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推しが弟の友達でした!?  作者: 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】受賞
第一章

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10/20

10.推しと遊園地デートとか、夢!?(2)

「あー楽しかった!」

「それは良かった」


 ジェットコースターを降りて、大きく伸びをする。

 瑠為くんも楽しそうだし、絶叫系苦手じゃないみたいで良かった。


「さて。次は何にする? ゆっくり座って見るシアター系とかにする?」

「そうだなあ……。物理で絶叫したから、次は精神的な絶叫とかどう?」

「精神的な……?」

「遊園地の定番といえば、お化け屋敷でしょ」


 私はひくりを頬を引きつらせた。

 ホラーゲーム配信からわかるように、私は日本のホラーが苦手である。

 でも、たしかに、遊園地デートの定番といえば、お化け屋敷だ。

 女性が怖がって、男性の頼もしさが垣間見える、フィクションの王道展開。

 ここはやはり、体験しておくべきか。


 悩む私を見て、瑠為くんが申し訳なさそうに眉を下げた。


「ごめん、ダメそうだったら、無理しなくていいよ。別のとこにしよう」

「……いや! 今日は瑠為くんの役作りのために来てるんだから! 行こう、お化け屋敷!」

「いいの?」

「もちろん。ただ私が怖がったら、瑠為くんちゃんとエスコートよろしくね!」


 強がって拳を握る私を、瑠為くんが柔らかい目で眺める。


「わかった。じゃあ、手は離さないでね」

「う、うん」


 しっかりと繋がれた手に、私はどぎまぎしてしまって。

 お化けなんて目に入らないかもしれないな、なんて思った。


 が。


「ぎゃああああ!」

「へー、これよく出来てるなあ」

「瑠為くん観察してないで!」

「ごめんごめん。ついセットが気になっちゃって」


 私は可愛く甘えてみせるなんてことはなくて、割と本気でしがみついていた。

 うう、やっぱり、お化け屋敷コワイ。


「これちゃんとデートの参考になってるう……?」

「なってるなってる。女の子ってやっぱりこういうの怖いんだね」

「その感想はちょっと違うぞ瑠為くん。私は怖いけど、女子がみんな苦手だと思ったら大間違いだからね」

「はいはい。でもみのりさんは苦手、と」

「初回の私のホラー実況見てたでしょ」


 あの時のことは忘れない。

 初めての配信、ラストのルイの乱入。

 あれは本当に心臓が飛び出るかと思った。


「初回だけじゃなくて、全部見てたよ。アーカイブだけど」

「え?」

「言ったでしょ? みのりさんは、俺の推しだって」


 その発言をどう捉えたらいいのかわからなくて、私は言葉に詰まってしまった。


「あ、そろそろ出口だね」


 光が差して、お化け屋敷のゴールに辿り着く。


「たくさん叫んで疲れたでしょ。ちょっと休憩しよっか」

「……うん」


 お昼も近かったし、私たちは遊園地内で売っているフードを買って、ベンチに座った。

 ちょっと寒いけど、今日は天気も良いし、日が当たればあったかい。


「レストランもいいけど、こういうのもピクニックみたいでいいよねー」

「たしかに。外で食べるごはんって美味しいよね」

「わかる。私オフィス勤務だからさー。篭ってるとじめじめしてくるし、たまにお弁当とか、キッチンカーで買ったごはん持って、近くの広場で食べるんだよね。ちょっとだけでも日に当たろうと」

「その方がいいよ。健康的だし」

「その点、真守はなあ……」

「ああー……。配信内容も、インドアが中心だから……」

「あれはちょっと、姉としては心配ですよ」


 溜息を吐くと、瑠為くんが微笑ましそうに目を細めた。


「みのりさんて、いいお姉さんだよね」

「真守がああだからさ。私がしっかりしないと、成り立たなかったのよ」

「その気持ちは、ちょっとわかるよ。スタスタも、ショートとユウマがああだからさ。俺がしっかりしないとって。周囲からも、バランサーの役割を求められてるのがわかったし。……でも、それでちょっと器用貧乏っていうか、特徴ないなって思うこともあって」

「え!? 瑠為くんが!?」

「ふたりほどの強烈な個性ないからさ」


 苦笑した瑠為くんに、胸が締め付けられた。

 そんな、ルイだって、ソロでも十分人気のあるアイドルなのに。

 こんな風に思ってたなんて。

 私は、ぎゅっと拳を握りしめた。


「私は、ルイのことが一番好きだよ!」


 瑠為くんが、目を丸くする。


「スタスタは完成されたグループだと思うし、確かにショートもユウマも個性的だけど。それでも、ルイにだって唯一無二の輝きがある! 私を救ってくれたのは、ルイなんだよ!」

「俺が……?」

「仕事に忙殺されて、ゾンビみたいになってた時、テレビから聞こえたルイの歌声が、私を引っ張り上げてくれたの。あんなに素敵な歌声、私、今までの人生で聴いたことない。そこから、CD買ったりライブ行ったりして、ルイに貢ぐために頑張って稼がなきゃって仕事も頑張れて。ルイがいなかったら、私、今こうしていられなかったよ。だから、私が元気に生きてるのは、ルイのおかげなの!」


 力説した後、はっとした。

 私、今、完全にルイ推しのオタクだった。

 やばい、気持ち悪いマシンガントークしちゃった、と滝汗をかいていると。


「……ありがとう」


 へにゃりと相好を崩した瑠為くんに、母性本能がゴリゴリに刺激される。

 手が勝手に丸を作りそうになって、違う、今じゃない、と抑える。

 すると、瑠為くんが、私の頭をそっと撫でた。


「みのりさんも、ずっとお姉さん頑張ってきて、えらいよ。俺はきょうだいいないからさ。メンバーの面倒見てるっていったって、やっぱりそれは仕事だからって面がなくもないけど。みのりさんは、真守が生まれた時から、何の見返りもなく、ずっとお姉さんやってきたんだもんね。甘える相手も、なかなかいなかったでしょ。よく頑張ってきたね」


 えらいえらい、と頭を撫でられて、不覚にも泣いてしまいそうだった。


 母は、弟に激甘で。

 仕方なく私が教育をしたけど、そのせいで弟からは特に好かれてはいないし。

 母も、私のことを口うるさい娘だと思っている。

 自分でなんでもできなくちゃ、と育ったせいか可愛げがないらしく、彼氏もなかなかできな かったし、できてもすぐ振られた。

 だいたい、甘え上手な妹キャラに浮気されて。

 お決まりの台詞は「君は僕がいなくても平気だから」。

 誰も支えてくれないから。ひとりで立っていなくちゃって。

 それは頑張ってそうしていたからで、平気だったわけじゃない。

 その私の頑張りを、初めてちゃんと認めてもらえた気がした。


 私は零れそうになる涙をぐっと堪えて、下手くそな笑顔で、手を合わせて丸を作った。


「瑠為くん。女の子の弱さに寄り添える姿勢、100点。花丸。やっぱり、瑠為くんは瑠為くんであるだけで、十分だよ。そのまんまで、相手役に寄り添えれば、十分気持ち作れると思う」

「そうかな? みのりさんがそう言ってくれるなら、ちょっとは自信持とうかな」

「そうだよ。絶対、大丈夫」

「ありがと」


 笑顔を交わして、私たちはベンチから立ち上がった。


「さて! 遊園地はまだまだここから。次はどこ行く? みのりさん」

「そうだなあ。食べたあとだから、ゆっくりシアターに行こう」

「賛成」


 瑠為くんが私の手を引く。

 ああ、私、こんなに幸せでいいのかな。

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