10.推しと遊園地デートとか、夢!?(2)
「あー楽しかった!」
「それは良かった」
ジェットコースターを降りて、大きく伸びをする。
瑠為くんも楽しそうだし、絶叫系苦手じゃないみたいで良かった。
「さて。次は何にする? ゆっくり座って見るシアター系とかにする?」
「そうだなあ……。物理で絶叫したから、次は精神的な絶叫とかどう?」
「精神的な……?」
「遊園地の定番といえば、お化け屋敷でしょ」
私はひくりを頬を引きつらせた。
ホラーゲーム配信からわかるように、私は日本のホラーが苦手である。
でも、たしかに、遊園地デートの定番といえば、お化け屋敷だ。
女性が怖がって、男性の頼もしさが垣間見える、フィクションの王道展開。
ここはやはり、体験しておくべきか。
悩む私を見て、瑠為くんが申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめん、ダメそうだったら、無理しなくていいよ。別のとこにしよう」
「……いや! 今日は瑠為くんの役作りのために来てるんだから! 行こう、お化け屋敷!」
「いいの?」
「もちろん。ただ私が怖がったら、瑠為くんちゃんとエスコートよろしくね!」
強がって拳を握る私を、瑠為くんが柔らかい目で眺める。
「わかった。じゃあ、手は離さないでね」
「う、うん」
しっかりと繋がれた手に、私はどぎまぎしてしまって。
お化けなんて目に入らないかもしれないな、なんて思った。
が。
「ぎゃああああ!」
「へー、これよく出来てるなあ」
「瑠為くん観察してないで!」
「ごめんごめん。ついセットが気になっちゃって」
私は可愛く甘えてみせるなんてことはなくて、割と本気でしがみついていた。
うう、やっぱり、お化け屋敷コワイ。
「これちゃんとデートの参考になってるう……?」
「なってるなってる。女の子ってやっぱりこういうの怖いんだね」
「その感想はちょっと違うぞ瑠為くん。私は怖いけど、女子がみんな苦手だと思ったら大間違いだからね」
「はいはい。でもみのりさんは苦手、と」
「初回の私のホラー実況見てたでしょ」
あの時のことは忘れない。
初めての配信、ラストのルイの乱入。
あれは本当に心臓が飛び出るかと思った。
「初回だけじゃなくて、全部見てたよ。アーカイブだけど」
「え?」
「言ったでしょ? みのりさんは、俺の推しだって」
その発言をどう捉えたらいいのかわからなくて、私は言葉に詰まってしまった。
「あ、そろそろ出口だね」
光が差して、お化け屋敷のゴールに辿り着く。
「たくさん叫んで疲れたでしょ。ちょっと休憩しよっか」
「……うん」
お昼も近かったし、私たちは遊園地内で売っているフードを買って、ベンチに座った。
ちょっと寒いけど、今日は天気も良いし、日が当たればあったかい。
「レストランもいいけど、こういうのもピクニックみたいでいいよねー」
「たしかに。外で食べるごはんって美味しいよね」
「わかる。私オフィス勤務だからさー。篭ってるとじめじめしてくるし、たまにお弁当とか、キッチンカーで買ったごはん持って、近くの広場で食べるんだよね。ちょっとだけでも日に当たろうと」
「その方がいいよ。健康的だし」
「その点、真守はなあ……」
「ああー……。配信内容も、インドアが中心だから……」
「あれはちょっと、姉としては心配ですよ」
溜息を吐くと、瑠為くんが微笑ましそうに目を細めた。
「みのりさんて、いいお姉さんだよね」
「真守がああだからさ。私がしっかりしないと、成り立たなかったのよ」
「その気持ちは、ちょっとわかるよ。スタスタも、ショートとユウマがああだからさ。俺がしっかりしないとって。周囲からも、バランサーの役割を求められてるのがわかったし。……でも、それでちょっと器用貧乏っていうか、特徴ないなって思うこともあって」
「え!? 瑠為くんが!?」
「ふたりほどの強烈な個性ないからさ」
苦笑した瑠為くんに、胸が締め付けられた。
そんな、ルイだって、ソロでも十分人気のあるアイドルなのに。
こんな風に思ってたなんて。
私は、ぎゅっと拳を握りしめた。
「私は、ルイのことが一番好きだよ!」
瑠為くんが、目を丸くする。
「スタスタは完成されたグループだと思うし、確かにショートもユウマも個性的だけど。それでも、ルイにだって唯一無二の輝きがある! 私を救ってくれたのは、ルイなんだよ!」
「俺が……?」
「仕事に忙殺されて、ゾンビみたいになってた時、テレビから聞こえたルイの歌声が、私を引っ張り上げてくれたの。あんなに素敵な歌声、私、今までの人生で聴いたことない。そこから、CD買ったりライブ行ったりして、ルイに貢ぐために頑張って稼がなきゃって仕事も頑張れて。ルイがいなかったら、私、今こうしていられなかったよ。だから、私が元気に生きてるのは、ルイのおかげなの!」
力説した後、はっとした。
私、今、完全にルイ推しのオタクだった。
やばい、気持ち悪いマシンガントークしちゃった、と滝汗をかいていると。
「……ありがとう」
へにゃりと相好を崩した瑠為くんに、母性本能がゴリゴリに刺激される。
手が勝手に丸を作りそうになって、違う、今じゃない、と抑える。
すると、瑠為くんが、私の頭をそっと撫でた。
「みのりさんも、ずっとお姉さん頑張ってきて、えらいよ。俺はきょうだいいないからさ。メンバーの面倒見てるっていったって、やっぱりそれは仕事だからって面がなくもないけど。みのりさんは、真守が生まれた時から、何の見返りもなく、ずっとお姉さんやってきたんだもんね。甘える相手も、なかなかいなかったでしょ。よく頑張ってきたね」
えらいえらい、と頭を撫でられて、不覚にも泣いてしまいそうだった。
母は、弟に激甘で。
仕方なく私が教育をしたけど、そのせいで弟からは特に好かれてはいないし。
母も、私のことを口うるさい娘だと思っている。
自分でなんでもできなくちゃ、と育ったせいか可愛げがないらしく、彼氏もなかなかできな かったし、できてもすぐ振られた。
だいたい、甘え上手な妹キャラに浮気されて。
お決まりの台詞は「君は僕がいなくても平気だから」。
誰も支えてくれないから。ひとりで立っていなくちゃって。
それは頑張ってそうしていたからで、平気だったわけじゃない。
その私の頑張りを、初めてちゃんと認めてもらえた気がした。
私は零れそうになる涙をぐっと堪えて、下手くそな笑顔で、手を合わせて丸を作った。
「瑠為くん。女の子の弱さに寄り添える姿勢、100点。花丸。やっぱり、瑠為くんは瑠為くんであるだけで、十分だよ。そのまんまで、相手役に寄り添えれば、十分気持ち作れると思う」
「そうかな? みのりさんがそう言ってくれるなら、ちょっとは自信持とうかな」
「そうだよ。絶対、大丈夫」
「ありがと」
笑顔を交わして、私たちはベンチから立ち上がった。
「さて! 遊園地はまだまだここから。次はどこ行く? みのりさん」
「そうだなあ。食べたあとだから、ゆっくりシアターに行こう」
「賛成」
瑠為くんが私の手を引く。
ああ、私、こんなに幸せでいいのかな。




