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聖女と結婚して、より豊かに幸せになれるのだと信じていたのに

作者: 下菊みこと

可哀想に


という短編の王太子視点になります。

「聖女さまとは、どのような人だろう」


伝説上の聖女さま。


現れる周期から考えて、私の代で聖女さまは現れるはず。


私はずっと、聖女さまの存在に憧れていた。


聖女さまと結婚するのだと、ずっと信じていた。


でも実際には、ある程度の年齢になると婚約者という枷を嵌められることになった。











彼女は歴史の旧い、金もある公爵家の娘だった。


国で一番の美女で、彼女が婚約者とは羨ましいとよく言われていた。


美しいだけでなく優秀で、私をよく支えてくれる優しい人でもあった。


でも私は、聖女さまと結婚したかった。


彼女の存在そのものが、疎ましかった。


「マリア様と婚約できるなんて、本当に第一王子殿下が羨ましい」


「マリア様はまさに高嶺の花だ」


そうだろう。


彼女は本当に、非の打ち所がない女性だ。


だが、私は彼女を愛せない。


まだ見ぬ聖女さまを愛しているから。


でも、彼女には何の瑕疵もない。


私はきっと、悪い男なのだろう。


「…ああ、お優しいマリア様」


「取るに足らない存在である私たちにまで、慈愛を下さるマリア様」


彼女は、本当に優しい人だ。


助けを求める者に、際限なく救いの手を差し伸べていた。


私などには勿体ない、優しい人。


優しいだけの人。


私はやはり、彼女を愛せない。


「なに?聖女が現れた!?」


彼女を愛せないままの私の前に、ついに聖女さまが現れた。


国の伝説。


千年に一度、神に力を与えられた姫が現れる。


その代の国はとても栄えるだろう。


聖女が現れてから、国内は治安も良くなり農作物も良く育った。


聖女は、間違いなく私の求めていた聖女さまだ。


伝説には王子が聖女と結婚しなければいけないなんて文言はない。


だが、私は聖女さまを選んだ。


国のさらなる飛躍のためにと嘯き、彼女との婚約を破棄して聖女さまと結婚した。


聖女さまは、嬉しそうに微笑んでいた。


「聖女さま、私は貴女と結婚できて幸せだ」


「私も王子様と結婚できて幸せです!」


私は彼女を捨てた。


すると人々は、彼女を見捨てた。


彼女の落ちぶれた様子に、私はなぜか安堵した。


いや、何故かなんてわかってる。


私は嫉妬していたのだ。


美しく、優秀な彼女に。


「…なに?マリアがあの国の皇帝に差し出された!?」


「は、はい!間違いありません!」


「なんでっ…」


彼女は家の恥としてしばらく自室に監禁されていたと噂だった。


それに良くない優越感のようなものを感じていた。


安堵して、優越感に浸って、だから罰が当たったのかもしれない。


彼女は大国である皇国の皇帝に皇后として見初められたらしい。


それも、神のお告げによって。















我が国と皇国は地理は離れていたが、パワーバランスは今のところ皇国の方が強い。


そんな皇国の皇帝からの嫁を差し出せとの言葉に、彼女の両親は二つ返事で彼女を差し出したらしい。


「結婚式と披露宴は明日だそうですね。私たちも行かなければならないそうです。面倒ですね、王子様」


「…どうして」


どうして彼女は、いつもいつも私より幸せになる。


そう落ち込む私に、聖女さまは優しく囁いた。


「王子様大丈夫です」


「聖女さま…」


「どうせ彼女は神のお告げで娶られるだけ。きっと冷遇されますよ。嘲笑しに行きましょう」


「そう…そうだな」


本当にそうだろうか。


そうだとしたら嬉しい。


だって彼女は、私が「捨てた」女なのだから。


私より幸せになってはいけないのだ。


きっとそうなると自分に言い聞かせ、その日は無理やり眠った。


次の日の結婚式は、それはもう豪華な物だった。


その後の披露宴なんてさらに華やかだった。


彼女は国中の人々に歓迎されていて、国外から招待された様々な人々からも祝福されていた。


特に皇帝陛下は、人々の前で自慢の嫁だと惚気ていた。


どうしてこうなる。


なんで彼女は幸せになる。


歯噛みしている私に、彼女は気づいたらしく目が合った。


彼女はわざとらしく皇帝陛下に甘えて、皇帝陛下はそんな彼女を甘やかしてまさに溺愛していた。


ムカつく。


ムカつく、ムカつく、ムカつく。


それでも、なにもできることはなかった、















「…彼女は、幸せそうだったな」


「はい、ムカつきますね。第一王子殿下に捨てられた女のくせに」


むすっとした聖女に、少し違和感を覚える。


そうだ、聖女は彼女をなぜか目の敵にしている。


私のように昔からの不満の蓄積があるわけでも、嫉妬の蓄積があるわけでもないはずなのに。


「なあ、聖女さまは彼女の何が気に入らないんだ?」


「え?もちろん、聖女である私より色々なものを持っていることです」


「そ、そうか…」


「私は元いた世界から拉致されて、この世界に来たようなものです。であればせめて、世界で一番幸せにならなくちゃ」


「それは…そうだな…」


…聖女は異世界から転移してきたらしい。


そして国を栄えさせる力を与えられたのだとか。


聖女は孤児院の出身で、家族や友人はいなかったそうだが…それでも拉致されて来たなら確かに世界で一番幸せになるべき…かもしれない。


だがこの聖女は私の憧れていた聖女さまとは違うかもしれない。


むしろ、私の憧れていた聖女さまは…内面的には彼女の方がよほど近い…ような。


「まあいいや。さっさと国に帰って贅沢して、気分転換しましょう?」


「そ、そうだな」


「あ、そうだ!国も私のおかげで栄えてるんだし、せっかくならもっとイケメンの騎士さまとか側に侍らせたいなぁ」


「え」


「だめ?」


…だめとは言えない。


彼女が望むのであれば。


彼女が国を離れれば、国は間違いなく衰退する。


それが、聖女という存在だ。


「…わかった、イケメンの騎士さまだな」


「はい!」


「用意しておく」


「やったぁ!」


目の前にいる聖女は。


今の私には、毒婦にしか見えない。


私は、どこで間違えた?


ふと、脳裏に彼女の笑顔が浮かぶ。


『第一王子殿下、ありがとうございます』


彼女の誕生日。


アクセサリーなんてありきたりなものを贈っただけで、すごく嬉しそうだった彼女。


ああ、そうだ。


最初から間違えていたんだ。











聖女と結婚して五年。


聖女は子供を産んだ。


聖女が産んだ子供は…私の子供ではなく、側に侍らせていた騎士の子供だった。


国は確かに栄えた。


だが、この問題が起こった今内部分裂しそうになっている。


聖女派と、第一王子派で争っているのだ。


全ては私の犯した罪の罰なのだろう。


本当に愛するべきだった相手を蔑ろにした、その結末。


「父上、母上」


「なんですか、わたくしの愚かな子」


「結論が出たのか」


「ええ、王太子には第二王子である弟を指名してください。私が王にならないなら、これ以上の国内の内部分裂も防げます」


「……それしかないわな」


父は悲しそうに呟く。


母はよく決断しましたと言ってくれた。


そして、その日。


急なことだが国内の貴族を集め、その場で弟が王太子となった。


聖女は発狂したが、取り押さえられ離宮に押し込められた。


聖女は居るだけで国に加護が与えられる。


居るだけでいいのだ。


だから、離宮に監禁した。


彼女の産んだ息子は、父親である騎士に返した。


騎士はそのまま、離宮の護衛…という名の監視に回した。


その騎士にも監視をつけた。


監視の監視というのも、変ではあるが。


ということで、国の混乱はギリギリのところで防げた。


国はこれからも栄え続けるだろう。


王太子となった弟も、優秀だし婚約者と仲がいいので問題なく上手くやってくれるはずだ。


だが、聖女はこれから先地獄の日々だろう。


それを監視する騎士にとっても、おそらく地獄の日々だ。


彼らの息子は…幸せになって欲しいがどうなるか。


そして私。


私にとっても、これから地獄の日々が待っている。


私はこれから、断種され教会に入る。


出家して、俗世との関わりを断つのだ。


彼女…元婚約者にした仕打ちを考えれば生温い罰だが、温室育ちだと自覚すらある私には教会内の派閥争いに巻き込まれるのはかなりキツイだろう。


それでも、王位継承権を返上して教会に入るしかない。


国内に不和の種を蒔いた責任は取らねばならぬのだ。


「…ああ」


こんなことなら、聖女への憧れなんて早いうちに捨てていればよかった。


こんなことなら、彼女への嫉妬や不満なんて早いうちに捨てていればよかった。


全部、自業自得だ。

ここまでお付き合い頂きありがとうございました!


楽しんでいただけていれば幸いです!


国が破滅することはありませんでしたが、身勝手な振る舞いの報いは受けてしまいましたね。


彼女の元家族も、派閥争いに巻き込まれてそれなりに痛い目はみたことでしょうね。


彼女は自分を捨てた全てを忘れて、彼と幸せに生きて欲しいですね。


ここからは宣伝になりますが、


『悪役令嬢として捨てられる予定ですが、それまで人生楽しみます!』


というお話が電子書籍として発売されています。


よろしければご覧ください!

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― 新着の感想 ―
王子妃としては初子が浮気相手は論理感がマズい
他者が自分より優れているのを羨むのはいいですが(嫉妬は向上心の種でもあるので)、それで自分を鍛えるのではなく、己の別の強みを探して高めるのでもなく、貶めようとするのは品性が卑しいですね。「他人の足を引…
天涯孤独の有象無象の一匹が居なくなった所で元々の世界から見ても大した損失にならないから神に選ばれたのだろうに、被害者面して他者を不幸にしても当然の権利と主張するのは欲望まみれの犯罪者思考でしかない。 …
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