EP001[ハローニューワールド。地球は滅亡しました。]
「へ、Hey,神!」
一人の少女が自室にて恥ずかしがりながら言葉を発すると、目の前にウインドウが表示された。
少女の名は———紬。
地球滅亡まであと一日。
両親は少女が選定で選ばれた事に喜び、この一年の間は好きに生きる事を許した。
学校に行くも良し、休んでゲーム三昧も良し。全ては異世界で生き残る為の糧に何でも吸収する事を優先させたのだ。
今日も朝から学校には行ったが、友達や先生とのお別れをする為であり、昼前には早退して家に戻って来て今に至る。
少女の目の前にはゲーム好きの兄と相談しながら一年間で選び抜いたボディメイキングの結果と神器の効果が表示されていた。
「年齢を弄る事は出来ないから私は十一歳のままであっちに行く事になる……」
小学六年に上がったばかりで死ぬのだ。
選ばれた事は光栄だけれど両親や兄からは友達と言えど選ばれた事を口にしてはいけない、と口を酸っぱくして言い聞かせられていた。
だが、家族との約束を守っていても気付く者は気付く。
しかし、少女の周りは彼女に優しく寄り添い、気付かぬ振りをして今日の早退も手を振って送り出してくれた。
「職業は、調教師……」
少女は動物が好きだった。
田舎の祖父母の家が犬猫を多く飼っていた為、長期休みに入る度に親に泊まりに行かせて欲しいとお願いする程には動物が好きだった。
ただし、調教師が仲間に出来るのは魔物であり、基本的には危険な生き物と対峙して仲間にする必要がある。
そして、調教師は個人での戦闘力は一般人と等しい。そこで神器だ。
選定で選ばれた日の内にさっそく兄に相談した。
* * * * *
「調教師……か。じゃあ無敵が可能かどうか確認しよう」
生まれつき視力が悪い兄が眼鏡の位置を上げながら提案して来た。
無敵。身体が七色に光りBGMが流れている間は危害は無効化され触れるだけで敵が吹き飛ぶ。
兄の提案を聞いた少女の頭の中には、そんな凝り固まったイメージが浮かんでいた。
兄が提案したのは単純に危害の無効化だけだったのに……。
[ 神器で無敵になれますか? ]
神チャットに質問を打ち込むと直ぐに回答は返って来た。
『無敵は強力過ぎて難しいです。必ず強烈なデメリットも発生するのでお勧めできません』
兄には神ウインドウが見えていない様子だったので回答を説明した。
兄は職業を変更しろとは言わなかった。あくまで少女の意思を尊重したうえで協力してくれたのだ。
「なら、一定ダメージを無効化するバリアを常に適用する事は可能か?」
打ち込んで質問した。
『可能です。最大値については無効化する攻撃の種類によって変わり、物理や魔法攻撃だけならば2000ダメージまで無効化可能。全ての攻撃が対象だと500ダメージまで無効化可能です』
「次はこう質問してくれ」
兄の真剣な表情に少女まで緊張して来た。言われるがままに質問を繰り返す。
[ 魔物の攻撃力や人間の攻撃力を詳しく教えて欲しい ]
『皆様を移住させる際に最初の場所は危険性の低い場所を選択予定です。魔物ならば物理が多く魔法は一部のみが使用します。攻撃力は平均的に100程度。人間は400程度となります』
少女は兄が遊んだゲームも後追いで遊ぶことが多かったのでバリア性能と異世界攻撃力についての話を理解しつつ兄に相談を続ける。
「どうかな、お兄ちゃん……」
「……神器使えねぇな。便利だからすべての攻撃無効を選びたい所だけど序盤しか利益が無い……。せっかく神器とか名前だけは大層な物が貰えるんだからずっと使えるモノを選びたいよなぁ……」
神様に対して結構酷い事を口にしている兄だが、少女も口にしないだけで概ね同意の意見だった。
兄が考え込んでいる間に少女は別の質問を入力する。
[ ダメージの70%減とかならどうですか? ]
安全なのは当然無効化だ。
しかし、微妙な性能になるならダメージ減退の方が長く使えると考えたのだ。
『すべての攻撃を対象ならばダメージ三割減。物理や魔法攻撃のみならばダメージ五割減が最大値です』
ブツブツ言っている兄に少女はダメージ減退について伝えた。
「無効化よりは現実的かな?」
「俺もそう思うけど、ダメージを受けないに越したことは無いからお前の回避能力と回復能力次第にもなるぞ」
運動は割と得意だ。体力測定では上位の成績だった。
とはいえ、所詮は十一歳の肉体。
得意だからイメージ通りに回避できる訳では無い事も理解している。
回復能力も調教師が覚えるとすれば魔物の回復だろう。ここで急激に異世界では頼りになる兄と一緒では無い事に心細さを感じて抱き着いてしまう。
「おっと……。どうしたんだ?」
「お兄ちゃんを連れていきたい……」
高校生の兄は一瞬呆けて、次に嬉しそうな表情を浮かべて、最後に悲しそうな表情に変わって少女の頭を撫でる。
「俺もお前を残して死ぬなんて嫌だよ。神様に聞くだけ聞いても良いけど多分連れてはいけないぞ?」
それは少女も予想出来ていた。だから尚更……。
「まぁ、まだ一年猶予はあるんだし色々と確認しながら異世界に行っても安定して生きられる方法を考えようぜ」
* * * * *
結局、一年検証した結果全てのダメージ三割減の神器を選択した。
また、ボディメイキングの中で職業毎にユニークスキルも選択出来たので、ここも兄と協力して長く有効そうなスキルを選り好んだ。その他神様から特典として二つのスキルが進呈されていた。
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Neme:如月 紬 種族:人間 年齢:11歳 状態:健康
【神器】
◆星盾の指輪
◇効果≪物理被害減退30%/魔法被害減退30%≫
【職業】
◆調教師Lev.1
◇内包マスタリー≪調教術Lev.1/魔物鑑定眼Lev.1/魔物餌作製Lev.1/魔物上限Lev.1≫
【スキル】
❖相互強化Lev.1 (互いに素のステータスの一割上昇)
◇内包マスタリー≪主人強化Lev.1/魔物強化Lev.1/魔物技Lev.1≫
◆自在倉Lev.1
◇内包マスタリー≪袋口Lev.1/容量Lev.1/下級魔法袋作製≫
◆異世界人Lev.MAX
◇内包マスタリー≪言葉理解/文字理解/常識理解≫
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最終的に選んだステータスとボディメイキングの再確認をして間違いや見逃した穴がないかと何度も見直して問題ない事を確認した。
「大丈夫そう。あとは持ち込み可能と許可ももらったこのノート……」
一年の間にツムギは兄と協力して神チャットに何度も何度も質問を繰り返した。
その結果。お金の単位、優先して仲間にすべき低ランクの魔物一覧、薬草の種類や煎じ方も質問によって挿絵も混じえて綺麗にまとめられていた。
このノートを異世界へ持ち込む許可も貰っている。
試行錯誤で”交渉”を選択し、異世界を有利に生き残る為に努力する思考が出来る者を神は選んだらしいので、ツムギが交渉した時はチャットで大喜びしていた。
その他、最初の町に数日滞在する為の割符が与えられ、金銭も働かなくとも一週間は生きていける程度を持たせてくれるらしい。
「ただいまー」
いつの間にか夕日が窓から差し込んでいた。階下から兄の声が聞こえてきてやっと昼過ぎからウインドウを見つめ続けていたのだと理解する。
「お兄ちゃん、おかえりなさーい!」
兄は最後まで学校にしっかり通う事を選んだ。この一年で家に居る間はずっと兄と一緒に居たので寂しいと思ったことは無い。
お母さんもお父さんも仕事を続けた。今日も帰宅したお母さんはいつも通りに買い物袋を提げてドアを開け、私に食材を冷蔵庫に入れる様に声を掛けて来たし、お父さんもお土産にいつものケーキ屋でショートケーキを買って来てくれた。
「紬、お風呂入って早めに寝なさいよ~」
「はぁ~い」
いつも通り美味しいお母さんの晩御飯を食べて、満腹だったけど別腹にケーキも食べて休憩しながらTVをボケ~と見ている間にお母さんから声が掛かり私は最後のお風呂に入った。
「お兄ちゃんあがったよ~」
「はいよ~。セーブしたらすぐ入るって母さんに言っといて~」
風呂上がりのアイスを食べながら兄の部屋を覗くと案の定、最後の日でもゲームに勤しんでいた。
我が兄ながらマイペース過ぎて将来が心配に……そうだった。
お兄ちゃん達には———将来が無いんだった……。
「紬。明日からは一緒に居られないけど、お前は一人じゃないからな。俺も母ちゃんも父ちゃんもずっと一緒だから……」
兄がゲーム画面から視線を外さないまま続けて声を掛けて来た。その内容に涙が目に溜まる。
「……う”ん”。……わ”かって”る”」
パジャマで涙を拭って自室に飛び込む。
我慢していた感情が一気に噴き出てきて涙が止まらない。
これから大好きな兄も母も父も居ない。事実として理解していた。
いや———理解したつもりになっていただけに兄の一言でここまで動揺してしまい、袖に涙をいくら吸わせても止まらなかった。
「ふっ!っぐふん……。ぐすっ。ふぅ”ぅ”ぅ”ぅ”ぇ”ん”……」
怖い。怖い怖い……怖いっ!。お兄ちゃんもお母さんもお父さんも居ない!?
想像も出来ない現実が目の前まで迫っている事にしばらく声を殺して泣いていると母が訪ねて来た。
「紬? 大丈夫? 今日は一緒に寝ましょうか?」
ドア越しの母の声に涙が退いていく。
「……うん」
返事を返すとゆっくりとドアが開き母が覗き込んで来る。
私の様子に気付きつつ、部屋に入って来て涙の残る瞼を親指で拭うと抱き締めてくれる。
母の柔らかい体は本当に安心する。いくつになってもこの安らぎに敵う安心感は無いのだろう。
そのまま私は泣き疲れからウトウトし始めてしまい、母に抱き上げてベッドに寝かせてくれる。
母もベッドに入って来て、私を抱き締めたまま寝かしつけられた私は、いつの間にか最後の夜の意識を手放した。
「——いつまでも元気に過ごしてね、私の大事なお姫様。大人になるまで見守ってあげられなくてごめんね———大好きよ」
* * * * *
意識が浮上する感覚がする。
頬に触れる風の感触と耳に聞こえる草木の揺れる音が深く沈んでいた意識を呼び起こした。ゆっくりと瞳を開くと木々の間から木漏れ日が漏れており、首と瞳だけを動かして周囲を確認するとどうやら森の入り口付近で目覚めたのだと理解した。
「行ってきます」
初めて視界に収めた異世界の風景を見つめながら、私は家族に外出の挨拶を告げて起き上がり歩き始めた。
はい、ここまでしか書いてないです。
スキルとは使いまわしあるし、当時の私は世界観をどうするつもりだったのか……。




