その記憶、ライターの火が揺らぐ様に
初めての物書きです。
俺の名前は「カイ」。
カイ、そうだよ。カイ、で合っている。
他の誰でもない、日本に住んでいる高校生。
その「カイ」である俺は今、自分の家のリビングでソファに座り、右手の親指でライターをつけ、ちいさな炎の揺らぎをじっと見つめている。
見つめているだけなのに、俺の頭の中に色んな映像や音、誰かの声が流れてくる。
頭の中の誰かが俺の事を「カイエン」と呼んだ。
女の声。
「カイエン。大丈夫か。歩けるか?帰ろう。」
その声は「僕」である「カイエン」の身体の具合を心配しているようだが、その声の持ち主の方こそずっと辛そうだ。
痛みとひどい疲れでやっとその声を出しているのがわかる。
頭の中の映像はノイズがかかっているようでハッキリとはしないが、その俺を案じてくれている女は、
服が刃物か獣の爪で引き裂かれたようなボロボロの服に鉄の鎖?でできたような鎧めいたものを着こんでいる。
顔、は泥なのか血が渇いているのか、茶色く汚れている。
右目を怪我しているのか、左目しか開いていない。
髪もボサボサ。
まるで事故にでもあったような、いや熊にでも襲われたようなボロボロの女は、それでも綺麗な顔の作りをしているとわかる。
そう、わかる。
違う、知っている。
そうだよ、俺は知っているんだ。
この女の事を。
カイエンは仰向けに倒れている。
女は片膝をついて、その傷と疲労で辛そうにしながらもカイエンの顔を覗き込み、心配そうに声をかけてくれている。
そこでハッとして我に返ると薄暗いリビングに座っている「俺」に戻ってきた。
右手に握っていたライターの火で指が熱くなってきたので親指を離す。
火が消えて少しの焦げ臭さがリビングを満たしてしまった。換気扇を回さないと。