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「え、あの、ちょっと、大丈夫です?」
いきなりドバドバと鼻まで垂らして泣き始めた目の前のヒトの女に、このヒトと鳥族のハーフの女の子はものすごくびっくりでプチパニックだ。
そりゃそうだ。
「ごめん、急にこんな事になって。でも貴女の苦しみがいきなり私の中に映像として入り込んで襲ってきたのよ。ヒトとしても、鳥人としても、父の国でも母の国でも居場所が見つからないって、苦しいわよね」
ミシェルはもう、滂沱の涙でみっともなくて目も当てられない。
女の子は慌ててしまったが、ミシェルが魔女の見習いの黒いワンピースとローブを見て、(なお、これもダンテとひと喧嘩した上での装いだ。せっかく旅行に行くんだから可愛い服が着たいミシェルと、お前はカロンの身の回りの世話をする名目なのだから大人しく魔女の服を着ていろとやいやい五月蝿いダンテの喧嘩があって、最後には魔女の服を着ないなら連れて行かないと言われてしまい、仕方なく着ているのだ)
「ああ、なるほど。魔女の占いのお方なのですね。ディーテにいた時に一度ヒトの占いを見てもらった事がありました。この世にあるものとは別の次元のものが見えるといいます」
と、すんなりとミシェルのこの異常行動を納得した様子だ。現代っ子はクールだ。
他人事だというのに滂沱の涙のミシェルと違い、当事者のこの女の子は至って淡々としているもので、他人事のように自分の話を始めた。
「そうですね、居場所がないのはしんどいですね。できたら私が存在するという事が、罪にならない場所に行きたいです。本当に今は早く独立する事を願っています。あ、でも父も母も悪い人物ではないですし、それなりに愛されていると思っています。ですので、特に恨んだりとかそういう気持ちもないんですよ。ただ悲しいというか、切ないというか、なんというか」
ミシェルはまだ何にも言っていないのに、自分の身勝手な両親の事まで、先回ってこの子は庇うではないか。
それでもまだ納得していないミシェルの方を、ちょっと困ったようにこの子は見ていたのだが、うーん、と少し考えて、小さな羽をピクピクと嬉しげに動かすと、そうだ!と、
「ミシェルさんとおっしゃいましたっけ。よかったら、私を占いで見ていただけませんか?私はこの獣人の国にいる方が幸せなのか、それともディーテに帰る方が幸せなのか、それからどうやってこれから生きていけばいいのか」
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今の今まで何か言い争いをしていたダンテとカロンは、いきなりミシェルが連れて帰ったハーフの鳥族の女の子にギョッとしていたが、ミシェルは男どもには何も構わずに、さっさと占いの準備を始める。
こんな性根の優しい子を、大人達の事情で振り回して辛そうな顔をさせるなんて、ちょっとだけ自分が大人であるという自覚もないことはないミシェルは、お姉さんで力になれる事があればなんでも相談に乗ってやろう、といういつものお人好しが完全に目覚めたモードなのだ。
しかもちょっとミシェルの立場と似て無い事もない。
異世界でも、元の世界でも居場所がなかったミシェル。
背中に羽のついていないミシェルですらこれほど苦しかったのだろう、羽のついてる子のその立場はもっと、大変なのだろうことは理解できる。こんなに可愛い羽なのに、この羽がどれだけこの娘を苦しませたのだろう。
一応ディーテから持ってきていた占いの道具を、大急ぎで貴賓室のリビングのコーヒーテーブルを勝手に占領して並べて、ミシェルはやっと女の子の名前を聞く体勢に入った。