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焚き火  作者: 兎平 亀作
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電脳義賊、最後の事件

これは小説習作です。とある本を開き、ランダムに3ワード指差して、三題噺してみました。

随時更新して行きます。


【お断り】「速やか、綱、隠れ家」の三題噺です。


(以下、本文)


熊の隠れ家は山である。

象の隠れ家はサバンナである。

鯨の隠れ家は海である。

では、人間の隠れ家は、どこにある?


どん欲な知的開拓の果てに、我らが足を踏み入れた暗黒大陸、ネット空間。


海に海賊あり、山に山賊があるように、ネット空間を我がもの顔で横行するギャングたちは空賊とでも呼ぶべきか。

オレもその一人だ。


オレにはデイトレーダーと言うカバーがある。

カバーと言っても、生活費ぐらいは稼いでいる。

税金だって、ちゃんと払っている。


ヤバい空賊稼業も、そろそろ潮時だろう。

インターネットなんて、あと10年後には存在すまい。

海に砂を投げ込むようなネット・セキュリティに神経をすり減らすより、全く新しい仮想空間を立ち上げた方が早いからだ。


新「インターネット」には、無法者を取り締まるネット警察がちゃんとおり、国家レベルのハッキングに対抗するためのネット軍隊も配備されており、もちろん国境も税関も検疫機関もあるだろう。


現実社会と寸分たがわないネット空間が立ち上がれば空賊の隠れ家なんて、どこにもなくなる。

どうせ止めるなら、できるだけ早い方がいい。


さらばキャプテン・フック。

さらば宝島よ。


そんな感傷にふけりつつ、ブランデーを舌で転がしていたら、誰かがオレのマンションのインターホンを鳴らした。

エントランスのセキュリティを、どうやって突破したんだ?

住人の出入りの際に、すり抜けたのか?


玄関のドアがドンドン、ノックされているのがオレの部屋からでも分かった。

これは行かない訳には行くまい。


ドアの向こうの男の声は言った。


「速やかに、このドアを開けなさい。私たちは、このドアを合法的に開ける五つの手段を持っている。無駄な抵抗は時間の無駄だぞ。」


オレは怒鳴り返した。


「オレには弁護士を呼ぶ権利がある。それを無駄な時間とは言わさんぞ!」


ドアがガチャリと開いた。


「いや、無駄だね。死んだ男に弁護士は必要ないから。」


全身黒ずくめ。黒いサングラスに黒いマフィア帽のブラックメンが、パッと見で五六人くらい、ドアのすき間から見えた。


先頭のブラックマンが言った。


「義賊アルセーヌ・ルパンさん。ジャレつく相手をまちがえたね。全部傍受されていると、なぜ想定しなかったんだ?」


なんだ、お役人か。空賊なめんなよ。


「令状みせろよ。」


「令状? そんなもの、ある訳ないじゃないか。そもそも私たちは日本政府に属してすらいないんだから。」


まさか、こいつら・・・、


二人目のブラックマンが言った。


「君が自分の親兄弟と縁を切った事に感謝する。最後の頼みの綱を、自分でブチ切ってくれたんだからな。君に対する人道的配慮を言い立てる人間は、もうどこにもいないんだからな。君の失踪宣告は日本政府の職権で淡々と進められるだろうよ。」


つまりオレは、書類上は、もう死んでるのか。


今オレはニッポン国の中の外国に監禁されている。

オレは法の裁きを受けられない。

この人外魔境に適用される法律は無いからだ。


オレは兎平亀作と言うカバーネームを剥ぎ取られたが、本名に戻る事も許されなかった。

ここではオレはRichard Doeと呼ばれてる。


ここへ来て半年がたつが、拷問どころか訊問すらない。

しかも「読書でも運動でも、どうぞご自由に」と来たもんだ。

生きながらミイラにされたようなもんだぜ。


言い訳めくが、最後にひと言だけ言わせてくれ。

電脳空間で、確かにオレはドロボウ行為を繰り返した。

だが、人を殺した事はない。

死に追いやった事もない。

ネットリンチは愚民のやる事だからだ。


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