11.推しの撮影現場を目撃!?(1)
私と瑠為くんは、その後も遊園地を満喫した。
さんざん遊んで、日が暮れて、そろそろ最後にしようか、となって。
定番の、観覧車に乗ることにした。
「うわーっ! 夜景キレイ!」
「だね。下がきらきらして、ライブのサイリウムみたいだ」
「さすがアイドル。その感想はなかなか出てこないなあ」
「あれ、ステージから見るとすごくきれいなんだよ。俺たちも元気貰える」
「ほんと? なら嬉しいなあ」
私はサイリウムを振る側。
ルイはその光を受ける側。
ふたりきりで観覧車なんて、まるで本当の恋人同士みたいなのに。
所詮アイドルとファンなんだって、現実を突きつけられる。
この観覧車で、おしまい。
「瑠為くん、今日はありがとう。デートなんてびっくりしたけど、すごく楽しかった」
「こちらこそ。急に無茶言ったのに、付き合ってくれてありがとう。すごく参考になった」
「ほんと? なら良かった。ドラマ、楽しみにしてるから。頑張ってね」
「うん。全力で頑張る」
瑠為くんの力強い言葉に、私はちくりと胸の痛みを感じながらも、笑顔を作った。
ドラマの主演なんて、きっとすごく忙しいだろう。
もう、会えなくなっちゃうかな。
いや、そもそも今まで会えてたことの方がおかしいんだけど。
「あの。俺、暫くドラマにかかりきりで、連絡とかつかなくなると思うんだけど」
「え? あ、うん。そうだよね。忙しくなると思うから、気にしないで」
「時間ができたら、連絡するから。俺のこと、忘れないでね」
「忘れたりしないよ!」
というか、忘れられるはずもない。
だってルイが出るドラマは絶対見るし。
鼻息荒くそう言った私に、瑠為くんは曖昧に微笑んだ。
「そうだ、これ」
瑠為くんが小さな袋を、私に手渡す。
「今日の記念に」
「え、うそ、ありがとう……! 私、何もなくて」
「いいよ、俺が渡したかっただけだから」
袋を開けると、この遊園地のマスコットキャラクターがついたキーホルダーだった。
定番のお土産。でも、ただの定番じゃない。
「これ、めちゃくちゃプレミアついてる限定版じゃない……!?」
「うん。完売してたんだけど、ちょっとツテでね。1個だけ融通してもらったんだ」
「ええ!? そんな貴重なもの、貰っていいの!?」
「うん。みのりさんが良ければ、貰ってほしい。それで、これ見て、今日のこと思い出してくれたら嬉しいな」
「もちろん! 絶対絶対、大事にする……!」
推しからのプレゼントなんて、家宝にするしかない。
もう何度だって思い出を反芻して眺める。
本気で喜ぶ私を見て、瑠為くんも嬉しそうにしていた。
観覧車を降りると、冷たい風が体を震わせた。
遊園地から外に出て、瑠為くんと向き合う。
「それじゃ、ここで」
「うん。またね、瑠為くん」
手を振って別れたあとに振り返ると、瑠為くんは誰かと合流していた。
あれが、近くで待機していた人なんだろう。
真守ではなかった。スタスタのマネージャーはひとりだと言っていたし、事務所のスタッフなのかもしれない。
じろじろ見ていても怪しいだろう、と目を逸らそうとしたら、瑠為くんがこちらを見た。
何か言った方がいいか迷って、でも大声を出したら注目されてしまう気もして。
私は、両手で大きく丸を作った。
瑠為くんなら、絶対大丈夫の気持ちを込めて。
それを見て、瑠為くんはちょっと笑った――ように見えた。
☆★☆
「瑠為くん、頑張ってるかなあ」
あれから、瑠為くんからの連絡は宣言通りぱたりとなくなった。
忙しいのだろう。わかっている。
わかってはいるけど、寂しい。
今までが異常だったということも、わかってはいるつもりなんだけれど。
人間というのは欲深い。ひとつ叶ってしまうと、もっともっとと思ってしまう。
わきまえなければ、と思う反面、瑠為くん自身が「友達」と言ってくれた、という喜びもある。
アイドルのルイとして日々頑張っている彼が、私と【南雲瑠為】として接することで、少しでも気が抜けるのなら。
あの遊園地の時みたいに。ほんの少しでも、弱音が零せるなら。
友達として、支えてあげたいと、思う。
それはやはり、欲張りなんだろうか。
溜息を吐きながら、自宅マンションへと帰宅する。
今日も疲れた、と思いながら、ぐったりして郵便ポストをのぞく。
「……んん?」
そこに、見慣れないチラシが入っていた。
チラシというか、ただのペラ紙にも見える。予算かけられないところか。
「えーなになに」
ただの白い紙に黒い文字で印刷されただけのそれは、撮影のお知らせだった。
いわく。このマンション近辺を撮影に使用するので、1日だけ、通りを塞いだり大きな音を出したりの迷惑がかかるかもしれない、とのこと。
「へー、こんなとこで撮影」
東京では珍しいことではない。
田舎では芸能人なんて超レアキャラ扱いだったけど、こっちじゃどこかしらで撮影をしているものだ。
私はそれほど気にせずに、他の郵便物と一緒に部屋まで持っていった。
☆★☆
「ん……? カメラ? ああ、今日だったか」
ベランダから覗くと、撮影隊がいるのが見えた。
日程すら忘れていたが、チラシが入っていた、あの撮影だろう。
誰が出るのか、何の番組なのかも書かれていなかったので、ミーハー心から出演者を探してみた。
そしたら。
「うそ……瑠為くん……!?」
そこにいたのは、最近会えていなかった瑠為くんだった。
もしかすると、これは瑠為くんが主演を務めるドラマの撮影。
さっきまで何の興味もなかったのに、俄然興味が湧いてきた。
もう年末も近いというのに、ずいぶんギリギリの撮影スケジュール。
ということは、クライマックスか、重要なシーンの撮影なのかもしれない。
今日は休日だが、きちんと着替えて、メイクをして、その上でベランダに待機した。
やっぱり、現場を下まで見に行くのは、ジャマになるというものだろう。
でも何があるかわからないから、すぐ出られるように。
ぼうっと眺めていると、シーンの撮影が始まった。
推しが、目の前で、芝居をしている。
格段に上手くなった、とは言えないけど、前見た時より、しっかり気持ちが入っているように見えた。
(……贔屓目かな)
そうかもしれない。
私がルイ推しだから、推しが頑張っているだけで尊い。そう思っちゃってるのかも。
でも、実際。この熱量を目にしたら。
こんなに頑張っている人の芝居が、響かないはずない、と思ってしまう。
(頑張れー!)
雑音になってしまうから、決して声には出せないけど。
私は心の中で、精一杯応援した。
暫くの間撮影は順調に進んでいるように見えた。
けれど、なんだかスタッフたちがざわざわとしだした。
何かトラブルだろうか。
NGとかではない、と思う。役者が怒られている様子はない。
何となく気分がざわついて、私は部屋を飛び出した。




