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異世界占い師・ミシェルのよもやま話  作者: Moonshine
現状維持は、基本腐る
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「いや、ミシェルさん本当にありがとうございます。私は退職することばかり考えていましたが、今はやる気が心身ともに漲ってきました。次の鍋の祭典は、仮想敵国からの急襲を想定して部下に鉄壁の守りを作らせてみます。私は単騎で美しい聖女様の誘拐を試みる、不埒ものの役になってみましょう」


イカロスは悪い顔をして、ミシェルに握手を求めた。実に楽しそうだ。

悪役は本当に楽しいものだ。頭の中には色々な作戦が飛び交っている様子。


いきなりイケ爺さんになって帰ってきた夫を、奥さんも大喜びするだろう。


最初にミシェルの離れにやってきた時は、どっこいしょ、とメイドの女のこの手を借りないと椅子にすら腰掛けるのもおぼつかないような爺さんっぷりだというのに。

そうと決めるとこのイカロス様ときたら、マントのはためきも凛々しい、聖女の誘拐を企む不埒な悪い男に変わるのだから、人間は楽しい生き物だ。


イカロスの後ろの光がどんどん大きくなってくる。

もちろんメイドの女の子の手も借りずにすっくと椅子から立ち上がると、堂々とした足取りでミシェルの離れをでた。


「鍋の祭典には是非ミシェルさんもきてください。私の育てた部下の鉄壁の守りを、私単騎で崩せるか、みていてください」


早く聖女様に許可を取らないと、とウキウキの爺さんだ。


聖女様はきっとノリノリで、イカロスに誘拐されるかもしれないという役を引き受けてくれるだろう。あのお方はそういうお方だ。

人間の人生にはスリルとチャレンジと、それから遊び心がが大切だ。たとえそれが、神様のお迎えが近そうな爺さんでも、だ。


外から、馬のいななきが聞こえる。イカロスを迎えにきた馬車が、門まで到着した様子だ。


「父上! ご用はお済みですか」


馬車の中から男の声がする。イカロスは馬車に向かって大声で話しかける。


「ああ息子よ、忙しくなるぞ。お前らを1から鍛え直さなくては到底間に合わん。わしとお前らの5人で聖女様を誘拐する!急げ、作戦を立てるぞ!」


「何?をおっしゃって?あ、父上、そんなに走るとまた膝が痛みますよ!」


馬車の中から息子たちだろうか。複数の混乱の声が聞こえる。

まあそうだな、聖女の誘拐なんぞ口走る爺さんなんか、気でも違ったかと思うだろう。


「人を年寄り扱いするな、急げ!馬を出せ!ああミシェルさん、ありがとう!鍋の祭典には、必ずきてください!」


大急ぎで足をもつれそうに馬車に入るイカロスの後ろ姿を見送ると、入れ替わりに馬車から一人、若い男が降りてきて、挨拶をしてくれた。


「ミシェルさんとおっしゃいましたね、今日は父の話し相手になってくださってありがとうございました。あんなに元気な父を見るのはもう20年ぶりくらいだ」


嬉しそうな男が、満面の笑みを浮かべてミシェルに握手を求めて声をかけてきた。


「あ、はい!お父様とお話しさせていただきました!あの、ミシェルと申します!」


ミシェルの反射神経は、的確に横の角度45度から長い黒髪をブワッさとしながら、笑顔をこの若い男にむけていた。このポーズで区のミスコンの準グランプリに選ばれた、縁起のええやつだ。


(爺さんに気に入られてから息子を紹介してもらうケースか!!先輩、私もやっとルートに入りました!)


ミシェルの心の中で、「おめでとう」のくす玉がパッカーん!と割れる。

お見合いでイケメン医者と結婚した先輩は、受付をしていた会社の訪問客の会社の会長さんに気にいられて、孫の医者との見合いをセットしてもらったと言っていた。


映像で見た50年前のイカロスの若かりし頃にそっくりの、麗しいイケメンが、口々に走り去る馬車からミシェルに声を上げる。


「ミシェルさん! では鍋の祭典で!」


「またお会いできる事を楽しみにしています!」


「では祭典で!」


そして大事な事を、ミシェルは思い出す。


(鍋・・そういえば、何個かぶらなきゃいけないんだっけ)


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