まさと)宏美(ひろみ)と初めてデートした記念に買ってあげたプレゼント、って設定なんだぞ。もう遊園地のデートは撮影しちゃったのに、今更別のアイテムには代えらんないだろう」


 ……遊園地?


 私は首を傾げた。はて、最近、行ったような。

 そんなことを考えながら見ていると、瑠為くんとばちりと目が合った。

 まずい、反応するわけには。

 思わず目を逸らしてから、横目でちらっと確認すると、瑠為くんが何かを監督に告げていた。


「ええ? あんなレアもの、その辺の人が持ってるわけ」

「まあまあ、聞くだけ聞いてみましょうよ。あれば儲けもの、くらいで」


 瑠為くんにそう言われて、渋々監督が何かを了承した。

 それを受けて、スタッフの人が、野次馬たちに声をかける。


「すみませーん! 皆様の中に、【クリスタルスターランド、ロズリィのイタリア5周年記念限定デザインキーホルダー】をお持ちの方、いらっしゃいますでしょうかー!?」


 私は目を瞠った。

 クリスタルスターランドとは、先日瑠為くんといった遊園地のことだ。

 ロズリィはそこのマスコットキャラクターの名前。

 クリスタルスターランドはイタリアにも進出しており、そこの5周年を記念して、ロズリィの限定キーホルダーが作られた。

 それが好評で、日本でも欲しいと言う声があがり、日本のクリスタルスターランドでも、輸入品を数量限定で販売した。

 一瞬で完売し、フリマサイトではとんでもないプレミア価格がつき、一般人がとても手に入れられない超レアものとなった。

 それが、先日、瑠為くんが私にプレゼントしてくれたキーホルダー。

 瑠為くんが監督に耳打ちしたのは、私が持っているという確信があったからだろう。

 それがわかって、私は大声を出して手を上げた。


「あの! 私、あります!」

「ええ!? 本当に!?」

「奇跡だ!」


 スタッフが一目散に私の元にやってくる。


「ほんっとーに悪いんだけど、それ、今日だけ借りることはできないかな!? 大事に扱うし、今日中に返すから!」

「は、はい。大丈夫です。部屋にあるので、取ってきますね」

「ありがとう!」


 現場の空気が一気に緩んだ。

 急いで部屋に戻ってキーホルダーを手にし、また撮影現場に行って、私はスタッフにキーホルダーを手渡した。


「どうぞ」

「ありがとうございます!」


 言うが早いか、スタッフはすぐに監督のところに行って、それから私のキーホルダーはヒロインの鞄につけられた。

 うーん、ちょっとだけ微妙な心境だけど、瑠為くんのドラマの役に立つのなら。


「それじゃ撮影再開しまーす!」


 私はそのまま、野次馬に紛れて撮影を見ていた。

 ヒロインは実力派の若手女優で、素人目にも上手いと思った。

 それに、当たり前だけど、めちゃくちゃ美人。

 ちっちゃい顔。折れそうな手足。透きとおるような白い肌。つやつやの黒髪。

 どれだけ金かけたらあの見た目たもてるのかな、なんて、現実的なことを考えた。


 こっち側と、向こう側。

 線がはっきり見えた気がして、ちょっと切なくなった。

 日中のシーンの撮影だったのだろう、日が暮れる前に撮影は終了して、スタッフたちが撤収作業を始めた。

 私からキーホルダーを借りたスタッフが、鞄からキーホルダーを取り外し、こちらへ持ってこようとする。

 それを制して、ヒロインが、キーホルダーを受け取った。

 え? と思っていると、なんと、ヒロイン自らが私の方へ来た。


「こんにちは。宏美役の雪乃(ゆきの)です。大切なキーホルダー、使わせていただいてありがとうございました」

「い、いえいえ! 私なんかで、お役に立てたなら、嬉しいです」


 雪乃さんは、にこっと笑って、スタッフたちの元へ戻っていった。

 芸能人オーラがすごい……。笑顔の威力半端ない……。

 スタッフさんに任せればいいのに、自分が使ったものだからって、わざわざ一般人の私 に、自分で御礼を言いに来たんだ。

 美人なのに性格も良いなんて、完璧すぎて勝てる要素がない。


(いやいや、勝つって、そもそも、勝負なんかする気もないし)


 でも。

 ルイに似合うのは、ああいう人なんだろうなって、思った。



 ☆★☆



 その夜、瑠為くんからメッセージが入っていた。


【キーホルダーの件、急に振っちゃってごめん。でも、本当に助かった。ありがとう】


 忙しいのに、律儀に連絡入れてくれるなんて。

 昼間の雪乃さんもそうだけど、芸能人の人たちって、こういうところ凄く礼儀正しいと思う。

 やっぱりそういう人じゃないと、芸能界はやっていけないんだろう。

 疲れそうだな、なんて思ったけど、ああいう人たちはそれがむしろ楽しいのかもしれない。


【全然、気にしないで。元々瑠為くんがくれたものなんだし。撮影、頑張ってね】


 返信に、既読はつかなかった。

 忙しいんだろう。

 ばたりと、ベッドに倒れ込む。

 瑠為くんから貰ったキーホルダーを、目の前に掲げた。


「私には、分不相応なんだろうな。このキーホルダーも、瑠為くんも」


 撮影に必要な小物なのに予備の用意がなかったってことは、よっぽど入手困難なんだろう。

 瑠為くんもきっと、私のために頑張って手に入れてくれたんだ。だっていっぱい持ってるなら、マネージャーにでも頼んで取りに行かせればいいんだから。

 私にとっては大事なデートの思い出の品だけど、普通の人から見たら、ただの高価なプレミア品。

 会社につけていったりしたら、一瞬で盗られそう。不正な手段で買ったって目で見られても、嫌だな。

 私が持ってて当然の人間だったら、そんな風には思われないのに。


 私は複雑な気持ちで、大事にキーホルダーをアクセサリーケースにしまった。

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