12.推しの撮影現場を目撃!?(2)
下に降りてから、私はそうっと、遠巻きに見ていた野次馬のひとりに話しかける。
「何かあったんですか?」
「ああ、それがねえ。撮影に使ってた小物が壊れちゃったらしいんだよ」
「すぐに買えないものなんですか?」
「なんかの限定品らしくて。すぐには手に入らないらしいの」
聞き耳を立てていると、監督とスタッフたちが言い合っているのが聞こえる。
「やっぱり、別のもので代用しましょう。すぐには無理ですよ、ここ1日しか押さえてないですし」
「そりゃまずいでしょ! スポンサーたっての希望なんだから! このドラマで使ってアピールするって!」
「限定品にしたのがまずかったですね」
「手に入らないプレミア感があるからいいんだよ!」
ついに監督は頭を抱えて座り込んだ。
「あ~、どうすんだもう。正人が宏美と初めてデートした記念に買ってあげたプレゼント、って設定なんだぞ。もう遊園地のデートは撮影しちゃったのに、今更別のアイテムには代えらんないだろう」
……遊園地?
私は首を傾げた。はて、最近、行ったような。
そんなことを考えながら見ていると、瑠為くんとばちりと目が合った。
まずい、反応するわけには。
思わず目を逸らしてから、横目でちらっと確認すると、瑠為くんが何かを監督に告げていた。
「ええ? あんなレアもの、その辺の人が持ってるわけ」
「まあまあ、聞くだけ聞いてみましょうよ。あれば儲けもの、くらいで」
瑠為くんにそう言われて、渋々監督が何かを了承した。
それを受けて、スタッフの人が、野次馬たちに声をかける。
「すみませーん! 皆様の中に、【クリスタルスターランド、ロズリィのイタリア5周年記念限定デザインキーホルダー】をお持ちの方、いらっしゃいますでしょうかー!?」
私は目を瞠った。
クリスタルスターランドとは、先日瑠為くんといった遊園地のことだ。
ロズリィはそこのマスコットキャラクターの名前。
クリスタルスターランドはイタリアにも進出しており、そこの5周年を記念して、ロズリィの限定キーホルダーが作られた。
それが好評で、日本でも欲しいと言う声があがり、日本のクリスタルスターランドでも、輸入品を数量限定で販売した。
一瞬で完売し、フリマサイトではとんでもないプレミア価格がつき、一般人がとても手に入れられない超レアものとなった。
それが、先日、瑠為くんが私にプレゼントしてくれたキーホルダー。
瑠為くんが監督に耳打ちしたのは、私が持っているという確信があったからだろう。
それがわかって、私は大声を出して手を上げた。
「あの! 私、あります!」
「ええ!? 本当に!?」
「奇跡だ!」
スタッフが一目散に私の元にやってくる。
「ほんっとーに悪いんだけど、それ、今日だけ借りることはできないかな!? 大事に扱うし、今日中に返すから!」
「は、はい。大丈夫です。部屋にあるので、取ってきますね」
「ありがとう!」
現場の空気が一気に緩んだ。
急いで部屋に戻ってキーホルダーを手にし、また撮影現場に行って、私はスタッフにキーホルダーを手渡した。
「どうぞ」
「ありがとうございます!」
言うが早いか、スタッフはすぐに監督のところに行って、それから私のキーホルダーはヒロインの鞄につけられた。
うーん、ちょっとだけ微妙な心境だけど、瑠為くんのドラマの役に立つのなら。
「それじゃ撮影再開しまーす!」
私はそのまま、野次馬に紛れて撮影を見ていた。
ヒロインは実力派の若手女優で、素人目にも上手いと思った。
それに、当たり前だけど、めちゃくちゃ美人。
ちっちゃい顔。折れそうな手足。透きとおるような白い肌。つやつやの黒髪。
どれだけ金かけたらあの見た目たもてるのかな、なんて、現実的なことを考えた。
こっち側と、向こう側。
線がはっきり見えた気がして、ちょっと切なくなった。
日中のシーンの撮影だったのだろう、日が暮れる前に撮影は終了して、スタッフたちが撤収作業を始めた。
私からキーホルダーを借りたスタッフが、鞄からキーホルダーを取り外し、こちらへ持ってこようとする。
それを制して、ヒロインが、キーホルダーを受け取った。
え? と思っていると、なんと、ヒロイン自らが私の方へ来た。
「こんにちは。宏美役の雪乃です。大切なキーホルダー、使わせていただいてありがとうございました」
「い、いえいえ! 私なんかで、お役に立てたなら、嬉しいです」
雪乃さんは、にこっと笑って、スタッフたちの元へ戻っていった。
芸能人オーラがすごい……。笑顔の威力半端ない……。
スタッフさんに任せればいいのに、自分が使ったものだからって、わざわざ一般人の私 に、自分で御礼を言いに来たんだ。
美人なのに性格も良いなんて、完璧すぎて勝てる要素がない。
(いやいや、勝つって、そもそも、勝負なんかする気もないし)
でも。
ルイに似合うのは、ああいう人なんだろうなって、思った。
☆★☆
その夜、瑠為くんからメッセージが入っていた。
【キーホルダーの件、急に振っちゃってごめん。でも、本当に助かった。ありがとう】
忙しいのに、律儀に連絡入れてくれるなんて。
昼間の雪乃さんもそうだけど、芸能人の人たちって、こういうところ凄く礼儀正しいと思う。
やっぱりそういう人じゃないと、芸能界はやっていけないんだろう。
疲れそうだな、なんて思ったけど、ああいう人たちはそれがむしろ楽しいのかもしれない。
【全然、気にしないで。元々瑠為くんがくれたものなんだし。撮影、頑張ってね】
返信に、既読はつかなかった。
忙しいんだろう。
ばたりと、ベッドに倒れ込む。
瑠為くんから貰ったキーホルダーを、目の前に掲げた。
「私には、分不相応なんだろうな。このキーホルダーも、瑠為くんも」
撮影に必要な小物なのに予備の用意がなかったってことは、よっぽど入手困難なんだろう。
瑠為くんもきっと、私のために頑張って手に入れてくれたんだ。だっていっぱい持ってるなら、マネージャーにでも頼んで取りに行かせればいいんだから。
私にとっては大事なデートの思い出の品だけど、普通の人から見たら、ただの高価なプレミア品。
会社につけていったりしたら、一瞬で盗られそう。不正な手段で買ったって目で見られても、嫌だな。
私が持ってて当然の人間だったら、そんな風には思われないのに。
私は複雑な気持ちで、大事にキーホルダーをアクセサリーケースにしまった。




