4
男という生き物は、女の子から頼られる事が好きらしい。
気になる男がいたら、とにかく小さなお願いをしろ、とミスコン常連の先輩はいっていたか。
(ありがとう先輩。先輩の教えは正しいわ)
ミシェルは心の中で先輩に手を合わす。
笑いが止まらない。
目の前の気のよさそうな青年は、ミシェルに頼られた事がとても嬉しかった様子で、ちょっとテンパりながら満足そうに色々と面倒をみてくれた。
「儀式が始まるまで実は結構時間があるんですよ。だから慣れた人はこうやって焚き火を作って、温まっておいてから準備するんです」
「まあ、そうですの。若い人達は儀式をを待たずに、早速飛び込んでますね。いいですね」
ミシェル達のスポットから遠くに、若いティーングルーブのウェイ系の男女が、早速フライング気味に崖から飛び込んでいるのが見える。楽しそうで結構な事だ。
「カロン様が水に入られたらまたちゃんと飛び込むのですが、彼らはどちらかというと儀式よりも水に飛び込むのが楽しみにきているので、こうやって何度でも飛び込んでいるんですよ。」
海際の飛び込みスポットまでこのオルフェウスにエスコートしてもらい、寒がるミシェルに焚き火も作ってもらい、なんと、用意していたらしい携帯のやかんで、イソイソと紅茶まで入れてくれたのだ。ミシェルは至れり尽くせりでいい気分だ。
しかもこのオルフェウス、「あまり人と関わるのが得意でなくて」とちょっと人から離れた場所でゆっくり儀式が始まるのを待つというではないか。色々合格だ。ミシェルのハンターとしての腕が鳴る。
「まあ、それではオルフェウスさんは、ずっと子供の頃から詩を書いていらっしゃるのですね。すごいですね」
世間話をしながら、寒いと言う理由でオルフェウスにそっと腕を密着してみる。
オルフェウスも照れて緊張して顔を赤くしているが、ミシェルを拒否はしていないし、ちらちらミシェルの胸元に視線をバレない様に送っている。これはいける。
「いやあ、そうでもないですよ、これしかできないからずっと書いているだけです」
可愛く照れながらミシェルの話し相手をしてくれているオルフェウス。
ミシェルが聞き出した所によると、どうやらこのオルフェウスは王立アカデミー学院の出身らしく、卒業してからは学院の研究員に就職して現在に至るという、筋金入りの学者らしい。
王立アカデミーはほとんど男子校のごとく女子が少ないとか。
前の世界での国立大学の工学部みたいなもんだろう。
「私、詩は書いたことはないのですが、小説で小さな賞を貰ったことがあるんですよ。ほんの小さな子供の時のことですが」
オルフェウスの腕に密着して、上目遣いにミシェルはそう言った。
そう、ミシェルは子供の頃に絵本を書いて、県の知事賞かなんかを受賞した事があるのだ。
人生で賞をもらった事なんか、それがはじめで終わり。
・・・別に他意はない、男との会話を続けるだけの小さな話題のはずだったのだが。
その言葉を聞いて、オルフェウスは、ミシェルの、こっそり二番目のボタンまで外している谷間などに、もう興味がないかのように頭を抱えて、ガリガリガリ!とばかりに頭を掻きむしりはじめたではないか。
「ミシェルさん!私はその為に、何年もこの海に、新年の穢れを払う神事に来ています!私の詩をどうにか短編小説化したいと、もがき苦しんでもう10年になるでしょうか。なぜ私は詩は書けるのに、小説にできない、ああ、なぜなんだ。神よ、私の祈りが足らないとでも言うのか!」




