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桶屋の罪状  作者: SBT-moya
15/25

「カール・ギブソンがシュートを止めると、日本は国際社会から一歩遠のく。」10



小峰は捜査に残ることを希望したが、庄司がそれを許さず、

病院に緊急搬送された。


庄司は湊に、事象発生時の里崎の脳波を測定させたが、異常が見当たらなく、事象の発生と里崎の脳波との間に因果関係は無いと言う結論に至った。


里崎は新宿区の警視庁管轄施設に送られることが決定した。

ご両親には、まさかCIAが息子の命を狙っているとは言えないので、表向きは「学校に通えない現状を考慮して学校側から特別補修を受けさせる。」と言う名目だ。

3食食事付き。施設内のジムも使いたい放題で料金は全部こちらで持つ。

しかも体力テストに合格したら、野球選手のスカウトは呼んでやれないが、警察官としてなら推薦すると言う条件だ。これで首を横にふる家庭はそうそう居ないだろう。


葛原が確保した白人男性は、葛西臨海公園まで偽装ワゴンで運び、そこで解放した。


「里崎の居場所は教えねえけどな、……東京だとは言っておくよ。その場合どうなるね。アメリカから爆撃機でも出撃させるかい?」


「白兵戦だけがSOGのやり方じゃなかとよ。今回の事でおまん等が信頼に値しないことがはっきりした。邪魔するなら、おまん等は『敵』じゃ。

 よう調べもせんで、部下を一人犠牲にした。おまんは無能の極みじゃ」


「……返す言葉もないね。……なあ、武士の情けでこの無能に一つ教えちゃくれねえか? ……どうやって事案の発生時間まで調べられたんだ? omnisじゃそこまで出来るとは思えんのだ」


「『敵』にゃなあんも教えね」


「冷たいなあ」


「…… ……平日の夜に気ぃつけや」


「ん?」


「あっちゃ。口が滑ったじゃ。わしゃ川上憲伸が好きじゃけえ。『敵に塩を送る』ってやつじゃ」


……間違えてるな。

庄司はなんだかこの白人男性が憎めなかった。


「じゃあここでお別れだな。……俺は庄司。警視庁の庄司だ」


「……さよか。わしゃ名乗らんど。どうせもう会うことも話すこともなか。…… ……どうしても呼びたきゃ、アレックスと呼び」


「そうか。じゃあなアレックス。お手柔らかに頼むぜ」


「気ぃつけなはれや。SOGは世界中の誰一人見逃さんぜよ」


一方、新宿区ピィ事案対策課地下のomnisルーム。


湊はまたもや敗北感に苛まれていた。omnisは確かに、世界中の人間の個人情報を詳細まで好きなタイミングで検索できる。

しかし、今回の事案に限っては、発生時刻までは調べようがないはずなのだ。

そして、それを調べようとする努力すら、最初から放棄していた自分が悔しかった。

・・・結果、仲間の一人から英語を奪ってしまう結果となった。

湊は自分を責めた。何がNAIL所持者だ。肝心な時に役に立たない。土人は、私の方だ・・・。


冷たい地下室に無線の音が響いた。


「ピィマルヒトからomnis」


「omnisです。どうぞ。」


「新情報あり。関係者の話では事案の発生時間は平日の夜に集中しているとの言あり。よって事案は平日の夜と休日の昼に発生していると思慮される。どうぞ」


「……了解。」


「…… ……おい。ヘコんでんなよ。今回は俺の責任なんだから」


「ヘコんでませんし、私の責任です。手柄の横取りはやめてください」


「手柄ってお前……。とにかく、平日の夜と、休日の昼になんかあるってことだ。ここからがお前の仕事だぞ。

 俺の尻拭いをさせるようで心苦しいが、へこんでるなら、指で数でも数えてみろ。落ち着くから。

 ……湊、お前が頼りだ。……omnisじゃなくてな。」


「……そういうセリフも、やめてください」


「あ、……そ。じゃ、オーバー」


無線が切れる。


「(深いため息)……じゃあさっさと埼玉から帰ってきてくださいよ。…… ……Hello omnis」


『System Working …… …… Hello MINATO』


趣味と呼べる趣味がない湊にとって、平日夜と休日昼の世界観は常人とは多少異なっていた。

一般人はこの時間帯に何をしているのか、湊には想像もつかなかった。


「omnis、平日夜と、土日祝日昼に行われているイベントを検索」


『全世界で5000件以上該当。詳細情報を提示しますか?』


……そりゃあそうだろう。わかってはいたが湊は頭を抱えた。平日夜と休日昼。

要は、一般人の自由時間なのだから、何をしていようが自由なのだ。

この時間帯に行われているイベントを調べているのでは手詰まりだ。


ビルの改装工事は、一階の電気工事に入ったらしい。最近まで静かだった湊の聖域に雑音が響き、湊をイラつかせた。

……音?


そうだ。まだ調べられることがある。音だ。

葛原と小峰からの情報では、共通して耳鳴りのような音が響いたと言う。その音さえ解析できれば、発生条件なんてわからなくても対処につながるのではないだろうか?


「omnis この動画をインストール」


『OK MINATO』


湊は、元院に渡された高校野球地区大会の試合の動画をomnisに読み込ませた。


そして、球審が英語を発せられなくなるシーンの音声をomnisに解析させ、波形をグラフ化させた。


確かに一部、15k Hzを不自然に計測している箇所がある。


それはいわゆるモスキート音と呼ばれているもので、人間の大人の耳にはほとんど聞き取れない周波数だ。


「これだ……! omnis当該周波数の音を解析」


音の正体が音波兵器なのかはわからないが、超常現象ではないのなら手の打ちようはある。

湊の目に、再び闘志が灯った。

Omnisが音の解析を90%完了させた直後である。


突然、Omnisのシステムが落ちた。


停電? ……いやそれはあり得ない。この部屋はCPU無停電装置が動作しており、停電したら予備電力に切り替わるシステムになっている。

アラートもなしにシステムがシャットダウンするなど、omnisにはあり得ない。

……ハッキングでもされない限り。


「Hello omnis……」


Omnisは反応しない。もしくは起動に時間がかかっている。湊はシステムボックスを手動で開き、システムエラーの原因を探った。


「…… ……NAIL所持者からomnis3にオーダー? ……5000万件……」


つまり外部から、複数のNAIL所持者が同時アクセスし、以上に大量なデータリクエストを実行して容量をパンクさせている、言わばomnis版D DOS攻撃だ。

違うのは、omnisにアクセスできるのはNAILの資格を持つ人間だけと言うことだ。


「……CIAか。」


これが向こうのやり方か。ここまでする必要があるのか?

お前たちは邪魔だから何もするな、と言われているようなものじゃないか。

……結局私はいつもこうだ。肝心な時に役に立たない。omnisが使えないと何もできない、貧弱で、病弱な、偏頭痛持ちで、泣き虫な、無能だ。


しかし、悔しいかな、もどかしいかな、こんな瞬間に浮かんだのは庄司の言葉だった。

『お前が頼りだ。omnisじゃなくてな』


そんなわけがないじゃないか。湊の涙腺はついに崩壊した。そして、目頭の熱さが己に訴えかける。

泣いてる場合じゃない。それはプロのすることじゃない。CIAに全部任せてしまえば、最悪な事態は避けられるのかもしれない。

すなわち、里崎少年を排除してしまうことが。

しかし、そんなことを許してしまっては、今まで日本警察が積み上げてきた秩序が崩れてしまう。


 湊は何ができるか考えた。嗚咽を堪えて、呼吸を整えた。

そして素直に、庄司からの助言を実行してみることにした。


ゆっくり、1から10を数える。手の震えが収まった。

また、1から10を数える。涙が止まった。

1から10を数える。視界がクリアになった。

そして40カウントで、湊は解決策を打ち立てた。


「負荷のかかる作業ができない……。

 負荷のかからない作業なら、できるかな」




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