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「本当に申し訳ない・・」
「いえ、私も紛らわしい所で紛らわしい事をしておりましたので・・」
二人の女は、ダンテの館の居間で、ペコペコと頭を下げあっている。
女の額のガーゼが痛々しい。ミシェルはもう、穴があったら入りたいほど申し訳ない思いで一杯だ。
「お前は本当に騒がしいしおっちょこちょいだし、下品だし、始末におえん・・行動する前に少しは考える癖をつけろ!人をお前の短慮に巻き込んで、人に怪我をさせたのだぞ!!わかっているのか!!大体そんな恰好で、若い女が古橋まで散歩にいくなど、ありえん!」
ダンテはもう、カンカンだ。こんなに怒っているダンテを見るのははじめてだ。雷が落ちたと思うほどの大迫力だ。
この完璧に整った顔からの怒りは、本当に迫力がある。
「まあまあ、子供達には怪我がなかったので、よかったではないですか、ミシェルも次からは気を付けるよ、ね?」
そう、女の打って青くなった膝にあてる氷の塊を魔術で出しながら、ミシェルを慰めてくれるカロンの優しさは、こういう時は却ってつらい。
「ごめんなさい・・」
本当に、子供に怪我がなくてよかった。
ミシェルは、薄着で橋の上に佇んでいる女と子供を見て、身投げだと、そう一瞬で判断してタックルを食らわせたのだが、なんとこれはまるっきり、ミシェルの勘違いだったのだ。
幸いな事に連れていた子供には怪我はなかったのだが、女はミシェルのタックルを後ろから受けてしまい、前からコケて、額と鼻を擦りむいた。
子供達はびっくりしてしまって少し泣いたが、館であたたかいミルクを飲ませたらすぐに朝のネンネ時間に入った様子で、暖炉の前で二人とも、幸せそうに眠ってくれている。本当によかった。
どう考えてもミシェルが悪いので、ダンテの叱責にも、ミシェルはただひたすら謝るしかない。
「だいたい、身投げをするような人間が、あんな川の浅瀬に渡ってる橋から飛び降りるか!アホか!少しは論理的に考えろ!」
「本当にごめんなさい。あんな所で、薄着で暗い顔して水面みてたから、身投げだと思ってしまったの・・」
ミシェルは心の底から反省だ。
ちょっと考えたら、あの橋の下は河原になっていて、観光シーズンの夏場は、あの橋の下で、子供達が水遊びできるような遊興施設まであった事を覚えている。
それくらい浅瀬の場所に掛けてある橋なのだ。おそらく身投げには向いていない。ちょっと考えたら分かった事だ。
(人をケガさせてしまうなんて、本当におっちょこちょいにも程があるわ)
考える前に行動してしまうのは、本当にミシェルの悪い癖だ。そう自己嫌悪で、ミシェルは吐きそうな最悪な気分でいたのだが。
カロンに手当をしてもらっていた女は、辛そうに、意外な事をつぶやいた。
「そう思われても、私は仕方がなかったと思っているのです」
女は、きゅ、っとスカートを握って、言った。
「身投げはさすがに考えていなかったのですが、もう家に帰りたくないと思って、反射的に上着も着ないで家を飛び出していたんです。人生に途方にくれて川を眺めていた所を、ミシェルさんが見つけて、身投げだと勘違いされたんです。ミシェルさんが勘違いされても仕方がなかったので、どうぞそう、気になさらないでください」




