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セイは少し顔をしかめると、実に明るい声でこういったのだ。
「ええ、ミシェルさん、どうしてだか、私の部下たちは皆堪え性がなくて、少しきつく言うと、すぐにやめてしまうのですよ。そして、私をすぐに上に訴えて、私の仕事をできなくするんです。ひどいでしょう?」
「本当に、逆恨みにはとても迷惑をしているんです。この間なんて、新しくはいった若い女の魔術師がいたのですが、心を病んだとかで領地に帰って家から一歩もでられなくなってしまったらしいんです。割と力のある実家から来ていたものだから、かなり彼女の実家と、婚約者の実家からものすごく圧を受けてしまって、今は仕事を休職せざるを得なくなってしまいました。いやはや本当に困っているんです。ミシェルさん、何か対策があるのであれば、是非占ってください」
ニコニコと、その人が良さそうな美しい笑顔を浮かべたまま、そんな事をのたまうのだ。
全く自分が加害者であるという、自覚はないらしい。
ダンテとカロンとミシェルは、お互いの顔を見合わせて、恐怖だ。
(これ・・世の為に、早く解決した方がよさそうね)
ミシェルがそう思うやいなや、セイの背中に、青っ洟のようなきたない濁った黄色くて、緑っぽいよどんだエネルギーがまとわりついているのが見えた。
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(きったねえなあ・・)
ものすごーく嫌だったが、ミシェルはその汚い青っ洟のようなエネルギーに、集中してみる。
ミシェルが鑑定を始めた事を察して、ダンテはサンルームに設置している香を焚きはじめ、カロンは離れまで、占いの道具を取りに走る。
セイは、静けさの中で、何かがはじまったサンルームで、興味深そうに次の展開を待っていた。
ミシェルは目を凝らして、エネルギーの正体に集中する。
(このエネルギーは、怒り・・それも、父性への怒り・・お父様か)
エネルギーは、怒りに満ちていた。
怒りのエネルギーは、古く、そして大きなエネルギーだった。
なぜだかは知らない。だが、この怒りは、父性に対する怒りである事は、ミシェルには分かった。
(怒りを通りこして、これは恨みになってるわ。恨みのエネルギーになってから、随分と時間がたって、もう温度も感じない。粘性のあるエネルギーになっているわ)
いやなエネルギーがセイの体をつつんでいる。怒りのエネルギーは、通常熱さが感じる。だが、このエネルギーは、もう温度すら失うほど古いエネルギーだ。温度を失った怒りは、粘性を持ち、そして恨みとなる。
ミシェルはしばらくの沈黙の後、切り出した。
「セイさん、あなたの周りには、怒りのエネルギーが、恨みに転化したものが浮遊しているわ。このエネルギーの大本は、父性、に感じるの。それも、随分古い思いの様子ね。貴方、何か心あたりはない?」
セイは、さきほどまでの、興味深そうな余裕のある態度から、父性、という言葉を聞くと、その美しい顔から一転、憎しみ、怒り、全ての醜い感情を吐き出したかのような、別人の顔に変貌して、吐き捨てるように、言った。
「ああ、見えるんですか。私は父の事を深く、恨んでいますからね。当然です」




