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秋が深まりをみせてきた。空の青が深くなり、空が高くなるのは、異世界でも同じらしい。
ここディーテ王国の秋は美しい。
なんといっても、紅葉の色が、少し違うのだ。
(紫の木なんて、はじめてみた・・)
秋になると、赤や黄色のおなじみの美しい紅葉も楽しめるのだが、さすが異世界、白い果実をつける木の葉が、紫色に葉の色を変えて、これが非常に美しい。
この紫色の木に実る白い果実は、非常にお上品で高級。
秋の名物らしいのだが、なんか、見かけが昆虫っぽく、ミシェルはまだ食べた事がない。
「桃のようなブドウのような、そんな味がするんだよ」
異世界の女子達のあこがれだというフルーツを、気味悪がってさわりもしないミシェルがおもしろかったのか、カロンはわらって、そう教えてくれた。
「ミシェルは好奇心旺盛だし、この世界によくなじんでるのに、時々妙な所で、異世界の人が出てきて、とてもおもしろいよね」
カロンによると、元の世界のイチゴ的な存在の、女子力高めのニュアンスのフルーツらしい。まあ綺麗だとは思う。
白と紫の色のコントラストなんて、上品だと思うよ。とっても。
「だって・・どうみてもイモムシじゃない」
上品な、白い硬いダンゴムシみたいな殻を割ると、透明感のある白い、クリーム色をした、弾力のある果肉がはじけてくるのだが、これがどう見ても、イモムシだ。キモイ。
尚、この時期の、この木の幹の皮を煮詰めた液体で染められた染物は、高位魔術師のローブに使われるとか。
秋のお中元?お歳暮?的なもので、秋染めのローブを、毎年この時期に、師弟関係にある魔術師に贈るのが、この国のならわしなんだと。
異国の習わしはよくわからないが、この色は、とても綺麗だ。
秋口の夕暮れの空みたいで、ちょっと切なくなる色。
そういう訳で、今日の依頼者は、なんと、ダンテだ。
「ミシェル、私からの依頼だ。ちょっと力を貸して差し上げてほしいお方が、いる。頼まれてくれないか」
秋染めの美しい、紫のローブがダンテの元に職人から届けられると、ため息まじりに、憂鬱そうに、ダンテはミシェルに言った。
ダンテがミシェルに頼み事をするなんて。
「ダンテが?いいけど、誰?」
別に頼まれるのが嫌なのではないが、この男は、絶対にミシェルに貸しを作りたくなさそうなタイプだ。
どうしたんだろう。
ダンテは、ローブのついでに、同じ染料で染めた、綺麗なショールをミシェルに頼んでくれたらしい。
きれいに染め上がったショールを、ミシェルに渡してくれて、ミシェルは大喜びだ。
このショールには、濃紺のワンピースがよく合うと思う。
ダンテは、ミシェルがショールを気に入った事がうれしかったのか、少し気分がよくなったらしい。
少しだけ口角をあげたが、すぐに不愉快そうに眉をひそませて、
「うん、助かる。見てほしいのは、私の魔法立法史の師匠なのだが、かなり高齢の女性だ。あまり異性との関係が上手く行っていないとかでな・・」
そう、言葉を切った。
あまり、らしくない。
察するに、おそらくこちらをチラチラ伺っているカロンの前で、言いたくない、内容なのだろう。
大丈夫、分かった、と軽くうなずいて、ミシェルも突っ込まない。
だが。
ダンテの師匠。
しかも女性。
おもしろそうではないか。
好奇心むき出しで、ワクワクがとまらないミシェルと、なんだか憂鬱そうなダンテ。
ダンテは、大きなため息を吐いて、
「まあ、おおよその所は、馬車で説明するから、外出の準備をしてくれ」




