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異世界占い師・ミシェルのよもやま話  作者: Moonshine
創造するって事は
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13

そうこうしている内に、一緒にスープを楽しんでいた、カロンの神殿からのおつきの人たちもスープを飲み干して団子をあけてみて、お互いの小物を確かめて、離れた所から聞こえる会話がとても楽しそうだ。


「あ、今年は笛だ!」


「笛ならきっといい知らせがくるのね、私のはウサギだわ!やっとモテキがくるのね!やった!」


「いいな!私のはスプーンよ。食べ物に困らなさそうだけど、ウサギの方がよかったな!」


きゃっきゃと楽しそうだ。

そうこうしている内に、ミシェルも熱い熱いとふうふういいながら、おいしいスープを飲み干して、ようやく団子にたどりつく。


もちもちした団子を、ドキドキしながら不格好に割ってみる。


「可愛い!!これめっちゃ可愛い!!嬉しい!所でこれ、どういう意味!!」


ミシェルの団子の中にあったのは、めちゃくちゃかわいい小さな小鳥。

体は水色の彩色がされていて、このままブローチにしたいくらいの可愛さだ。


「ああ、鳥のくちばしに赤い実があるだろう、なにか、お前にとっていい事が運ばれてくるという象徴だ」


良い事が何かはよくわからないが、実際この小鳥の小物が激カワだったので、ミシェルのご機嫌が大変よくなったあたり、結構当たるものなのかもしれない。


「で、ダンテは? ダンテは何だった?」


うるさいな、ちょっとまってろと、無駄に優雅に団子をつまむその姿は、腹が立つくらい美しい。

おもわず見惚れていると、ダンテが「お」といそいそと割った団子の中身をつまみあげた。


「人魚だ」


「人魚?」


そこには小さな美しい人魚の陶器が、ダンテの手の中にあった。


「きれいね。で、これは一体どういう意味なの?」


ダンテは、うーん。と考えると、


「これは解釈が割れるな。人魚は空想上の生き物だから、存在しない。だから、存在しないような存在が手にはいる、という意味にも解釈できるし、存在しないものだからそんなものは手に入らない、とも解釈はできる。まあ、受け取り手次第のものだが、珍しいな」


おみくじの小吉、みたいなもんだろうか。この世界には蛇女が普通にいるのに、人魚はいないらしい。それはさておいて、ダンテがご機嫌なあたり、人魚は結構なレアアイテムらしい。


「で、カロンは?カロンはなに?」


ダンテの人魚はやはりレアアイテムだったらしく、周りの人々が珍しそうに、ダンテの周りに人魚を見にわらわらと集まってくる。

がやがやしてきたダンテの傍をはなれて、一人でニンマリと手元を眺めているカロンに近づいた。


「いいものだよ」


そうしてカロンが大切そうに手のひらの中に入っているものを見せてくれた。

手のひらの中にあったものは、赤いハートの形の陶器。これもかわいい。


「あら!これもとってもかわいいじゃない。いい意味なの?」


カロンは意味深な笑顔を浮かべて、言った。


「うん。とてもいい意味だよ。私の新年の願いは、どうやら叶いそうだ」


「ああ、そっか。飛び込む時に何かお願いしたのよね。カロンは何をお願いしたの?」


ミシェルはちなみに、なんもお願いしていない。

だって神も仏も、あんまりミシェルの事は好きではなさそうなんだもの。


「ミシェル、願いは誰にもいってはいけないんだよ。願いは神様と、君だけの間の秘密だ」


そしてふいに、真剣な顔をして、ミシェルの手にこの小さな赤い陶器を握らせた。


「ミシェル、これを君にあげる。受け取ってくれる?」


「いいの? こんな可愛いの」


「うん。君にもらってほしいんだ」


「そう? くれるっていうなら貰うけど」


可愛いのが出たらミシェルにあげると最初から言っていたので、特になにも思わなかったが、


「ミシェル」


カロンは随分真剣な顔をしている。

いつもの可愛いカロンの顔ではない。成人した大人の男性の真剣な顔だ。


「言葉にして、私に何が欲しいのか、言ってくれないか?」


急に真剣な顔をして、大人の表情でそんな事を言い出すものだから、ミシェルはちょっとドキドキしてしまったのだが、お願い自体はどうという事はない。


「え?これが欲しいっていう事を言えばいいって事?」


カロンは言葉もなく頷いた。


「えっといいわよ。カロン、このハートの小物をミシェルに頂戴」


するとぱああ!とばかりにカロンは見た事もないような大きな笑顔をみせて、うん、といってきゅ、とミシェルの手の平に、ハートの小さな陶器をにぎらせてくれた。


(一体なんだったんだろう)


随分ご機嫌でカロンはミシェルの元を離れた。

この後にもいくつも行事があるそうで、実家の侯爵家にも成人の挨拶にいかなくちゃだとかで、カロンは中々大変そうだ。


「いやー、ダンテ様は今年はよい事がありそうですね、こんな珍しいものが年明けから神より与えられるとは」


上機嫌な神官が親しげにダンテに話かけていた。

ダンテの周りはまだガヤガヤと、いろんな人が人魚の小物の話で盛り上がっている様子だ。


「いや、人魚ですからね。珍しいですが良い事かどうかは。どこに生息しているかもわからない空想上の生き物ですから」


ダンテはそう言って苦笑いをすると、遠くの海を見つめながらため息をついていた。


(どうせ、ベアトリーチェ様の事を考えてるのでしょ)


ミシェルはなんとなく泣きたくなった。

ダンテは今のこの楽しい時間も、この世に存在しない存在に心を向けている。

正月くらいベアトリーチェ様の事を忘れて、この世に存在する、目の前の私と楽しい気持ちでいよう。


私を見て。


白い服を着ている楽しい人々に囲まれているダンテは、一人だけ黒いローブを纏って、心は遠くの世界に揺蕩っている。ダンテはまるで、白い羊の群れの中にいる黒い羊みたいだ。


「みちちゃん、行動する前に考えましょうね」


いつも正しいおばさんの声が頭の中に聞こえた気がする。


(ダンテ)


ミシェルは気がつくと、ダンテの元に走り出していた。遠くを見つめて思いに暮れているダンテの腕をグイッと強い力でつかむと、


「じゃあさ!私と探しに行こうよ!人魚をさ!」


「おい、こら、何を・・」


そのまましっかり戸惑うダンテの腕を組んで、ずんずん天幕の外の崖っぷちまで連れて行った。そして。


「それ!!!」


「おいこら!何をする!気でも狂ったか!おい待て!私は高い所は苦手なんだ!ちょ、ミシェル!」


しっかり腕を組んだまま、ダンテと二人、一緒に真っ逆さまに、崖から、凍てつく冬の海に飛び込んでやった。


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