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異世界占い師・ミシェルのよもやま話  作者: Moonshine
ここは獣人の国
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「ジュージン? 何それ」


カロンはニコニコと、実家の侯爵家からのお土産だという高級そうなチョコレートを出してくれた。


久しぶりに成人の挨拶を兼ねて実家に帰ったばかりだというのに、「ああいう場所は気を遣って苦手なんだ」と早々に折角自分のために催されたパーティーを引き払って帰ってきたらしい。

確かに、カロンのような恥ずかしがり屋にはキラキラした場所などは辛いだろうが、それでいいんだろうか。


せっかくだしと、表面に美しい細工が彫られている美しいチョコレートを、ミシェルが目をキラキラさせてひとつまみ頂こうとしたら、横からお馴染みの少し反った指の美しい手が出てきてひょい、とチョコレートを横取りされてしまう。


誰が犯人など、もう振り返る事もなくわかる。


「獣人だ、獣人。獣の特性を強く残した人間だ。私の師匠も蛇の獣人だったのはお前も覚えているだろう」


ダンテがすましてチョコレートをもぐもぐとさせながら、偉そうに答えた。


「しょうがないなあダンテ様、普通におっしゃってくださったら、後ろにたくさんまだチョコレートはあるのに、わざわざミシェルのお皿から横取りしたいんですね」


とカロンは呆れ顔だ。


「獣人の国は、アケロン川の向こうの国境を超えたところ、すぐにある」


ダンテはそう言って、壁に貼ってある、ディーテ王国の地図を指さした。


「ディーテ王国と獣人の国は友好関係にあるからな。次世代の大神官の成人ともなると、本来なら向こうの国の大神官が祝いの挨拶の使者として使節団を寄越すべきなのだが、あちらの大神官のベルギリウスの奥方の出産が近いらしくてな。ベルギリウス様は豹の獣人で、番いを大切にする習性がある。豹の獣人の習わしに敬意を払い、今回はカロンの方が足を運ぶ。もちろん私も同行する」


「え、番いって、奥さんとか旦那さんの事よね。いいわね、獣人の国は夫婦の絆の強い国なのね!」


恋愛脳の持ち主・ミシェルはパッッと顔を輝かせる。奥さんの出産の方が国家の外交よりも大切だなんて、そんな愛され方してみたいもんだ。


ダンテとカロンは顔を見合わせて苦笑いだ。


「ああ、獣人の種類によるがな。蛇のやトカゲの獣人は番いを持たないし、子育てもしない。その逆に、獅子の獣人や豹の獣人は非常に番いへの執着が強い。竜族などは、番いが見つかったら3年は番いを外にも出さない事で有名だ」


なんだか昔話の、竜神に見染められた村娘の話みたいじゃないか。


うっとりと美しい竜神の若者にさらわれた娘の昔話を思い出してミシェルはニヤニヤが止まらない。

そんなミシェルの隙をついて、ミシェルの皿からまたダンテはチョコレートをさっさと口に放り込む。


(くそう)


ここで反応したらダンテの思う壺なので、ミシェルはなるべくダンテの相手をしないように涼しげにカロンと会話を続ける。


「それでカロン、あなたは獣人の国にまで足を伸ばして成人の挨拶に行かなくちゃいけないなんて、なかなか大変なのね。私が成人した時は、綺麗な民族衣装を着て同級生と集まったくらいよ」


今度はまたダンテがチョコレートの皿に伸ばしてきた腕をピシャ!と叩きながら、ミシェルは元の世界の成人式で着た振袖の絵を描いてあげた。


「へえ、綺麗だね!」


カロンは成人したので、今までおろしていた前髪を、成人男性の前髪を後ろに流すスタイルに変えた。

前髪ひとつの事なのだが、グッと大人らしく見えてすっかり麗しい青年の姿だ。


こうしてカロンの形の良い額を不躾に眺めてみると、「人間の品性は、その人間の額にあらわられるものよ」といつも正しいおばさんの言っていた世迷言が、どこからか聞こえてくる気がする。


そんなおばさんの言葉がなんとなく納得ができるほどには、カロンの額は実に品の良い額の形をしている。


人間の額の形などに興味を持ったことはないのだが、マジマジとカロンの額を眺めて、カロンにそんなに見ないでよ、照れるな、と赤くなって恥ずかしがられてしまった。やっぱり成人してもカロンはかわゆい。


「ともかく、そういうわけで我々は明日からしばらくこの家を留守にする」


と、言いたいところだが。とダンテはふー、と息を吐くと、


「お前を一人にしとくと危なっかしくてかなわん。大人しくしてると約束するのであれば、お前を獣人の国に連れて行ってやらんでもない」


そう、実に意外な事を提案するではないか。


「え!!旅行に連れて行ってくれるってこと?しかも外国???」


「ああ、まあそういう事になるな。お前にはまだどこにも遊びに連れて行ってやってないし、いい機会だろう」


そうちょっと窓の外を見た。


「だが行っておくが、これは仕事の旅行で行くのであって、遊びに行くのではない。お前は一応カロンの世話役という名目で連れて行ってやるから・・おい、こら、話は終わっていない、おい!待てミシェル!」


ミシェルはありがとう!ダンテ!と一言告げると猛スピードでチョコレートの皿をダンテに押し付けて、自分の部屋に駆け込んで、明日から獣人の国に持っていく為の洋服だの下着類だのを選び出した。


国家事案よりも番いの出産の方を大切にするメンズ達の生息するような夢の国。


ミシェルはニヤリと笑う。


そんな男達に、愛されてみたいじゃないか。


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