やってみた。
蚊が小さく燃えて、消えた。
残ったのは焦げた臭いだけ。
え?
体が固まっているように、身動きが取れない。
魔法?
1分はそのままだった。
本当に魔法が使えた?
いやいや、おかしいって。
たまたま「ファイア」って呟いたら…
蚊が勝手に燃えただけでしょ
いやおかしい、なんで?
ソファから立ち上がり、家の中を見渡し、探しまわる。
何か、他にも燃えていいサイズ、消えてしまってもいい何か。
…ティッシュ一枚でいいか。
台所に立ち、ティッシュを右手で掴みながら呟く。
「ファイア」
ボッ。
「わあっ」
ティッシュから手を放す。
シンクの中に落ちた時、ティッシュは燃えて消えた。
残りカスもない。
「は、は、」
…マジだな、これ。
心臓の鼓動はいたって普通。意外と冷静でいれたようだ。
だって「知ってる」から…?
ベランダに出る。柵から手を伸ばして
「ファイア」
手のひらから野球ボールくらいの火の玉が2メートルが飛び、ふっと消えた。
何かを燃やすだけでなく、火の玉を飛ばす事もできる。
ファイアはできた。
ベランダから見下ろすと幼児がブランコに、そのお母さんらしき人は子供が落ちないよう、優しくブランコを揺らしている。
その近くには水飲み場があり、蛇口が見える。
ファイア以外の魔法であの蛇口を捻って水が出たら、あの親子はびっくりするかな。
するとまた聞いた事もない呪文が浮かび、口に出す。
確かこれは離れた物を動かす魔法だ。「こっちの世界」では超能力に近いやつ。
さあ、蛇口が開くぞ、じゃーっと。
ボンッ。
親子の背後に小さな火が現れ、消えた。
親子は気付かず、ブランコで遊んでいる。
は!?
…
蛇口は?
蛇口は全く反応していないようだ。
あ、危ねえ…!
あの火が親子に当たらないで良かった!!
じゃなくて!
なんだこれ!
物を動かす事もできない!?
その代わりに火が出てしまった。
まさか、
俺、
「ファイア」しか使えないのか!?