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桶屋の罪状  作者: SBT-moya
21/25

「カール・ギブソンがシュートを止めると、日本は国際社会から一歩遠のく。」14


日本時間20:35

ピィ事案対策本部、課長室


個室に急遽、テレビモニターとビデオプレイヤーが搬入された。

課長室に元院、庄司、榊、湊が集まった。


庄司がビデオプレイヤーの電源を入れた。

「VHS……ですか?」


「うむ。正直に言おう。私はフットボールが好きだ。中でもJリーグの『鹿島 フーターズ』を応援してます。」


「……それが何か?」


「君たちが捜査をしている間、私はサッカー中継を見ていた」


……庄司と湊がため息をついた。


「これが今日の、『鹿島フーターズ 対 川崎ブルーイーグルス、J-1第20節』の試合だ。試合は滞りなく14:00にキックオフした。

 ……前半の終盤まで飛ばそう。

 前半40分だ」


つまり、14時40分、ここにいる全員の刑事がその時間に聞き覚えがあった。


「彼に注目してくれ。彼は鹿島フーターズのベテランゴールキーパー、カール・ギブソン選手だ」


カール・ギブソン?誰だっけ?庄司はその名前になんだか聞き覚えがあった。

動画は、前半40分から再生された。


川崎ブルーイーグルスの選手が、相手ディフェンダーを左サイドから抜き去り、カール・ギブソンと1対1になった。

ブルーイーグルスの選手が左足でシュートを放つ。ボールの軌道はゴールポストの右下を捉えていたが、カール・ギブソンはシュートに反応し、がっしりと、両手で受け止めた。

元院は動画を一時停止した。


「どうかね」


「……『どうかね』と言われましても……?」


「それと、今晩、ミスタ・カルロス選手主催のチャリティーマッチが開催された。しかしアクシデントが起こった。

 カルロス選手のチームのゴールキーパーが全員コロナに感染してしまったのだ。そこで……急遽、代打を名乗り上げ1日に2度も試合をすることになった選手がいる。それが……」


「カール・ギブソン選手ですか」


ここにきて庄司はカール・ギブソンのことを思い出した。


「左様。カール・ギブソン選手。32歳。アメリカ、インディアナ州出身。身長190センチ。5年にわたり、鹿島フーターズの守護神を務めている。

 それはともかく、デイゲームで試合をしていた選手が、ナイトゲームのチャリティーイベントに出場するということは異例中の異例だそうだ。

 相当なタフ・ガイだな」


「その……夜の試合で、彼が何かした……という事ですか?」


榊が言葉を選んで喋った。


「……『代打スーパーキャッチ』か……。確か、19:15分ごろでしたっけ」


「え、庄司も試合を観戦してたの?」


「あー違います。アレックスと話してる時、ニュース速報で飛んできたんです」


「19時15分……僕と湊君が里崎と接触した時間帯に一致する……と思います」


「え……っと? それで?

 ……なんですか? カールギブソンが、ボールをキャッチすることが、発生トリガーである、と。課長はそうおっしゃるわけですか?」


「納得しかねるかね。庄司君。」


「はっきり言ってしかねますね。サッカーのゴールキーパーと、日米の脳梗塞では因果関係が全くない。」


「……そんなことを言ってるのは君だけで、本当は『全員知っていた』のかもしれんぞ?」


「どういうことですか……」


「根拠として、事案の発生率が高いのは、平日夜と、休日昼だ。通常、フットボールの試合はこの時間帯に行われる」


「だからって……いやあ、納得いきません。根拠が弱すぎます」


「じゃあ民主主義で行こう。私は、『カールギブソンがシュートをキャッチしたら、事案が発生する』説を推す。

 従って、今より特事法を用いてスタジアムをおさえ、鹿島フーターズ、そして何処か適当なチームを招集し、現場にて実地試験を行う。異論があるもの挙手。」


庄司は手を挙げた。榊と湊は、迷っているそぶりは見えるも、押し黙ったまま動かなかった。


「おい! 考えろ!? これが最後のチャンスだぞ!? これを外したら明日には、日本は大変なことになるんだぞ?! それをわかってて、おい!

 それをわかってて、サッカー説なんかに賭けるのか!?」


「庄司。……僕も、元院さんと同意見だ」


「いやサカさん!? 思い出してくださいよ? そうやって俺ら何回間違えました!? この件だけで!」


「因子は……当たってました」


そう答える湊も、悔しさを滲ませる表情を浮かべている。


「湊も……サッカー説に賭けるんだな?」


湊は口の形を一文字にしながら、うなずいた。


「……(ため息。)いいっすよじゃあ、民主主義っすね」


「いや、あと一人賛成しないと民主主義は成立しない。庄司君。君だ」


「はい?」


「民主主義の究極は多数決ではない。満場一致だ。君が先ほど言った通り、この決断には大きな責任が伴う。多数決で決議できることではない」


「無茶言わないでくださいよ・・・。俺にはできません。俺たちの犠牲が、俺たちの苦悩が、サッカーの試合に左右されてたなんて、思いたくありません」


「思い出せ庄司君。・・・桶屋が儲かった原因は、なんだ?政府が裏金を回したからか?・・・まあそうかもしれん。

 我々には見えない力が働いたからか?・・・そうかもしれん。

 だが、一般的には『風が吹いたから』だ。

 ……君にも思うところはあるだろう。君の決心が着くまで、我々3人、このまま待つとしようではないか。それが究極の民主主義だ」


「…… ……」


庄司の心がまとまるまで、実に5分を費やした。5分。コーヒーを沸かして淹れる時間が、永遠に感じた。

外は、雨の音と、内装工事の音がリピートされている。

5分。心臓が300回から500回動く時間。庄司の心は、右と左を彷徨っていた。

5分。新宿駅から車で中野駅に行ける時間、庄司はこれまでの総括を行い、ギリギリ保っている理性で何が正しい判断か考えた。

そして、5分、庄司は結論を出した。


「……ごめんなさい。自分には、決められません」



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